HAZOPとは? ~ 実施と活用のポイント~

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HAZOP

 

 HAZOPを解説する前提として、最初にリスクについて考えましょう。「リスク」は「危害や危険な事象が発生したときの重大性(影響度)」と「危害や危険な事象の発生の可能性(発生度)」の組み合わせとなり、組織が決定したリスク評価基準とその「影響度」の評価結果、「発生度」の評価結果(影響度や発生度の評価基準も決定する必要もあります)を組み合わせた結果と照らし合わせ、リスクを評価し、対策の必要性及び対策の優先順位を決定する必要があります。

 適切にリスクマネジメントを行うためのポイントの一つに「影響度」及び「発生度」についての評価があります。いくら「ハザード(危害や危険な事象の源)」を特定し、「危害」や「危険な事象」について網羅的に洗い出したとしても「影響度」の評価を誤る、または意図的に低くしてしまっては適切なリスク評価はできません。

 「影響度」の評価は自社の過去事例だけでなく、他社の事例、生命、身体への影響、製品やサービスへの影響、法規制に対しての影響、顧客や利害関係者の影響、組織の事業や活動への影響など幅広く考慮して影響度を評価する必要があります。

 また「発生度」の評価についても同様のことがいえます。「発生度」については、どの位の頻度で発生するのかといった評価が難しい内容もあります。「起こり得る危害や事象ではあるが、どの程度のレベルで発生するのか分からない」といった発生の程度の評価が難しい場合は「その危害や危険な事象は必ず発生するもの」とし、「影響度」で評価されると良いでしょう。

 

♦ HAZOPとは

 HAZOP(Hazard and Operability Studies)手法とは、1960年代、英国のICI社が新規化学プロセスを開発する際に安全を確保するために、設計意図と異なる状態の発生を網羅し、それらの影響・結果を評価分析して、必要な安全性評価と対策を取るために考え出した手法です。 その進め方は標準ガイドワード(誘導語)を使うことで、効率的に想定外の事象に誘導して危険源を洗い出すことが可能であり、電気、情報、医療など化学以外の分野でも利用が進んでいます。

 化学プラントのセーフテイ・アセスメント:プロセス安全性評価において「第3段階の危険度ランクが1のプラントについては、プロセス固有の特性等を考慮し、HAZOP,FMEA手法等により、潜在危険の洗い出しを行い、妥当な安全対策を決定する。」という形で通達もでています。

 化学プラントは、設計意図どおりの状態を維持できれば「安全」です。一方、設計意図とは異なる状態「ずれ」が発生すれば事故につながります。よって、想定できる「ずれ」を事前に把握し「ずれ」の発生自体を防止するか、あるいは「ずれ」から危険な状態や事故への発展を阻止すれば、プラントの安全は維持できます。という思想がHAZOPの起点です。

 HAZOPとはシステム工学的手法の一つで、化学プラントを対象とするリスク評価・安全性評価を目的に開発された手法です。ここでシステム工学的手法とはシステムを構成するモノ、設備、人が、事故原因や危険因子としてどのようにかかわってくるか、どのような結果に繋がるか、どのような対策が必要かを体系的に考える手法のことです。

 システム工学的手法にはHAZOPの他に特性要因図、FTA、FMEAなどが知られています。このなかでHAZOPはシステムの状態変位に対して、構成要素のかかわり方を知るのに有効な手法です。

1. HAZOPとは: HAZOPの概要

 HAZOPは、潜在危険性の特定する際に、抜け・漏れがないように11語のHAZOPのガイドワード(表1)とプロセス運転条件(管理項目)を組み合わせ、通常状態との「ずれ」に着目します。例えば温度や圧力、流量、時間などの特性を表すパラメータ(管理項目)に対して、それが適切な値から「ずれ」た場合の影響がどのような良くない結果につながるのかを体系的に解析できます。

