「実験計画法」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 「実験計画法」とは
実験計画法とは、開発、設計、生産、製造などで実験する際に、評価する特性と、それに対して影響すると考えられる要因との関係性を調べる方法の体系です。現代統計学の父と言われているロナルド・エイルマー・フィッシャー博士が考案しました。
実験計画法は、効率の良い実験方法を設計(デザイン)して、結果を適切に分析する統計学の応用分野の学問のことを言い、実験に際しては、勘、経験だけに頼らず、統計手法を使いながら、より少ない費用と時間で有効な結果が得られるように、計画、実行することが肝要です。
実験計画法は、医学・工学・心理学・農業からマーケティングに至るまで、幅広い業界で利用されています。
実験計画には、1因子の水準の変化と影響を把握するための一元配置実験、2因子の水準の変化と影響を把握する二元配置実験、因子が3つ以上の場合の多元配置実験があります。
その他にも実験計画法には、分散分析、直交配列表(直交表)直交表を利用して実験数を減らす一部実施法などもあります。
2. 「実験計画法」のメリット
- 効率的なデータ収集・・・実験計画法は、必要なデータを最小限の実験で得ることができるため、時間とリソースを節約できます。
- 因果関係の明確化・・・実験の設計により、変数間の因果関係を明確にすることができ、結果の解釈が容易になります。
- バイアスの低減・・・ランダム化やブロック化を用いることで、外部要因によるバイアスを減少させ、より信頼性の高い結果を得ることができます。
- 多因子の同時検討・・・複数の要因を同時に検討できるため、相互作用効果を分析することが可能です。
- 結果の再現性・・・明確な手法に基づいて実験が行われるため、他の研究者が結果を再現しやすくなります。
- 最適化の支援・・・実験計画法を用いることで、最適な条件を見つけるための実験が効率的に行えます。
これらのメリットにより、実験計画法は科学研究や工業プロセスの改善において非常に重要な手法となっています。
3. 実験計画法の実践的な主要手法
実験計画法(Design of Experiments, DOE)を実際に運用する際には、前述の配置実験だけでなく、目的に応じたさらに高度で効率的な手法が用いられます。これらの手法は、少ない試行回数で最大限の情報(特に要因間の相互作用)を引き出すことを可能にします。
3.1. 要因配置計画と直交配列表
最も基本となるのが要因配置計画(Factorial Design)です。これは、すべての要因のすべての水準の組み合わせで実験を行う方法です。要因が少ない場合は問題ありませんが、要因数や水準数が増えると、実験の組み合わせ数が爆発的に増加してしまいます。例えば、要因が5つあり、それぞれに2つの水準がある場合、実験回数は32 回になります。
ここで、効率化のために登場するのが直交配列表(Orthogonal Arrays)、通称直交表です。直交表は、実験の組み合わせの一部だけを実施する一部実施法(Fractional Factorial Design)の基礎となるものです。直交表の最大の利点は、各水準が他のすべての水準と均等に組み合わされるように設計されている点にあります。これにより、少ない実験回数で、各要因の主効果(メインとなる影響)を効率よく分離・推定することができます。
3.2. 応答曲面法による最適化
製品の品質特性やプロセスの出力を最適化したい場合、応答曲面法(Response Surface Methodology, RSM)が有効です。要因配置計画は要因の影響の「有無」や「方向」を把握するのに適していますが、RSMは最適な条件(例えば、最も高い収率や最も低い不純物濃度)を探し出すために、要因と応答値の関係を曲面としてモデル化します。
RSMでは、まず最適な領域の近くを探すための最急上昇法(Method of Steepest Ascent)などの探索的な実験を行い、その後、最適な領域の周辺でより詳細な中心複合計画(Central Composite Design, CCD)やBox-Behnken計画といった実験計画を実施します。これにより、要因の変化に対する応答の変化率(傾き)を捉え、最適な設定値に数学的に近づくことができます。
3.3. タグチメソッド(品質工学)の活用
日本で発展したタグチメソッド(Taguchi Methods)、あるいは品質工学も実験計画法の一つの大きな潮流です。従来の実験計画法が「平均値の改善」に重きを置くのに対し、タグチメソッドは「ばらつきの低減」と「ロバスト性(頑健性)の確保」を目的としています。
タグチメソッドでは、設計要因(制御できる要因)と、温度変化や部品の劣化といったばらつきを引き起こすノイズ要因を組み合わせて実験します。この実験結果をSN比(Signal-to-Noise Ratio)という指標で評価することで、ノイズ要因の影響を受けにくい、つまりロバストな製品・プロセスの設計条件を見つけ出すことができます。これにより、生産現場や使用環境の変化があっても安定した品質を維持できるようになります。
4. 現代における実験計画法の役割と展望
現代の科学研究や産業界では、ビッグデータやAIの進化に伴い、実験計画法の役割も変化しています。
4.1. データ駆動型開発への統合
AIや機械学習モデルは大量の過去データからパターンを学習しますが、そのデータ自体が偏っていたり、因果関係を反映していなかったりすると、モデルの予測精度は低下します。実験計画法は、モデル構築に必要な質の高い、効率的に収集されたデータを提供します。例えば、AIモデルが重要な要因を特定した後、その要因の相互作用を調べるために直交表やRSMを適用するといった統合的なアプローチが取られています。
4.2. 仮想実験への展開
シミュレーション技術やデジタルツインの進化により、物理的な実験を行う前にコンピュータ上で仮想的な実験(計算機実験)を行う機会が増えています。この仮想実験の設計にも、実験計画法の原理が応用されます。例えば、計算機モデルの膨大な入力パラメータの中から、結果に最も影響を与える要因を特定するために直交表が使われたり、最適解を効率的に探索するために応答曲面法が用いられたりします。これにより、物理的な試作回数を大幅に減らし、開発期間とコストを削減することが可能になります。








