設計FMEAを利用したヌケ・モレ対策:(株)デンソーの事例 【前編】

【目次】
     

    1.FMEAとは

    FMEA とは故障モードを抽出し、その影響を評価するモノで、設計段階で漏れなく不具合を予測、事前に手を打つための故障モード影響解析ツールです。

     しかし、FMEAを実施してもあまり役に立たないと思っている人が多いようです。役立つFMEAを実施するには、設計に関するあらゆる知識を持つ設計者が必要ですが、そのような設計者はほとんどいません。そこでFMEAをチーム活動で補填するのですが、審議者も経験重視の思いつきの指摘が多く、漏れなく不具合を予測する事が難しいからです。

     当社で発生した設計不具合を分析すると、その90%は良く知られた故障メカニズムで発生しており「気づかなかった」不具合がほとんどでした。この「気づかない」というのはヒューマンエラーではないかと考えます。言い換えると、思ってもいなかった一般的な故障メカニズムで発生する事が多く、製品固有の故障メカニズムはDR(デザインレビュー)等で審議され、事前に処置されるので発生確率も少ないのです。源流管理(フロントローディング)で、この思ってもいなかった一般的な故障メカニズムに気づいて処置をしておく事が大切です。良くない設計は消費者に迷惑が及び、大企業といえども倒産するという可能性もあります。

     そこでFMEA の活用に工夫を凝らして不具合に気付き、未然防止をする方法を確立し、成果を上げた事例を説明しましょう。

    ◆「後編」はこちら
    ◆関連解説『DR(デザインレビュー:設計審査)とは』

    2.故障モード検出の基準を上げるための道具の開発 

     ほとんどの問題は気がつけば防ぐことのできた問題です。設計や審議の過程で、過去の経験(知見)を十分生かし、心配点(故障モード)に「いかにして気付くか」が重要です。そのため一般的には、技術者の技術力アップ、しくみであるDR等の改善を実施します。しかし、それだけでは不十分なため「抜けのない心配点を抽出する」には、設計者や審議者の使いやすい道具(チェックシートのような物)が不可欠になります。

     今回開発した道具は、忙しい時でも知りたい事がすぐに探し出せ、設計者も審議者も容易に抜けの無いチェックが出来る道具です。また、これらの道具(データベースや帳票)の使用を長続きさせるコツは、使い方やどこに何を書くのかが不明な場合、すぐ注釈が見られるようにしておく事です。指導すれば良いという人もいますが、年月が経つとその内指導しなくなってしまいます。 道具の使い方や書き方が分からない場合は適当に解釈して書くか、使わなくなるのが世の常なのです。

    2.1 故障モードを検出するためのフォーマットを作る

     図1に改善の考え方と進め方を示しますが「気づく」ためには、まず設計者や審議者が個々に高い技術力を持つことが必要です。この技術力向上を補填するのが「F...

    MEA 辞書」です。

     

     

    また品質問題を反省すると、心配点に気づかなかった原因の80%が、FMEA やDRの時に新規点、変更点を明確にしていなかったためである事が分かりました。そこで新規点・変更点を明確にする道具、心配点に気付く道具も開発しました。

     なお、これらの道具は忙しい設計者や審議者の「使い易さ」にポイントを置いて開発しました。また、設計者の能力やDRなどの場面に合った道具でないと普及は難しいものです。使用マニュアルはありません。設計者が忙しい時には、マニュアルを見ないと使えない道具は使わないからです。至れり尽くせりの道具であっても、設計者が忙しいとチェックを実施しない場合が多いのです。そこでヒューマンエラーを徹底的に無くすため二重三重のチェックを行っています。

    2.2 「FMEA辞書」他の道具について

     「FMEA辞書」はメカから電子、ソフトウェア等の分野別の設計留意点、不具合事例、基盤技術、チェック道具等が載ったデータベースです。どの会社でも、技術ノウハウを蓄積する事は実施しています。しかし使いやすいように蓄積されていないのが現状です。「FMEA辞書」はデンソー60年分の蓄積ノウハウを使いやすく編集しなおしただけのモノです。

     (株)デンソー機能品事業部では、主にエンジンと駆動系(トランスミッション)関係の純メカ製品から、電子制御回路、ソフトウェアの設計をしており、これらの技術を熟知していないと設計業務が実施できない部署です。製品の種類も多く、一から開発する機会も多いためデータベースの構成は以下のようにしました。

     データベースの構成は、機械関係は材料、加工、処理工程別に、電子関係は電子部品、電子回路設計、マイコン、ソフトウェアで分類してあります。一般的に材料、加工、処理工程別に整理している企業は少なく、主に製品の部品別に展開して不具合事例、技術ノウハウを検出、整理してリスク管理していることが多いようです。

     例えば図2の金属材料をクリックすると図3のように、不具合事例と留意点が横軸「危ない材料」、「ストレス」、「要因(故障メカニズム)」、「故障モード」、「不具合事例・留意点」、「設計基準」の順に簡単なフレーズで整理、一般化された画面が現れます。金属材料だけで約50種類の「故障メカニズム」が記載されています。さらに詳しく知りたい場合は、該当するブックマークをクリックするだけで、詳細な説明資料を見ることができます。特に不具合事例・留意点については、誰が見てもひと目ですぐに理解できるように図解画を多用し「不具合状況、原因、対策、教訓」をA4、1枚に整理し私が書き直しまた。

     図2のチェックシート画面には、項目ごとのチェックシートが格納されており、金属部品を設計したら、設計者がチェックする事になっています。これが、二重三重チェックの一回目です。

     全図面が完成すると、設計者はFMEAを実施します。この時使用するのが「マクロFMEA作成シート」です。これはFMEA を作成する時の用紙ですが、この用紙に細工をほどこしFMEAを作成する時に、故障メカニズムと故障モードのキーワード集(例えば、”繰り返し応力で破損”” ウィスカでショート”)が目の前に表示されるようにしたものです。設計者がFMEA作成シートに心配点を記入し終えた後、シート上の「心配点キーワード」セルをクリックすることで、 ひと目で抜け落ちが確認でき、心配点とその要因・原因を容易に抽出できます。これが二重三重チェックの2回目になります。

       つづく  後編はこちら


    ※デンソーでのDRとFMEAの適用実際を詳細に解説したDVDを制作しました。

    「品質問題をなくす設計と設計審査の考え方 ”FMEA辞書”」

     この中で今回の事例が詳しく説明されていますので、ぜひ参考にしてください。

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