問題解決における分析、調査の有効性

 問題解決における分析、調査の有効性ですが、ここでいう分析とは例えばSEM、TEM観察、EDX、蛍光X線分析、X線回折、オージェ、ESCAなどの組成、構造解析であり、調査はクロス(入れ替え)実験などを指します。

 不良の問題解決において分析、調査は必要不可欠です。実験に先立って不良を分析したり、再現性を確認することで、不要な実験を回避し早く確実な対策を実現できる場合があります。しかし結果的に知的好奇心を満足させるだけの分析になってしまうこともあるため、注意しなければなりません。結論から言うと、分析にかかる時間がそれによって短縮される実験時間よりも長い場合はしない方が良い、あるいは分析の結果を待たずに対策実験を進めるべきです。

 例えば自部門にある光学顕微鏡ですぐ観察できる場合は実施すべきでしょうが、社外の業者に依頼する場合や社内でも分析器が混雑していて何日も待つ場合などは、分析結果を3通りほど仮に想定し、それらに対する改善策をそれぞれ数種類ずつ実験によって評価する事を考えた方が効率的です。なぜなら分析結果がはっきり得られた場合であっても、対策が自明になることは保証されず、その結果を元にさらに対策効果の実験が必要となる事がほとんどだからです。

 またクロス実験も問題の発生原因の糸口を見つける手立てにはなりますが、不良発生の条件が見えたとしてもそれ自体は解決策にならず、次のステップで解決するための因子を探すことになります。それであれば分析、調査で予想される2,3の結果それぞれについて対策、解決するための制御因子を考え、評価実験をする方が1ステップ分早く進みます。

 当然評価すべき要因が多くなると従来方法では時間がかかりますが、直交表や品質工学をうまく活用すれば実験評価にかかる時間、コストを節減することができます。

 例1:
ガラス上のAl電極部にショートが発生したため不良部分を顕微鏡で見たところ、黒い異物が見つかった。1日かけてEDX分析したところその部分にはAlとSiとOとCが検出された。SiとOはガラス成分と思われるので、現像時のレジスト上か電極エッチング時のAl上に何らかの汚れが強く付着し処理を妨げたと仮定し、これらを除去する対策を4種類評価した。

 例2:
ガラス上のAl電極部にショートが発生したため不良部分を顕微鏡で見たところ、黒い異物が見つかった。ここで異物の組成を分析の結果を①Cr、②Al、③Cの3ケースで想定し、それぞれに対して3通りの対策要因を考案し、直交表L12に割り付け実験したところ、Alエッチング後の洗浄が最も寄与率が高く、2番目がベーキング時間だった。この結果から異物はおそらく②もしかしたら③と考えられ、工程条件...

を異物が少ない水準に設定した。

 例2の場合異物の正体は確定できません。報告書を見る人(上司?)によっては納得しないかもしれませんが、不良が少ない工程条件は得られています。今回の原因以外の因子まで含めて複合実験を行っているため、適用範囲の非常に広い結果になっていると考えられます。
 「真理」より「早く安定した条件」を追求する好例といえます。

 分析、調査を全面的に否定するものではありません。 特に有効な制御因子のネタが尽きてきた時の観察、分析は、大いに発想を膨らませることがあります。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者