表1 HAZOPガイドワード

HAZOP

2. HAZOPとは:HAZOPの特徴

 HAZOPの特徴を以下に示します。

  • ガイドワードを使って設計意図,利用意図からの「ずれ」の洗い出しが可能
  • システムの状態変位に対して、構成要素のかかわり方を知るのに有効
  • 体系的に解析を進める構造化されたブレーンストーミング法
  • 単一事象の故障/トラブルの解析に適用(複合事象による事故には使えない)
  • 網羅的に検討を進めることができるため、解析に時間を要する一方で、潜在的危険性を見落とす可能性は極めて少ない
  • プロセス異常に対するイメージトレーニングのツールとしても有効
  • FTAのトップ事象の選定に有効

3. HAZOPとは:HAZOPの具体例

 まず、パラメータに対して「ガイドワード」と呼ばれるシンプルな言葉を使って、ガイドワードの示す想定に回答しながら解析していきます。例えば、ガイドワード「ない(No/None)」とか「多い(More)」などを、パラメータごとに当てはめ、適切な値からずれた場合の原因を想定します。

 次に、原因が抽出できたらプラントに対してどのような良くない結果につながるか影響を検討します。故障などのエラーを放置した時に想定される結果、潜在な危険性を想定することが重要です。

 さらに現在、異常発生時に事故や危険事象に進展させない影響緩和策や防護策があるかを確認し、ない場合はどのようなアクションが必要かという検討へ移行します(表2)。

表2 HAZOPワークシートの例

HAZOP

 このガイドワード方...

HAZOP

 

 HAZOPを解説する前提として、最初にリスクについて考えましょう。「リスク」は「危害や危険な事象が発生したときの重大性(影響度)」と「危害や危険な事象の発生の可能性(発生度)」の組み合わせとなり、組織が決定したリスク評価基準とその「影響度」の評価結果、「発生度」の評価結果(影響度や発生度の評価基準も決定する必要もあります)を組み合わせた結果と照らし合わせ、リスクを評価し、対策の必要性及び対策の優先順位を決定する必要があります。

 適切にリスクマネジメントを行うためのポイントの一つに「影響度」及び「発生度」についての評価があります。いくら「ハザード(危害や危険な事象の源)」を特定し、「危害」や「危険な事象」について網羅的に洗い出したとしても「影響度」の評価を誤る、または意図的に低くしてしまっては適切なリスク評価はできません。

 「影響度」の評価は自社の過去事例だけでなく、他社の事例、生命、身体への影響、製品やサービスへの影響、法規制に対しての影響、顧客や利害関係者の影響、組織の事業や活動への影響など幅広く考慮して影響度を評価する必要があります。

 また「発生度」の評価についても同様のことがいえます。「発生度」については、どの位の頻度で発生するのかといった評価が難しい内容もあります。「起こり得る危害や事象ではあるが、どの程度のレベルで発生するのか分からない」といった発生の程度の評価が難しい場合は「その危害や危険な事象は必ず発生するもの」とし、「影響度」で評価されると良いでしょう。

 

♦ HAZOPとは

 HAZOP(Hazard and Operability Studies)手法とは、1960年代、英国のICI社が新規化学プロセスを開発する際に安全を確保するために、設計意図と異なる状態の発生を網羅し、それらの影響・結果を評価分析して、必要な安全性評価と対策を取るために考え出した手法です。 その進め方は標準ガイドワード(誘導語)を使うことで、効率的に想定外の事象に誘導して危険源を洗い出すことが可能であり、電気、情報、医療など化学以外の分野でも利用が進んでいます。

 化学プラントのセーフテイ・アセスメント:プロセス安全性評価において「第3段階の危険度ランクが1のプラントについては、プロセス固有の特性等を考慮し、HAZOP,FMEA手法等により、潜在危険の洗い出しを行い、妥当な安全対策を決定する。」という形で通達もでています。

 化学プラントは、設計意図どおりの状態を維持できれば「安全」です。一方、設計意図とは異なる状態「ずれ」が発生すれば事故につながります。よって、想定できる「ずれ」を事前に把握し「ずれ」の発生自体を防止するか、あるいは「ずれ」から危険な状態や事故への発展を阻止すれば、プラントの安全は維持できます。という思想がHAZOPの起点です。

