「おもてなしの神髄」 CS経営(その66)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

21. なぜ、地域を限定して商売をしているのか:びわこホーム株式会社

 

(1) 私財をなげうっての経営

 滋賀県のびわこホーム株式会社は、1990年の創業です。1995年に赤字転落し、赤字は3年続き、1997年には給与も支払えない状況に陥ったのです。内情を知る経理担当者から、「資金の足しにしてほしい」と個人通帳を差し出されるに至り、「社員さんにここまで気をつかわせてしまうとは、自分は経営者として一体なにをしてきたのだろう」と社長は自分を責めました。
 
 「私財をなげうって会社を存続させてきたのは、朝から晩まで働いている社員さんの職場をなくしたくないという思いからだったのですが、それだけでは経営者の資質が不足していると強く気づかされました。事業を健全に継続し、働く場所を守り、社員さんを守るために、ただ不動産や家を売るというだけのことではなく、お客様に満足、感動、幸せ感を得ていただけるような仕事をして、圧倒的な支持を得ようという結論に達したのです」
 
 これは当時、代表取締役だった上田裕康氏(現・代表取締役会長)の述懐です。そこから、経営理念「私達は住生活感動業を通して人と地域の幸せを築きます」が誕生することになりました。そして、「日本一強い企業になる。日本一お客様に愛され親しまれる企業になる」というビジョン、「私たちは、四つの喜びと、四つの幸せを叶える為に命を燃やし続けます。お客様の喜びと幸せ、社員さんの喜びと幸せ、協力業者さんの喜びと幸せ、地域(まち)の喜びと幸せ」という使命が明確になったのです。
 
 近年、企業理念やビジョンを掲げる企業は多いのですが、実際にそのとおりに経営している企業はまれです。たいていは「絵に描いた餅」となっています。しかし、びわこホームズは違うのです。2012年、経済産業省主催「おもてなし経営企業選」(全国50社)に選ばれ(近畿地方では5社、滋賀県で1社)、2013年には、経済産業省主催「がんばる中小企業・小規模事業者」(300社)に選ばれました。これらの結果は、同社が企業理念、経営ビジョン、トップの経営哲学から外れることのない本質的な経営努力を実践していることを証明しています。
 

(2)「地域限定」の本当の理由

 家をお客様に引き渡した後で、何か困ったことがあったときに、「お客様の家にすぐ駆けつけられる存在でありたい」という思いから、びわこホームの活動は地域を限定していますが、この考え方は創業時からのものであり、今後も変わることのない大切な約束事です。同社が想定する地域は、滋賀県の甲賀市・湖南市・東近江市の一部・日野町(人口計約25万人)を指します。そして、お客様宅には2ヵ月に一度の頻度で、スタッフがアフター・フォローのために訪問します。これは定期的に実施する「ハウスドクターの無料点検」とは別の取り組みで、困ったことがないかを伺うための一軒ごとの訪問です。
 
 地域限定だからこそ、「わざわざいうほどのことではないから、そのままにしている」「ちょっと困ったことがあったとき、どこに伝えたらいいのかわからない」「住宅ローンの組み替えを検討している」というお客様の悩みに、耳を傾けることが可能になるのです。
 
 一般的な企業ではここまではできないでしょう。だからこそ、顧客の抱く些細な愚痴、困っていることを放置することになり、顧客は不満足を蓄積していき、その製品、サービスを採用しなくなっていくのです。
 
 地域限定というのは、直接のお客様だけを大切にするという意味ではないのです。地域の祭り、草刈りなどの活動にも積極的に参加するのが、びわこホームの流儀です。これらは表面的に捉えると、単なる労働奉仕に見えますが、実際には社員の心の教育としても機能しています。地域...
の人々と対話することで、地域の方々への感謝の気持ちを肌で感じることが可能になり、顧客との一体感が生まれます。「肌で感じる」というのが一体感を得るのに欠かせない要素です。それなしに顧客との本当の一体感はないと断言できます。
 
 社員が暮らす町、買い物をする場所、車を運転する道路、家族と一緒に出かける公園、それらすべてが、地域の人、お客様に接する機会であると捉える一流の社員を育て続けているのです。この下地があるため、社員が入社して1年間実施する飛び込み営業においても、決してよくある「売り込み」というようには捉えられません。地域社会全体が、びわこホームの社風を理解しているから飛び込み営業も地域に受け入れられるのです。
 
 次回に続きます。
  
【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
    筆者のご承諾により、抜粋を連載 
  

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