革新的テーマを継続的に創出するための「中立要因」(前)

 

 

 

 革新的テーマを生み出し事業化する過程では、通常業務の合間を縫って、数多くの革新的なテーマを継続的に創出していかねばなりません。そのため、研究開発担当者へはさまざまな働きかけを行っていく必要があります。テーマを継続的に創出しないと研究開発担当者が困る状況を創出する「ネガティブ要因」、テーマを創出することで研究開発担当者が充実感を感じる状況を創出する「ポジティブ要因」がありますが、ここでは「中立要因」として、2回に分けテーマを創出し事業化する過程での阻害要因を取り除くことについて議論します。

◆関連解説『ステージゲート法とは』

 

1.革新的テーマを創出する過程での阻害要因を取り除く

 革新的テーマを創出する過程に生じる阻害要因として、社員や経営者のテーマ創出活動に対するコミットメントや時間が足りないことが挙げられます。この場合、阻害要因を取り除く方針として次の二つの活動が考えられます。

 A.研究開発担当者自身にテーマ創出を割り当てる

 B.研究開発担当者以外にテーマ創出を任命する

 

1.1 テーマを創出する時間を用意する

 研究開発担当者は、目の前にあるテーマの成果を生み出すことに忙殺されています。そこで、限られた時間でも、これらの緊急度の高い業務から公式に彼らを解放し、革新的テーマ創出に思いを巡らし、また顧客を『五感』で感じ、また市場を俯瞰するため、一見彼らの通常業務には無駄に思えるような時間を与える必要があります。 

 この方法は、「全員での取り組み」によってもたらされます。多くの頭脳を活用するため、個人では到底実現できないような膨大で多様な知識に基づきテーマを創り出し、量的にも質的にも優れたテーマを出すことができます。 

1.2 テーマを創出するための専任スタッフを任命する

 緊急度の高い業務への関心やコミットメントがあまりに高い環境下では、テーマ創出に注力できる専任スタッフを置くというのも一つの方法です。このような体制は、日本企業にも見られます。

 専任スタッフ体制においては、1.1の方法と異なり、数多くの頭脳や多様な知識を使えないデメリットがあります。それを補うため、専任スタッフが他の研究者達と積極的に接点を持ち、テーマ案についてのインタビューを行うこと、研究者のアイデア創出セッションをファシリテートする方法によって、専任スタッフの頭の中に、社内の数多くの人たちのテーマに関わる知識やアイデアのエッセンスを大量に蓄積し、蓄えた知識を融合させること(スパーク)によってテーマを創出する方法があります。

 もちろん、実施できるインタビューやアイデア創出セッションの数は限定的ですし、その時点での社員の知識に基づくものでしかありません。しかし、一時的であれば、社員もテーマ創出に時間を供出してくれるはずですので、多様性を担保するための有効な方法ではないかと考えられます。

 なお、この場合、専任スタッフが最終的にテーマを創出する責任を負うことになります。このような役割を担う専任スタッフをローテーションとすることで、組織的な知識の共有やセンスを持つ人材の育成にも結びつけることができます。 

1.3 経営者自らがテーマ創出活動へ関与する

 経営者が自らテーマ創出を主体的に行っている企業は少なくありません。テーマは継続的な自社の収益を生み出す源のため、中小企業などでは、全てのアイデアを経営者が負っている例も珍しくありません。

 中小企業ではテーマを継続して創出する人材が不足していることから、経営者はテーマ創出に対し、極めて高い関心を持っています。また、経営者は長年経営の経験があるため、市場・顧客や技術についての知識は豊富ですし、これらを俯瞰的に見る能力を身に着けています。

 一方、経営者自らがテーマ創出活動へ関与することで、他の社員が経営者頼みとなり、自分からテーマを出さなくなる悪循環があります。この問題に対処するため、社員が創出したアイデアに、経験豊富な経営者がアイデアを付加させ、より良いテーマに進化させたり、新しいテーマに転化させたりすることが考えられます。あるいは、起案者に有用なヒントを与えて更に考えさせる活動も有効です。ここで重要なのは、基本となるテーマはあくまでも社員に創出させ、そこに経験豊富な経営者の知見を加えることです。

 経営者だけでなく、日々市場の現場に触れ、また総体として多様な情報を持っている複数の社員の頭脳を使うメリットには計り知れないものがあります。実際、超高収益で有名なキーエンスや最近メディアの話題にのぼることの多いアイリ...

スオーヤマなどでも、経営者が積極的にテーマ創出に関与しています。 

1.4 マーケティングスタッフを配置する

 研究開発担当者の仕事として、マーケティング活動(市場との接点を持って『五感』で市場を理解する)を自ら行うことは極めて重要で、積極的に行わなければなりません。しかし現実には、研究開発担当にとって、目の前のテーマで成果を出すことに対するプレッシャーは極めて大きなものがあるのも事実です。

 このため、研究所などには、市場知識を収集する一部を担う機能として専任のマーケティングスタッフを置くのも一つの方法です。このようなスタッフを置く企業は、少なからず存在します。

 ここで注意したいのが、マーケティングスタッフも当然市場を知る上で積極的な活動をしなければなりませんが、間違っても、研究開発担当者に「私は研究担当、マーケティングはマーケティングスタッフの仕事」と誤解されないようにしなければなりません。

 

 次回は、革新的テーマを継続的に創出するための「中立要因」(後)です。

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