 HAZOPとはシステム工学的手法の一つで、化学プラントを対象とするリスク評価・安全性評価を目的に開発された手法です。ここでシステム工学的手法とはシステムを構成するモノ、設備、人が、事故原因や危険因子としてどのようにかかわってくるか、どのような結果に繋がるか、どのような対策が必要かを体系的に考える手法のことです。

 システム工学的手法にはHAZOPの他に特性要因図、FTA、FMEAなどが知られています。このなかでHAZOPはシステムの状態変位に対して、構成要素のかかわり方を知るのに有効な手法です。

1. HAZOPとは: HAZOPの概要

 HAZOPは、潜在危険性の特定する際に、抜け・漏れがないように11語のHAZOPのガイドワード(表1)とプロセス運転条件(管理項目)を組み合わせ、通常状態との「ずれ」に着目します。例えば温度や圧力、流量、時間などの特性を表すパラメータ(管理項目)に対して、それが適切な値から「ずれ」た場合の影響がどのような良くない結果につながるのかを体系的に解析できます。

表1 HAZOPガイドワード

HAZOP

2. HAZOPとは:HAZOPの特徴

 HAZOPの特徴を以下に示します。

  • ガイドワードを使って設計意図,利用意図からの「ずれ」の洗い出しが可能
  • システムの状態変位に対して、構成要素のかかわり方を知るのに有効
  • 体系的に解析を進める構造化されたブレーンストーミング法
  • 単一事象の故障/トラブルの解析に適用(複合事象による事故には使えない)
  • 網羅的に検討を進めることができるため、解析に時間を要する一方で、潜在的危険性を見落とす可能性は極めて少ない
  • プロセス異常に対するイメージトレーニングのツールとしても有効
  • FTAのトップ事象の選定に有効

3. HAZOPとは:HAZOPの具体例

 まず、パラメータに対して「ガイドワード」と呼ばれるシンプルな言葉を使って、ガイドワードの示す想定に回答しながら解析していきます。例えば、ガイドワード「ない(No/None)」とか「多い(More)」などを、パラメータごとに当てはめ、適切な値からずれた場合の原因を想定します。

 次に、原因が抽出できたらプラントに対してどのような良くない結果につながるか影響を検討します。故障などのエラーを放置した時に想定される結果、潜在な危険性を想定することが重要です。

 さらに現在、異常発生時に事故や危険事象に進展させない影響緩和策や防護策があるかを確認し、ない場合はどのようなアクションが必要かという検討へ移行します(表2)。

表2 HAZOPワークシートの例

HAZOP

 このガイドワード方式が有効な理由は、単に特性を表すパラメータ(管理項目)を「温度」として眺めるだけでは「高い(More)」「低い(Less)」という事象しか思い浮かびませんが、ガイドワードに「繰返し(Reverse)」があった場合、温度の繰り返しとは何だろう、制御弁のON/OFF逆転はないかなど別の事象を考え出すきっかけにもなり、いわゆる想定外を減らすことができます。

4. HAZOPとは:HAZOP実施時のポイント

  • 保全、設計、オペレーター、品質保証などさまざまな専門家を集めて、フラットな意見を取り入れること
  • 生産部門だけが解析する場合、思い込みでリスクの大きさやシナリオの種類を決めつけてしまう可能性がでてきます
  • 網羅性を高めることが重要です。他人の意見を批判せず、質より量でできるだけ多くのアイデアを出し、そこから新しいアイデアを連想・結合・発展させます
  • ガイドワードは、業種・業態ごとに異なりますので、必ず11語全て使う必要はなく、事前にある程度定めておくことが重要です

 最後に、HAZOPは高度なワークシートの作成が目的ではありません。身の丈レベルから始め、仲間とのコミュニケーションを通して改善につなげていくことが最も重要です。人材が流動的になりつつあるこの時代こそ、検討は言語化して暗黙知から形式知化していきましょう。

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この記事の著者

鈴木 孝

安全・品質で悩む工場長への解決策アドバイザー

安全・品質で悩む工場長への解決策アドバイザー