【快年童子の豆鉄砲】(その123)QFシートとは(1)社員に達成感を

  
  

 

【目次】

    1. 頑張っている社員に達成感を

    表2-1の喫緊の課題の9番目「離職率が高い」は、折角の縁があって入社した社員が、短期間で離職するという中小企業にとっては深刻極まりない課題なのですが、その背景には、数えきれない要因が存在し、最も難しい経営課題ではないかと思います。

     

    表2-1 中小企業が抱える喫緊の課題12と課題発生要因17に対する解決策の概要

     

    ここでは、その数えきれない要因のうち、普遍的で重要と思われる4つの要因を取り上げているのですが、その内の「適材適所配属がうまく行かない」「社員の育成が社員とかみ合わない」と「自己実現の場がない」 に対する解決策は、それぞれご説明いたしましたので、以降では「頑張っている社員に達成感が持てない」に対する解決手段「QFシート法」の説明に入らせて頂きたいと思います。

     

    この「QF(Quick Feedback)シート」とは、毎日所定の数量の作業(主として単純作業)を実施する作業者の作業結果を作業者本人への迅速なフィードバックにより達成感を感じてもらうためのものです。

     

    発端の詳細は後述しますが、組み立て不良が原因のクレームが多発し、受注に重大な影響が懸念される「品質管理メーカーの指定」を顧客から予告されるという特殊事情打開のための手段として採用し、絶大な効果を発揮したものですが、その背景には、マズローの5段階欲求の内の4番目「尊敬(承認)欲求」に対する充足手段としての機能が大きかったと言えます。

     

    従って、本弾の具体的説明内容に拘ることなく、その背景にある上記趣旨を読み取って頂き、ここでご紹介するQFシートの具体例を参考に、対象業務にふさわしい手段を準備して頂ければと思います。

     

    2. QFシート誕生の背景と効果

    1)連日の組み立て不良クレームで窮地に

    60人の作業者が12の組み立てラインで1日1万セットのブレーキアッセンブリーを組み立てている職場で、急激な増注への対応に追われた結果組み立て不良が多発し、各ラインでの全数検査で検出しきれない流出不良が発生し、その結果、1日1件の割合で組み立て不良クレームが発生する状態が1ヶ月続いたのです。

     

    その状態を重く見た顧客から、この状態が続くようであれば、2か月後に「管理メーカー」に指定するとの宣告を受ける事態になったのです。この管理メーカー指定は、仕入れ先品質ワースト10企業になされるもので、この指定を受けますと、毎月工場監査が入り、その対応に現場に大変な負担が発生するだけでなく、営業活動に深刻な影響が発生しますので、社内的に大問題になったのです。

     

    2)状況把握結果

    この事態を受けて、急遽組立職場の状況調査をしたところ、急激な増産対応のため多くの新人が投入された影響もあって、品質保証課から派遣されている検査員が各ラインで実施する完成品の全数検査で検出する不良が、1日数件だったのが200件に急増しており、検出し切れない不良が顧客に納入さ...

    れてクレーム発生につながっていることが分かったのです。

     

    3)要改善内容と対応策

    状況調査の結果緊急に改善すべき事項を次の2点に絞りました。

     

    ⅰ)全数検査項目が多すぎる

    全数検査項目が、クレームがあるたびに増えて、20数項目もあり、検査員は驚異的なスピードでの検査を強いられ検査ミスが起きやすい。

     

    ⅱ)作業者に対する作業結果のフィードバックがない

    作業者は一生懸命に組み立てているが、その結果は、翌月の品質保証課の月報による職場としての不良件数のみで、各作業者に対するフィードバックはクレームの時だけである。特に、ⅱ)の場合、問題なのは、作業ミスが原因のクレームの場合、クレームの内容情報が手に入るのは、原因である作業から何日か経っていますので、作業時点の状況がよく分からず、的確な対策が難しい点です。

     

    4)実施事項

    上記問題点に対してそれぞれ次のような対策を実施しました。

     

    ⅰ)全数検査項目が多すぎる → 簡易ポカヨケによる全数検査項目の減少

    取り組み対象を、組み立て不良の多くを占める下記2点に絞りました。

    • 混入した異部品の組立
    • 部品そのものは正しいが組み立て方向間違い

     

    本格的なポカヨケ治具を作っている時間的余裕がありませんので、最終検査作業であるホイールシリンダーの締め付けトルクチェックのためのセット治具に、異部品を組み付けたり、組付け方向違いの製品だと干渉する位置に、切断したベークライトの丸棒を接着剤で取り付けて、セッティングできないようにするポカヨケ対策を、大変でしたが、スタッフ総出で一日でやったのです。

     

    このポカヨケにより、目視検査項目は数件に減らすことが出来ましたので、検査制度が大幅にアップしたのです。

     

    ⅱ)作業者に対する作業結果のフィードバックがない → 終礼時にその日の作業結果をフィードバック

    特に、作業を見ていると必死で一生懸命組み立てている大部分の良品に対するフィードバックが全くないことが問題だと思ったのです。そこで、迅速なフィードバックを実現するため、「QF(Quick Feedback)シート」を図105-1の様な「作業結果票」という形で、毎日の終礼時に手渡すことにより、各作業者は、一日の作業結果を終礼時に知ることが出来るようにしました。

     

    これを作成して組立責任者が気付いたのは、作業者が一生懸命頑張り、殆どが良品だということです。その結果、今までは、不良品に対する不満の気持ちが大きかったのが、その頑張りに対する感謝の気持ちが大きくなり「備考欄への一言の記入は、大変でしたが気持ちを込めて記入しました」と言っていました。

     

    受け取った作業者の反応ですが、「作業結果票が毎週新しくなるので、不良を出した翌週は、今週はオールGで行こうという気になる」と大変好評で、効果も後述しますように絶大でした。

     

    図105-1 作業結果票

     

    あと、組み立て作業者の要望で、不良を発見したら、検査員がすぐその時点で不良発生と項目を作業者に直接知らせるようにしたのですが、これも効果を大きくしました。

     

    5)効果

    上記対策を実施した結果下記のような効果がありました。

    ・クレーム件数

    QFシート開始日以降の組み立て不良クレームはゼロになりました。

     

    ・組み立て不良数

    QFシート開始日以降の一日の組み立て不良件数は十分の一の20件になりました。ただ、不良発生後即刻作業者に連絡するようになってからはさらに数件に減り、32日後にゼロ件の日が出てからは、ゼロ件の日が半分くらいになりました。

     

    上記事例のような職場は現在ではまれでしょうから直接的に参考にして頂けないかもしれませんが、劇的な効果を生んだのは、ミスの追求に終始していた職制が、組み立て不良発生の真の原因把握と迅速な(特に、ポカヨケを一日で実施したのは効きました)対策を実施するだけでなく、必死で組み立てた大多数の良品に着目して感謝の念を作業者に伝えたという方針転換が大きかったという点は、大いに参考にして頂けるのではないかと思います。

     

    要因に対する考察から導き出したヒューマンエラーに対する取り組みの在り方について次回でご説明致しますので、参考にして頂けたらと思います。

     

     

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