マルテンサイトの結晶構造・TTT曲線:金属材料基礎講座(その96)

 

 

1. マルテンサイトの結晶構造

 マルテンサイトはオーステナイトを急冷させて得られる組織であり、硬さや微細組織以外にも色々な特徴があります。

 マルテンサイトの特徴の一つに結晶構造があります。通常、フェライトは体心立方格子ですが、炭素が侵入しているため、マルテンサイトの結晶構造は縦長の体心正方格子となります。体心立方格子と体心正方格子の比較を図1に示します。この時、マルテンサイトの炭素量が多くなるほど、結晶構造は縦長になります。

 

図1.マルテンサイトの結晶構造

 

 このような結晶構造の変化のためにマルテンサイト組織になると、材料としては体積膨張が起きます。

 

2.TTT曲線

 鋼のマルテンサイト変態を時間と温度に対して定量的して表したものがあります。鋼のオーステナイト温度からある温度まで冷却して保持した時の変化をグラフ化したのがTTT曲線(Time Temperature Transformation curve 等温(恒温)変態曲線)です。TTT曲線を図2に示します。これらグラフで表記される記号は以下のとおりです。

 

図2.TTT曲線

 

 

 開始とはその組織があらわれ始める温度や時間を表します。終了とは全てその組織になることを表します。例えばMsはマルテンサイトがあらわれ始める温度や時間を表し、Mfは完全にマルテンサイト組織になる温度や時間を表します。また、PsとBs温度の間にある張り出した部分をノーズといいます。冷却速度が早ければ、ノーズを通らずにオーステナイトからマルテンサイト変態が起きます。しかし、冷却速度が遅ければマルテンサイトが現れる前にパーライトやベイナイトが現れます。そうなると焼入れが不完全になり、硬さも低下します。

 Ps、Pfのパーライト領域でも、温度が低いほどパーライト組織が微細になります。そしてBs、Bfのベイナイト領域では温度が高い場合、上部ベイナイト、温度が低いと下部ベイナイトと...

呼びます。上部ベイナイトは羽毛状の組織、下部ベイナイトは針状の組織となります。パーライト、ベイナイトともに変態温度が低く、組織が微細な方が硬さも高いです。

 パーライトとベイナイトは時間をかけて変態が完了しますが、マルテンサイト変態は時間をかけるのではなく温度が低下することによって変態が完了します。

 

 次回に続きます。

 

◆【関連解説:金属・無機材料技術】

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者