目的やゴールを達成するためのプロセス 顧客の声から顧客の価値へ(その2)

【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】

  1.  ボイス・オブ・カスタマー
  2.  目的やゴールを達成するためのプロセス
  3.  顧客フィードバックの重みとは
  4.  顧客満足度と顧客ロイヤルティ
  5.  「顧客満足度」の調査
  6.  顧客満足度を高めるためのアクション
  7.  VOCについて、Q&Aの形式で
  8.  VOCの第三段階、市場における企業価値の向上
  9.  品質ギャップ分析とは
  10. パワー・ブランドによる市場の独占

 前回は、VOCはボイス・オブ・カスタマーというよりもバリュー・オブ・カスタマーであり、顧客が知覚する価値を理解するための方法論であり、またツールやノウハウの塊であることを記しました。そして顧客が知覚する価値を企業が提供し、VOCを企業の成長に活かす道具とするまでには幾つかの段階があることを記しました。今回はその最初の段階について説明します。

 第一段階では「お客様の声」という顧客からのフィードバックを使って、提供している製品やサービスの品質を向上させることを目指します。なぜなら顧客が求めている価値を提供できるようになる前に、まずは今提供している製品やサービスの品質レベルを顧客が満足するレベルにまで近づけることが必要だからです。「お客様の声」にはプラス(賞賛)のフィードバックとマイナス(非難)のフィードバックの両方がありますが、提供する製品やサービスの品質レベルを上げることが目的ですので、ここではマイナスのフィードバックについてだけ取り上げます。

1. 目的とゴール

 VOC第一段階の目的は、「お客様の声」を使って、提供している製品の不良品を減らすこと、提供しているサービスのクレームを減らすこと、提供している製品やサービスの品質管理を改善することです。そしてVOC第一段階のゴールは、実行可能な改善ニーズを優先順位と供に把握して、責任部署や担当者に提案することです。(そして責任部署や担当者は改善ニーズを基にしてリーン改善プロジェクトやシックスシグマ・プロジェクトを開始します)

 提供する製品やサービスの品質向上

 目的やゴールを達成するためのプロセスは以下の通りです。

(1)「お客様の声」の収集

 まず「お客様の声」を集めます。「お客様の声」は計画的に設計されたアンケート(サーベイ)調査のようなものではなく、顧客が自由に書ける「意見書」のようなものです。企業の規模や業務形態に適した最も効果的な方法を使って、できるだけたくさんの「お客様の声」つまり顧客フィードバックを集めます。

(2) 顧客フィードバック情報データベースの構築

 自由に書かれた顧客からの意見を理解できる形に翻訳します。また顧客フィードバックを適切な区分と項目に分類します。そしてそれらの情報を管理するための顧客フィードバック情報データベースを構築します。(「お客様の声」を基に作られた顧客フィードバック情報データベースは、サーベイや購買履歴情報を基に作られた顧客情報データベースとは異なります)

(3) 数値化と優先順位の決定

 顧客フィードバック情報を数値評価して、個々の顧客フィードバックに優先順位を与えます。そのための評価項目や重み付けも決定します。またパレート図やトレンド・チャートなどの図表を使って、顧客フィードバックを表現します。

(4) 製品やサービスの品質向上のためのアクション

 顧客フィードバック(改善ニーズ)の優先順位に従って、リーン改善プロジェクトやシックシグマのプロジェクトを開始します。プロジェクトでは顧客情報データベースなども使ってさらに詳細な顧客分析を行います。

 品質向上アクションまでの流れ

2. 翻訳ワークシート

 計画的に設計されたアンケート(サーベイ)調査とは異なり、顧客は「お客様の声」に自由に自分の意見を自分の言葉で書くことができます。顧客が書いた一つの文章の中にはいくつもの意見がまとまって書かれていたり、主語がなかったり、意味が不明瞭であったり、様々です。そのため翻訳ワークシートを使って「お客様の声」を社内で理解し共有できるように翻訳します。意味の解釈と分類が目的なので、初めから詳細かつ正確に翻訳する必要はありません。なぜなら後に開始される改善プロジェクトの中で詳細かつ正確な分析を行うからです。また「お客様の声」の中から潜在的な顧客要求やニーズを見つけ出して翻訳ワークシートに記しておきます。具体的な問題解決方法を記す必要はありません。具体的な問題解方法も同様に、後に開始される改善プロジェクトの中で検討されるからです。この翻訳ワークシートは後に顧客フィードバック情報データベースの入力エントリとして使われます。

