「VTA/ETA」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 「VTA/ETA」とは
VTA(Variation Tree Analysis)/ETA(Event Tree Analysis)とは、ある事象の発生を想定し、それによって引き起こされる事象を人間の行動や判断を中心に時系列で樹枝(Tree)状に分岐想定していくことによって、最終事象に至る過程とその発生確率を明らかにする方法です。 主にハードウエアを対象としていたFTA手法とは異なり、事故発生における人間行動の背後に潜む人的要因を解明するために使われます。
2. VTA(Variation Tree Analysis)の例~VTAは選択肢の多様性を分析
目的: 製品のバリエーションを分析し、顧客ニーズに応じた最適な選択肢を提供。
例: 自動車のモデル選定
基本モデル(エンジンタイプ、ボディカラー)
オプション(サンルーフ、ナビゲーションシステム)
顧客の選択肢をツリー状に整理し、人気の組み合わせを特定。
3. ETA(Event Tree Analysis)の例~ETAはリスクを評価する手法
目的: 事故や故障の発生確率を評価し、リスク管理を行う。
例: 原子力発電所の安全評価
初期イベント(冷却システムの故障)
その後のイベント(圧力上昇、放射能漏れ)
各イベントの確率を計算し、最悪のシナリオを防ぐための対策を検討。
4. VTAとETAの構造的な違いと相互補完
VTAとETAは、どちらも「ツリー(樹枝状)」形式を用いて分析を行いますが、その視点には明確な違いがあります。
VTA(Variation Tree Analysis)は、主に「過去に起きた事象」や「現在進行中の行動」において、人間がどのような選択肢を持ち、なぜその行動を選んだのかという「行動の揺らぎ(バリエーション)」に焦点を当てます。一方、ETA(Event Tree Analysis)は、「ある起点となる事象」から、安全装置や人間の対応が成功するか失敗するかによって、将来的にどのような結末に至るかという「波及経路」を予測します。この二つを組み合わせることで、単なる機械的な故障予測に留まらず、「人間が介在することで状況がどう好転、あるいは悪化するか」という極めて現実的なリスクシナリオを描くことが可能になります。
5. VTAによるヒューマンエラーの深層分析
VTAの本質は、事故の背後にある「人間心理と環境の相互作用」を可視化することにあります。標準行動からの逸脱を可視化 事故調査において、当事者が「なぜその操作を行ったのか」を分析する際、マニュアル通りの手順(標準)と、実際に行われた行動(バリエーション)を比較します。この分岐点をツリー状に並べることで、当事者が置かれていた状況や、判断を誤らせた外部要因を特定できます。「仕方のない選択」の発見 VTAを用いると、一見すると個人のミスに見える事象が、実は「その時の情報状況では、そう判断するのが合理的だった」という構造的欠陥として浮かび上がることがあります。これは、個人の責任を追及するのではなく、システムとしての改善策を練るために不可欠な視点です。
6. ETAを用いた動的なリスクシミュレーション
ETAは、初期事象(イニシエーター)が発生した後の「防護層」の有効性を検証するのに適しています。成功と失敗のバイナリ分岐 例えば、火災検知器が作動するか(Yes/No)、スプリンクラーが作動するか(Yes/No)、避難誘導が適切に行われるか(Yes/No)といった具合に、各ステップで分岐させます。最終事象の確率計算 各分岐における成功確率が分かっていれば、ツリーの末端に至るまでの掛け算によって、最悪のシナリオが「何万年に一度」の頻度で起こり得るのかを数値化できます。弱点の特定 特定の分岐(例えば「手動介入」)での失敗が、全体のリスクを一気に高めていることが判明した場合、そこに集中的にリソースを投下して自動化するなどの対策が打てます。
7. 実務における活用ステップ
これらの手法を導入する際は、以下のステップを踏むことが推奨されます。
- ステップ1:起点となるイベントの設定 「通信トラブル」「操作ミス」「機器の異音」など、分析のスタート地点を明確にします。
- ステップ2:時系列の展開 事象が発生した瞬間から、1秒後、10秒後、1分後と、時間の経過とともにどのような変化が起こるかを書き出します。
- ステップ3:人間系と機械系の統合 「警告ランプが点灯する(機械系)」→「作業者がそれに気づく(人間系)」→「リセットボタンを押す(人間系)」といった具合に、物理的現象と心理的プロセスを交互に配置します。
- ステップ4:対策の妥当性評価 作成されたツリーを眺め、どの分岐に「歯止め(インターロック)」を設ければ、壊滅的な結末を回避できるかを議論します。
8. 安全文化の醸成に向けて
VTAとETAは、単なる分析ツールではありません。これらを用いる最大の意義は、組織内に「想定外を想定する文化」を根付かせることにあります。複雑化した現代のシステムにおいて、100%の安全を機械だけで保障することは不可能です。しかし、人間の行動特性をVTAで理解し、事象の広がりをETAで予測しておくことで、私たちは「たとえミスが起きても、致命的な事故には至らせない」という多重防護の考え方を具体化できます。キーワードから始まったこれらの理解を、実際の現場での対話や改善活動に繋げることこそが、真のリスクマネジメントと言えるでしょう。
