高張力鋼 (ハイテン)とTRIP鋼:金属材料基礎講座(その100)

 

【目次】

    1. 高張力鋼 (ハイテン)

    高張力鋼は英語でHigh Tensile Strength Steelと呼び、ハイテンとも呼ばれます。鉄鋼材料で引張応力によって規格した材料にJIS G3101 一般構造用圧延鋼材(SS400など)があります。他にはSS材の溶接性を向上したJIS G3106 溶接構造用圧延鋼材があります。高張力鋼の定義は国やメーカーによって変わりますが、一般的には引張応力490MPaから1000MPaの鋼材とされます。引張応力1000MPa以上の鋼材は超高張力鋼と呼ばれます。高張力鋼は炭素、マンガン、シリコン、チタンなどの合金元素を調節して製造されます。高張力鋼は溶接性の観点から炭素量は0.2%程度であることが多いです。高張力鋼は各種鉄鋼メーカーが色々な強度の材料を製造しています。

     

    高張力鋼は自動車などに使用されています。強度が高いので薄肉化ができるので、車体の軽量化に役立ちます。しかし、高強度な鋼材は延性が低下するので割れなどが発生しやすくなります。また、高強度化によって部材の薄肉化はできますが、高張力鋼と一般の鉄鋼のヤング率はあまり変わらないため、薄肉化しすぎると剛性が低下する問題もあります。

     

    2. TRIP鋼

    TRIP鋼の正式名称はTransformation Induced Plasticity(変態誘起塑性)鋼と言います。組織としてはフェライト+パーライトまたはベイナイトに残留オーステナイトが10%程度見られる組織です。そしてSiやAlを添加して残留オーステナイトを安定化させています。残留オーステナイトが安定化されるとマルテンサイト変態注1)が起きづらくなります。残留オーステナイトが応力を受けたことによってマルテンサイト変態することを加工誘起変態と呼びますが、この時に生じる大きな塑性変形をTRIP現象と呼びます。TRIP鋼はプレスなどの製品加工時に残留オーステナイトが安定していてマルテンサイトに変態しません。しかし強い応力や衝撃にはマルテンサイトに変態します。この時材料が硬くなり、伸びも増えるので衝撃性に対して強くなります。

     

    TRIP鋼は強度が590~980MPaと高く、伸びが20~30%あります。TRIP鋼は自動車用鋼板として使用されますが、プレス加工する時は残留オーステナイトのため加工性に優れ、衝突の時には材料がマルテンサイト変態するため硬くなります。

     

    注1):マルテンサイト変態

    マルテンサイト変態とは、鋼をオーステナイト温度まで加熱した状態から急冷(焼入れ)させることによって非常に微細で硬い組織にすることです。マルテンサイト組織はフェライト、パーライト組織よりも微細な組織になります。マルテンサイト変態を起こすためにはいくつか条件がありま...

    す。まず、鋼をオーステナイト相にする必要があるため、炭素量2%以下に限られます。また、炭素量が少なすぎてもマルテンサイト変態を起こしづらくなります。

     

    次にオーステナイトの鋼を共析変態点以下に急冷するとマルテンサイト変態を起こしますが、この時の冷却速度が遅いとマルテンサイト変態が起きずに、通常のパーライト組織になります。

     

    マルテンサイト変態によって鋼が硬くなる理由は主に炭素の影響です。例えば共析鋼を焼入れする場合、炭素量は0.76%です。高温のオーステナイト相ではこの炭素量は全て固溶していますが、低温のフェライト相では炭素の最大固溶量はわずか0.02%程度しかなく、固溶できない炭素の大部分は共析反応でパーライト(フェライトとセメンタイト)になります。この共析反応は時間をかけて炭素の移動(拡散)が行われます。この時に急冷すると、炭素は拡散できずにフェライト相に強制的に取り込まれます(無拡散変態)。これがマルテンサイト組織になります。

     

    次回に続きます。

     

    ◆【関連解説:金属・無機材料技術】

     

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