「シーズ発想法」とは、キーワードからわかりやすく解説

 

1. 「シーズ発想法」とは

シーズ発想法とはアイデア発想の一つで、はじめに何らかの技術シーズがある場合に使います。 ある程度歴史のある製造企業では自社の得意とする技術があり、さらに開発したもののまだ応用されていない新技術がある場合も多いでしょう。 しかしそれを何に使えば大きな事業、製品になるかは、なかなか思い浮かばず悩ましいものです。 そこでその技術シーズの特徴、メリットを列挙した上で、それら属性を大きくする、逆にする、再配列するといったチェックリストに従い変換し、そこで現れる問題点を解決する方向を延長することで強力なアイデアを導き出すものです。

 

2. 「シーズ発想法」の利用手順

「シーズ発想法」の利用手順です。この手順を通じて、シーズ発想法を効果的に活用できます。

  1. テーマ設定・・・解決したい問題やアイデアのテーマを明確にします。
  2. シーズの収集・・・既存の技術や知識、アイデアを集めます。これには文献調査や専門家へのインタビューが含まれます。
  3. シーズの分析・・・収集したシーズを分析し、それぞれの特徴や利点を理解します。
  4. アイデアの発想・・・シーズを基に新しいアイデアを発想します。ブレインストーミングなどの手法を使うと良いでしょう。
  5. アイデアの評価・・・発想したアイデアを評価し、実現可能性や市場性を考慮します。
  6. プロトタイプ作成・・・有望なアイデアを基にプロトタイプを作成し、具体化します。
  7. フィードバック収集・・・プロトタイプを使ってフィードバックを収集し、改善点を見つけます。
  8. 最終化・・・フィードバックを反映させてアイデアを最終化し、実行に移します。

 

3. 企業における「シーズ発想法」の活用分野

次の分野でシーズ発想法を活用することで、企業は競争力を高め、持続的な成長を目指すことができます。

 

  • 新製品開発・・・既存の技術や資源を基に、新しい製品やサービスを創出する際に活用されます。
  • マーケティング戦略・・・顧客のニーズや市場のトレンドを分析し、シーズを活かした効果的なマーケティング施策を考案します。
  • 技術革新・・・研究開発部門での新しい技術の発見や応用において、シーズ発想法が重要な役割を果たします。
  • コラボレーション・・・他企業や研究機関との連携を通じて、シーズを共有し、新たな価値を創造することができます。
  • 人材育成・・・社員の創造性を引き出すためのトレーニングやワークショップにおいて、シーズ発想法を取り入れることができます。
  • ビジネスモデルの構築・・・新しいビジネスモデルを考える際に、シーズを基にしたアイデアを活用することができます。

 

4. シーズ発想法の具体的な思考プロセスとチェックリストの応用

シーズ発想法の核となるのは、既存技術(シーズ)を起点に、その本質的な価値と未開拓の可能性を引き出すための具体的な思考プロセスです。この思考を深めるために有効なのが、既述のチェックリストを用いた「属性の変換」です。例えば、ある技術シーズが「非常に軽量で耐熱性が高い」という属性を持つとします。

 

属性の拡大・強化: 「軽量性」を極限まで高める方向で考えるならば、「構造材としてではなく、空気や液体の流れを制御する微細な部品」や「宇宙空間で使用する消耗品」といった、従来の用途から逸脱した分野が浮上します。さらに「耐熱性」を強化するならば、「極度の高温環境下でのセンサー保護」や「溶融金属の搬送技術」など、より過酷な条件での利用が考えられます。

 

属性の逆転・否定: もし「軽量性」をあえて「重量感・密度」として捉え直すとしたら、その技術は「制振材」や「精密機器の動作安定化のためのカウンターウェイト」といった、全く逆の機能を持つ製品に転用できる可能性があります。この逆転の発想が、技術の新たな市場価値を見出すきっかけになります。

 

属性の再配列・組み合わせ: 「軽量」と「耐熱性」という二つの属性を「熱を保持せず、素早く放熱する」という第三の属性を生み出すように組み合わせることで、「高性能なCPU冷却システム」や「高出力レーザーの焦点安定化装置」といった、複合的な課題を解決するアイデアが生まれます。

 

このプロセスでは、発想の初期段階では実現可能性を度外視し、技術の属性が持つ極端な状態を想像することが重要です。その極端な状態が解決するであろう社会的な課題や顧客の潜在的な不満を結びつけることで、「シーズ」が「ニーズ」と出会い、具体的な事業アイデアへと昇華します。

 

5. シーズ発想法を成功させるための組織的なアプローチ

シーズ発想法を単なるアイデア出しで終わらせず、企業の成長に繋げるためには、組織全体での取り組みが不可欠です。まず、技術者と企画・営業部門との交流を深めることが重要です。技術シーズの深い理解を持つ技術者が、市場のニーズや顧客の声を直接聞くことで、「この技術はこんな問題も解決できるのではないか」という新たな視点を得やすくなります。逆に、市場部門が技術の持つポテンシャルを知ることで、既存製品の枠に捉われない提案が可能になります。

 

また、失敗を許容する文化の醸成も欠かせません。シーズ発想法は、多数の「試行錯誤」と「検証」を前提としています。初期段階では非現実的に見えるアイデアでも、検証を進める中で予期せぬブレイクスルーが生まれることがあります。そのため、短期的な成果を求めすぎず、長期的視点に立って技術の応用研究を支援する体制が必要です。

 

さらに、プロトタイプ作成(既述)後の迅速なフィードバックサイクルを確立することも重要です。最小限の機能を持つプロトタイプ(MVP:Minimum Viable Product)を速やかに市場に投入し、実際の顧客の反応から得られた知見を次の開発サイクルに活かすアジャイルな手法は、特に不確実性の高い新事業開発において有効です。

 

6. シーズ発想法のメリットと留意点

メリット: シーズ発想法の最大のメリットは、自社の強みを最大限に活用できる点です。技術的な優位性から事業をスタートさせるため、他社に対する模倣困難な競争優位性を構築しやすいという特徴があります。また、既存資産の有効活用により、新規事業立ち上げにおける投資リスクを抑制できる可能性もあります。

 

留意点(限界): 一方で、シーズ発想法には留意すべき点もあります。最も大きな限界は、「技術の独りよがり」に陥る危険性です。どんなに優れた技術でも、それが顧客の解決したい課題やニーズと結びつかなければ、市場価値は生まれません。発想の過程で、チェックリストによる思考の展開を経たとしても、最終的には市場視点への転換を意識的に行う必要があります。

この限界を超えるためには、シーズ発想法を「ニーズ発想法」(顧客の具体的な課題や不満からスタートする発想法)と組み合わせて活用することが理想的です。すなわち、シーズから生まれたアイデアを、改めて厳格な市場ニーズに照らし合わせ、そのアイデアが「本当に顧客の抱える痛みを解消しているか」を検証することが、持続可能な事業創出への鍵となります。

 


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