「コンビナトリアル」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 「コンビナトリアル」とは
コンビナトリアル手法は、ある用途に対して最適なものを作る方法です。例えば新規の材料を作るとき、元素比率、分子構造を変化させて一つ一つ合成して、性質を調べるという手間のかかる方法でアプローチしていました。ところがコンビナトリアル手法で、原料をあらゆる組成で混合して評価した後で、その効果特性の優れたものの組成を同定するのです。これを物理実験に応用して、例えば合金のスパッタリング成膜で短時間に最適な配合を判定することが可能となります。コンビナトリアルとは、もともと製薬開発で用いられていた手法で、2元系、3元系の原料をあらゆる組成で混合し、評価した後で、その特性、効果の優れたものに関して組成を同定するものです。物理実験に応用し、2元系の合金を縦横に組成勾配をつけてスパッタリングなどで成膜し、全面の特性を測定する事で、最適配合を短時間に判定することが可能となります。
2. コンビナトリアル合成
コンビナトリアル化学は、多数の化合物群を効率的に合成し、それらを様々な目的に応じて活用していく組み合わせ論に基づいた技術です。多数の化合物の合成手法をコンビナトリアル合成といいます。これはスプリットとパラレルの合成二法に大別され多数の化合物の合成手法の中心に位置付けられます。
ハイスループットスクリーニング(合成できた化合物群をスクリーニング)は、効率的な機能性分子探索を行えます。この技術は医薬品探索に大きな影響を与えました。それでも反応条件の最適化は人手に頼るので、総合的に見た時間効率がそれほどは向上しません。天然からの単離新規構造を有する化合物は合成できませんので本質的問題点もあります。
3. コンビナトリアル手法の応用と進化
コンビナトリアル手法が製薬開発や材料科学にもたらしたパラダイムシフトは、その適用範囲を急速に拡大させています。特に、情報科学やロボティクスとの融合により、この手法は新たな次元へと進化しました。
(1) 材料開発への深化:コンビナトリアルケミストリーからマテリアルズ・インフォマティクスへ
当初、コンビナトリアル手法は、多数のサンプルを網羅的に生成し、ハイスループットスクリーニング(HTS)によって評価するという、「量」の力に重点を置いていました。しかし、材料開発の分野では、膨大な組成空間やプロセス条件をすべて網羅することは非現実的です。
ここで登場するのが、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)です。MIは、コンビナトリアル合成やHTSで得られた実験データと、計算科学やシミュレーションによるデータを統合し、機械学習などのデータ解析技術を駆使して、材料の物性予測や最適組成の絞り込みを行います。
つまり、コンビナトリアル実験が「実験によるデータの大量取得」を担い、MIが「データからの知見抽出と次の実験計画の最適化」を担うことで、探索の効率と精度が飛躍的に向上するのです。この自動化と知能化のループこそが、現代のコンビナトリアル手法の主流となりつつあります。
(2) スプリット・アンド・プール法の応用
コンビナトリアル合成の基本的な手法の一つであるスプリット・アンド・プール(Split-and-Pool)法は、固相合成の技術を基盤とし、極めて少ない工程で指数関数的に多数の化合物を生み出すことができます。この手法では、少量のビーズ(担体)に特定の合成ステップを施し、その後ビーズを混合(プール)し、再び分割(スプリット)して異なるステップを施します。
例えば、3種類のビルディングブロック(A, B, C)を3回のステップで結合させる場合、理論上 $3^3 = 27$ 種類の化合物を、わずか3回の合成ステップで同時に合成できます。これは、従来の逐次的な合成に比べて、時間と労力を劇的に削減します。
この手法の大きな課題は、どのビーズにどの化合物が載っているか(デコンボリューション)を同定することですが、現在では、ビーズにIDタグ(バーコード)となる分子や、デジタル情報を付加することで、この同定作業も効率化されています。
(3) 総合的な時間効率の改善
当初の作文で触れられていたように「反応条件の最適化が人手に頼るため、総合的な時間効率がそれほど向上しない」という問題は、ラボの自動化によって解決が進んでいます。
- ロボティック・システム: サンプルの調製、反応、スクリーニング、データ取得といった一連のプロセスを、液体処理ロボットや自動分注装置が担います。これにより、人間が介在する回数が減り、再現性の高い実験が24時間体制で可能となります。
- AIによる反応条件の最適化: HTSで得られたデータをAIが解析し、温度、圧力、溶媒、触媒量などの反応パラメータをリアルタイムで調整・提案することで、人間では思いつかないような最適解を効率的に探索します。
これらの進化により「コンビナトリアル」は単なる合成手法ではなく「高速・高効率な科学的発見のための統合プラットフォーム」へと変貌を遂げ、持続可能な社会を実現するための新材料や新薬開発の中核技術としての役割を強化しています。
