不満顧客の存在 クレーム対応とは(その3)

 
  
 

1.顧客が腹を立てている

(2) ジョン・グッドマンの法則

 前回のその2に続いて解説します。
 
  製造現場では、合言葉のようになっているコストダウンも、行き過ぎて製品の品質を劣化させているのです。コスト最優先で、長年つき合いのある仕入れ先を変更する、品質を落としても安い原材料を使うという判断を行ってしまうのです。また、人件費をカットする目的でベテラン技術者をリストラし、製造のいろはを覚えたばかりの若手や中途採用の技術者に仕事を委ねます。
 
 クレームの増産拠点は、製造現場だけでありません。ぎりぎりの人数で1人何役もこなさなければならない販売スタッフは、とにかく売上げ至上主義で縛られて、顧客サービスなどは二の次、三の次です。顧客満足を考える前に、一つでも商品を売り捌かなければならないのです。
 
 ゆえに、説明もロクにしないまま、押しつけるかのように商品を販売してしまいます。その結果、せっかく接点を持てた顧客が「言われるままに買ったけど……」と不満を募らせたり、「販売員にうまく買わされた」という「恨み節」さえ、大量発生させてしまいます。
 
 きちんとした商品説明と顧客応対ができていれば回避できるトラブルが、リストラ経営の犠牲になった形で噴出しています。こうした企業と顧客の危機的な関係は、ある意味で「企業が顧客をなめてきた証拠」と言えるかもしれません。
 
 前述のようにグッドマン氏が、不満顧客の96%は「不満を口にしない」と分析しましたが、会社に文句を言わない顧客がそのまま口を閉ざし続けている保証はどこにありません。多くの企
業は、自社の商品の評判がロコミで伝播する「ロコミ効果」というものを信じていますが、ロコミにはマイナス効果もあることを意識する企業は、意外に少ないのです。
 
 次のような状況をイメージしてみましょう。
 
 一般的な4人家族の家庭があったとします。この家族の一人がある商品を購入して、強い不満を抱いてしまいました。「こんな商品、よく売るものね。頭にきちゃう」不満を抱いた本人は、家族が揃った夕食時に不満をぶちまけました。誰かに言わなければ、とてもじゃないが腹の虫がおさまらないといった感じでした。
 
 この家族は、翌日会社や学校などで、自分の身内が被った理不尽な現実を話しました。「ねえ、ちょっと聞いてよ。うちのお姉ちゃんがこんな商品買っちゃったんだって。ホント、信じられないひどさよね」高校生の妹は、さっそく学校で友達に「事件」を報告しました。
 
 これを耳にした学友は、学校から帰るとすぐに母親に、「お母さん、A子ちゃんのお姉さんがひどいめにあったんだって。あんな商品、絶対に買っちゃダメよ」と言うのです。
 
 こうした不満のロコミは、ほんの一部のシミュレーションに過ぎないのですが、なんらかの動機で腹を立てた顧客は、往々にして不満を他者に広めていきます。人間には、他者に話をすることでストレスを解消するという側面もあります。
...
 
 私ども顧客・サービス研究所の調査によると、不満を抱いた顧客は1年間で40人から45人に「不満を言い触らす」という分析結果が出ました。ひどい不満を感じた顧客は、怒りの感情が最も激しい約1か月間に14人から15人に不満をぶちまけます。
 
 とくに自分の思い入れの深い商品に関するトラブルなどは、不満の伝え方にも感情が入るのです。たとえば女性の場合などは、化粧品やファッション衣料、食品などに関する不満やトラブルは、繰り返し繰り返し「噂話」として伝えられるでしょう。
 
 次回に続きます。
 
【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント ダイヤモンド社発行
            筆者のご承諾により、抜粋を連載  
  

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