クレーム対応の実態 クレーム対応とは(その5)

 
  
 

1. 顧客が腹を立てている

 

(3) 火に油を注いだ一流企業の対応

 
 前回のその4に続いて解説します。
 
 いまや企業は生活者の目から、ガラス張りで監視されています。たった一人の顧客のクレームがその場限りの解決で済まないケースも少なくないでしょう。一つの顧客クレームが瞬時に情報公開されて、企業が決定的にイメージダウンする可能性も否定できない時代といえます。では、トラブルが発生したとき企業は、どのような対応をとるべきなのでしょうか。
 
 生活者との「適正距離」が取りにくくなった現代、企業はトラブルが起こったそのとき、どのような行動を選択すべきなのか。しなければならない行動と、してはいけない行動は、どう区別すべきなのか。ここからは、クレームやトラブルが発生したときに、まず実践すべき初期対応のアクションプランを考察していくことにします。
 
 いまここで一つだけはっきり言えることは、起こったトラブルのモグラ叩きに終始していても、状況は永遠に好転しないという事実です。ただただ場当たり的にトラブルを「始末する」のでは、企業が置かれた状況はますます悪化し、ついに経営破綻のシナリオさえ描かれてしまいます。自らが掘った墓穴に落ち込んで、市場への参加資格さえ剥奪されてしまうに違いないのです。
 
 私は、こう提案します。『企業は最初に、次のことをきちんと受け止めるべきです。』
 
 「クレームのないビジネスは存在しないし、完全無欠の商品など存在しない」
 
 意外に思うかもしれませんが、こんな当たり前の真理を自覚していない企業が、いかに多いことでしょうか。私は長年のコンサルティング活動の中で、企業の無自覚を何回も痛感しました。
 
 顧客からのクレームを受けた企業の工場や担当者は、あたかも自社の商品を完全無欠のように説明し、故障の発生原因が「使用者のミスにある」と言い兼ねないような、呆れた対応に終始します。 企業は、平気で自社は間違っていないと誤信してしまうのです。
 
 「当社の商品に限って……」「これまでそのような故障が起きたことは、一度もありませんが……」「どのようにお使いになっていましたか?」
 
 妙な言いがかりは迷惑だ。そっち(顧客)の使い方に問題があるんじゃないのか。応対する担当者の本心が透けて見える態勲無礼な態度が、少なくないのです。次に、私か体験した実話を紹介します。
 
 数年前のある深夜、世界陸上の中継を見ていたとき画面がCMに切り替わると、ついついうたた寝をしてしまいました。あっ、眠ってしまったな。少し経って目を覚ました私は、目の前に起こっている事態に驚愕しました。なんと、テレビからもうもうと白い煙が出ていたのです。
 
 大変だっ! このままでは火事になる。
 
 非常事態に直面した私は、煙で咳き込みながら、慌ててコンセントを引き抜きました。画面は真っ暗になり、白煙は収まりました。テレビは相当に熱を帯びていました。私は、最悪の危機を回避できたことに安堵しました。いま振り返ってみても、あのとき目が覚めるのがもう少し遅かったらと思うと、ソッとします。翌日。とにかく昨夜の出来事をメーカーに連絡しておかなければならないと思い、そのフリーダイヤルを探しましたが、あいにく見当たらなかったのです。そこで、代表番号を調べて、電話をかけました。「実は、昨夜……」私は、電話に出た女性に昨夜の出来事をできるだけ丁寧に再現しながら伝えました。
 
 すると、思いがけない応対が返ってきました。
 
 「そうした件でしたら、改めて担当の△番に電話をかけ直してください」自社の商品トラブルで迷惑をかけた顧客に、「もう一度、電話をし直せ」と言い放ったのです。
 
 「私か電話をかけなければならなくなった原因を作ったのは、そちらでしょう」と言いたかったが、一応、言われるままに電話をかけ直すことにしました。ところが、指定された番号の部署にかけてみると、同じことをまた喋らされた挙句に、「すみませんが、▽番のほうに電話をしてください」と言われたのです。
 
 私は、ク...
レーム対応を実体験するために、もう一度電話をかけ直すことにしました。三度目です。応対に出た担当者に「実は……」と説明すると、信じられないことに「その件でしたら、改めて◇×番のほうへお願いします」と応えたのです。
 
 次回に続きます。
 
【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント ダイヤモンド社発行
            筆者のご承諾により、抜粋を連載 
 

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