精密鍛造金型メーカーが自社技術を起点に新商品開発に取り組んだ事例

※イメージ画像

1. 自社技術起点に新商品開発

 今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータルソリューションの提供を⾏っているニチダイ社(京都府)が、自社技術を起点に、新商品開発に取り組んだ事例を紹介します。

 同社は自動⾞部品づくりには⽋かせない冷間鍛造⾦型を国内外の自動⾞メーカーや部品メーカーに供給していますが、現在環境・安全問題への対応を背景に大きな変革期を迎えた自動車産業は、電気自動車や自動運転の研究開発が注目を集めています。

 そのような世界的潮流の中で、同社にしかないオンリーワンの技術を究め変化に対応するため、2018年に体系的な開発手法「シーズドリブンQD」(※1)に加えTRIZ、タグチメソッド(TM)の手法を活用した新商品開発プロセスに取り組むことにしました。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』



2. “ 圧延+鍛造” 新工法の機能と特長を探る

 そこで同年度の1年間、一気通貫でシーズドリブンQD、TRIZからタグチメソッドのコンサルティングを行いました。第1~2四半期にシーズドリブンQDとTRIZプロセスに4テーマを、第3~4四半期はタグチメソッドの活用に3テーマで取り組んだものです。

 そのうち、新規プロジェクトチームの活動として、同社の得意とするコア技術・ネットシェイプ技術(切削加工なしに完成品形状に成形)を生かし、今回シーズドリブンQDにおける「技術シーズ」として、厚みを薄くする「圧延」と形状を作る「鍛造」2つを組み合わせた「圧延+鍛造」の新工法を取り上げることとしました。

 この新コンセプトの工法開発を推し進める上で①新工法によりどのような新製品を生み出すことができるのか、②どのような新事業を創出できるのかを詰めて、新工法開発の先にある市場への出口をしっかり見据えた上でシーズドリブンQDに取り組むことになったのです。

 はじめに「圧延+鍛造」の新工法コンセプトの機能・特長を抽出するため”新工法自身”が実現する機能と特長は何か、次に結果として実現できる”形状”から生まれる機能と特長は何か…。その2つの視点から機能・特長の発想を展開し、その機能・特長を生かせる用途探索を行いました。

3. TRIZとタグチメソッドで課題抽出と問題解決

 探索方法としては、今回導入したGoldfireソフトウェアの意味検索を活用した用途探索と、特許のFタームコードリストを使って探索する、という2つのアプローチを実施しました。この作業では探索結果から想定用途候補をリストアップし、各用途の事業性を市場性と自社適合性2つの視点から相対評価し、ターゲット用途を絞り込んでいきます。

 そして最も優先度の高い用途として絞り込んだ「車載用電池ケース」については簡易的な品質表を作成し、車載用電池ケース用途におけるニーズの具体化と、同社の技術で商品化した時の価値訴求点の絞り込み、その価値実現のために解決すべき重点課題の抽出を行いました。

 その後、均等肉厚や断面形状強度などの技術課題についてはTRIZを、圧延長さなどの生産性やロール径などの圧延鍛造条件の最適化に関する問題はタグチメソッドで問題解決に取り組み、その結果可能性のありそうな多くの用途を抽出することができました。

4. 品質表で競争力と差別化ポイントが明確に

 これによってそれら用途を絞り込む方法が明確になり、客観的に車載用電池ケースという用途を選択することができた上、選択した用途の簡易的な品質表を作成することで、車載用電池ケース市場での競争力・差別化ポイントが明確になるなど、大きな収穫を得ることが...

できたのです。今後は「顧客の実際の声をさらに収集することで、品質表の精度を上げていきたい」と話しています。

 また車載用電池ケースを製品化するために必要な技術課題も明確になり、それら技術課題については、TRIZやタグチメソッドなどの体系的手法を活用してもらうことで解決の道筋が見えてきました。

 今後は同社が持つ他の技術シーズにも展開し、この方法を社内に定着していくことになっています。


 ※1
 QFDの考え方とソフトウェアの知識探索機能を活用し、自社シーズ(材料や技術)が生み出す「機能や特長」、そうした機能・特長を必要とする「新しい用途」の探索、想定した用途に対する「要求品質(ユーザ価値)」とそれを実現するための「技術課題」の抽出までを、体系的なアプローチで着実に実行するという考え。

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者