「おもてなしの神髄」 CS経営(その63)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

20. 地域・自然・女将の結束力-花の宿松や

(1) 裏山の狸か狐しか泊まらない

 学校を壊した際に出た古材をもらい受けて作った14室。「花の宿松や」のスタートは困難の連続でした。当然のように宿泊客はまるでこないのです。
 
 なんとか現状を打開したいと修学旅行を担当する学校の先生に下見を依頼したところ、「雨漏りはするし、すきま風もひどい。これでは子供たちが風邪をひいてしまう」と断られたり、営業担当を採用し、営業を開始しても、「裏山の狸か狐しか泊まらないんじゃないの」と言われ、解決の糸口すらつかめない状況が続いたというのです。
 
 その後、営業を採用すれば宿泊客が増えるのではないかといった安易な考え方を反省し、以後、現在に至るまで営業担当者を置いていないそうです。
 
 では、反省の先に何を見つけたのでしょうか。それは、泊まってくださったお客様一人ひとりを大切にするという「精一杯のおもてなし」という真心でした。
 
 なかでも注力したのは「お客様との会話」です。会話の中からお客様のこと、ご家族のこと、お仕事のことなど、お客様の人となりを少しでも理解しようと努め、それをお客様に対する気づき、気くばり、気づかいに活かすようにしたのです。
 
 「会話」というのは簡単なようで難しいのです。ビジネス書でも「会話」は永遠のテーマであるかのように毎年、「会話」「コミュニケーション」分野の新刊が続々と書店店頭に並びます。また、これだけチェーン店が全国展開しているにもかかわらず、小さな居酒屋や、昔ながらの料理屋などが繁盛しているのもまた「お客様との会話」を大切にしているからです。
 
 「花の宿松や」は、現在、創業から60年近く経ったのですが、こうして培ってきたお客様との絆が、当時のお客様のお孫さんの代までつながり、そのお孫さんが奥様、お子様を連れて宿泊するというように、4代にまたがるお付き合いとなっています。他国に比べ、日本には圧倒的な数の老舗が存在するといわれていますが、その要因の一つもまた「お客様との絆」にあるに違いないのです。
 

(2) 温泉地の衰退化

 花の宿松やのある栃木県。大手の地方銀行が事実上の倒産に追い込まれたことにより、日光、鬼怒川、川治、湯西川、那須、塩原といった温泉地が大ダメージを受け、有名な旅館が次々と姿を消し、経営母体が変わってしまいました。
 
 かつては、時期を選ばず一年中賑わっていた駅周辺も、今や紅葉などの特別なシーズン以外は閑散としており、昼間から店を閉めている駅前の飲食店もあるのです。開店している飲食店のサービスも一級と...
は言い難いものです(もちろん、これは栃木だけに存在する問題ではない)。タクシーの運転手もどことなく元気がなく、これでは楽しい旅行気分が萎んでしまうのではないかと心配になるほどです。
 
 閉店した旅館を眺めていたときに、地元の人に「まるでお化け屋敷が並んでいるようでしょう」と語りかけられたのも印象的でした。こんな状況下にありながら、花の宿松やの繁盛している姿は、荒れ地に咲く一輪の花のようにすがすがしさを覚えます。
 
 次回に続きます。
 
【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
    筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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