市場の先にまで光を当ててくれる顧客の活用

1.ライトハウスカスタマーとは?

 ライトハウスカスタマーとは、あまり聞きなれない言葉かもしれません。lighthouseは、灯台の意味であり、ライトハウスカスタマーとは、灯台顧客と訳すことができます。つまり、市場の先にまで光を当ててくれる顧客のことを言います。

 実は同じ顧客を意味するイノベーターという用語があり、こちらがより一般的に知られているのですが、この時間軸の面をより良く表現しているので、ここではライトハウスカスタマーを使っています。

 マーケティングでは良く顧客を3つに分けます。新しい製品が市場に出ると真っ先に買う顧客を、アーリーアダプター、アーリーアダプターの間でその製品が評判を得るようになると追随して買う顧客をフォロアー、そして市場でその製品がかなり一般的になってから買うようになる最後の顧客をラガードといいます。しかし、この最初のアーリーアダプターの前には、数は他のグループに比べて格段に少ないのですが、ライトハウスカスタマーと呼ばれる、その製品が出る前から、自分たちのアイデアに基づき製品を自作したり、既存品を改良したりする人・企業がいます。

 ライトハウスカスタマーは、まさにその製品分野についての自分たちの満たされないニーズを認識し、なんとかそのニーズを満たそうと独自で研究をしている人たちなのです。このような人との間でなんらかのインターアクションを行なうことは、「市場の」潜在ニーズを捉える上で有効です。

 

2.ライトハウスカスタマーの例

 実際、ライトハウスカスタマーとはどのような人・企業なのでしょうか?ノーベル賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんの著書の中に、ライトハウスカスタマーの説明がありましたので引用します。

 「国内では行き詰ってしまったため、海外にまで活動範囲を広げました。そのころは、海外のほうが私たちの成果に対する評価が高かったため、欧米の研究機関から、引き合いがいくつも寄せられていました。そのなかでも、米国のシティ・オブ・ホープ研究所にひとり、単に関心を持つだけでなく、真剣に購入を検討してくださった方がいらっしゃいました。免疫学者のテリー・D・リー先生です。先生は、研究の質の高さに定評があったのは当然ですが、まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す技術とセンスで有名でした。」(出所:「生涯最高の失敗」(朝日新聞社)、田中耕一著)

 このテリー・D・リー先生が、まさにライトハウスカスタマーです。 他の例としては、牧野フライスというライトハウスカスタマーが、当時の富士通にNCの開発を依頼したのがファナックのNC事業のきっかけになったという話があります。またソニーの大賀さんは、まだベルリン音楽大学の学生で会ったときから、ソニーのテープレーコーダーについて、あれこれコメントをソニーに送っていたそうです。大賀さんはそんなこともあり、盛田さんに強く引っ張られてソニーに入社したという逸話がありますので、大賀さんもライトハウスカスタマーと言えるでしょう。

 

3.ライトハウスカスタマーをどう活用するか?

 ライトハウスカスタマーは、ユーザーの立場で自社の製品の先を示すようなニーズを認識し、かつ自社の製品分野のことを大変良く理解している顧客です。単に、インタビューするだけでは大変もったいない顧客です。

 このようなライトハウスカスタマーとの共同によるアイデア創出や、更に踏み込んで共同での研究開発など両者で積極的にインターアクションを行うことが大事です。前者のアイデア創出については、複数のライトハウスカスタマーを対象としたフォーカスグループインタビューやアイデア創出セッションの開催が有効です。このように複数のライトハウスカスタマーを集めて議論することで、ライトハウスカスタマー同士が化学反応を起こし、1+1が10にも20にもなることが期待され、通常の顧客を対象とした場合にくらべ格段に高い成果を得るこことができます。

 

4.ライトハウスカスタマーをどう探すか?

 よくステージゲート法のセミナーなどでライトハウスカスタマーを説明すると、どうライトハ...

ウスカスタマーを探すのかという質問を受けます。

 既にその分野で活動をしているのであれば、ライトハウスカスタマーを見つける仕組みは既にある筈です。例えば、展示会で自社の製品に高い関心を持つ顧客や、自社製品のお客様窓口に頻繁かつ専門的な問合せをする顧客などです。つまり、顧客との接点の既存の場を利用するということです。自社の顧客との接点が質・量ともに優れていれば、ライトハウスカスタマーが向こうから何らかの形でアプローチをしてくるようになります。

 新分野でライトハウスカスタマーを見つけるには、もう少し主体的な活動が求められます。その分野でのSNSやブログでの発言、関連雑誌や新聞記事の中での紹介、学会発表、業界のテーマ別の講演会の講演者など広く情報を探索し、適任と思われる人を個人名で特定し、コンタクトをするという作業が有効です。多少時間とエネルギーは必要ですが、これらの活動に投資をする価値は十分あります。

◆関連解説『ステージゲート法とは』

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