 翻訳ワークシート

3. 分類区分とその項目

 翻訳ワークシートに記載するとき、分類リストを別途用意しておくと便利です。VOCの発展段階が進むと、顧客が知覚する価値に応じた分類区分を使うようになりますが、まだ現段階では組織が理解やすく行動に移しやすい分類区分を使います。例えば分類区分を組織構成と同じにすることで、改善プロジェクトを実行する時の責任者が明確になります。また分類項目を製品やサービスの機能別に設定することで、改善すべき機能(プロジェクトの範囲)が明確になります。また分類項目は客観的に数値評価できるものを使えば、後に行う重み付けやFMEAなどでも使えます。
4. 20-30ルール

 あまりにも分類区分や項目が細かくて数が多くなると、優先順位付けが難しくなります。後にパレート図を使いますが、項目数が多過ぎると頻度(Y軸)が薄く分散してしまい、優先する項目が分からなくなってしまいます。また翻訳ワークシートを使って顧客フィードバックを分類する時も、時間も長くかかってしまうだけではなく、間違いが多くなってしまいます。そこで分類区分や項目は多くても20から30までを上限とします(20-30ルール)。

分類区分とその項目

5. 顧客フィードバック情報データベースの構築

 「お客様の声」を翻訳しながら顧客フィードバックを分類した後は、その情報を使って顧客フィードバック情報データベースを構築します。このとき気をつけることは、データを階層化(Stratification、またはメタ・データ化)しておくことです。下の例では、一つの文章で書かれた「お客さまの声」の中に二種類の異なった内容が含まれていたので、一つの「お客さまの声」から二つのデータを登録しました。データを階層化しておくと、後の分析が格段にやり易くなります。
データ項目については、分析の目的や方法に応じて順次追加していきます。

6. ソフトウェアと自動化(オートメーション)

 一般的なデータ解析や統計処理は、まとまったデータを使って一度に分析をしてレポートを作成します。しかし「お客様の声」やアンケートなどはそれとは違い、何時でも何度でもデータが繰り返しやってきます。定期的に同じアンケートを実施することもしばしばあります。そのたびに手作業でデータを分析してレポートを更新していては大変です。少しでも手作業を減らして分析やレポートの更新が自動的に行えるように、顧客フィードバック情報データベースを構築する際は、オートメーション化ができるソフトウェア・システムを選びます。幸いなことに、高価な専用ソフトウェアを使わなくても、マイクロソフトのオフィス365を使えばオートメーション化が簡単にできます。例えば

 顧客フィードバック情報データベースは後に様々なプロジェクトで複数のユーザーによって同時に使われることもあるので、データベース構築の際はデスクトップアプリケーション(エクセルなど)による単体ファイルではなく、ネットワーク利用に対応したソフトウェアを使うことを検討します。

 顧客フィードバック情報データベース・システム

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7. パレート図

 品質管理の中で最も頻繁かつ最初に使われるツールといえばパレート図ではないでしょうか。パレート図は「QC7つ道具」の中にも含まれているので、ここでは説明はいらないと思います。
パレート図は顧客フィードバック(改善ニーズ)に優先順位をつけて、アクション(改善プロジェクト)を起こすために使います。なぜ優先順位をつけなくてはならないのかというと、企業には限られた資源(人・モノ・金・時間・情報)しかないため、優先順位の高い改善プロジェクトから先にその限られた資源を割り当てるためです。優先順位を決める基準をここでは最も単純に「頻度の多い顧客フィードバックほど重要なフィードバック(ニーズ)」であるとし、最も頻度の多い項目から先に改善プロジェクトを開始していきます。階層化した顧客フィードバック情報データベースを使えば、様々な切り口からパレート図を作ることができます。

 例えば全組織を対象(区分)として各部署を項目としたパレート図を作れば、顧客フィードバックが多い部署ほど改善ニーズが多く、その部署から先に改善プロジェクトを始めないといけないことが分かります。同様に製品開発部を対象(区分)として各機能を項目としたパレート図を作れば、顧客フィードバックの多い機能ほど改善ニーズが多く、その機能から先に改善プロジェクトを始めないといけないことが分かります。

 パレート図

8. その他のグラフ

 顧客フィードバック情報データベースに登録年月日や対策開始日・完了日といった日付データ項目があると、顧客フィードバックのトレンドを表示することができます。顧客フィードバックに時期的な変動があるのか、対策の実施は進んでいるのか、対策期間はどれくらいの長さなのか、など違った視点から顧客フィードバックを分析することができます。

 

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