誰も活用しないデータ分析結果 データ分析講座(その20)

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情報マネジメント

◆ 迷走する「データ分析」には、「誰(Who)の何(What)のための」がない

 「専門家を雇ったけど、使えるデータ分析結果がでてこない」このような悩みを抱えた、ある企業の情報システム部門のトップの方がいました。その企業では、データ分析の専門家を数年で100名体制にする計画がありました。一昨年度に、社内外から人を集め、形だけはデータ分析の部署を新設しました。しかし、社内に蓄積されたデータをいくら分析しても、ビジネス成果が得られないというのです。設立から1年経っても、目に見えた成果が得られません。では、何が問題なのでしょうか。

1. IT投資をすればよいという罠

 ビッグデータというキーワードがもてはやされ始めたころです。当時、「見える化」というフレーズとともに、「とりあえずデータを集めて『見える化』をしましょう」と言われ、データ活用のためのIT投資が積極的になされました。

 例えば、クラウド型CRM(顧客関係管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)、企業サイトのCMS(コンテンツ管理システム)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどの導入や、企業サイトのアクセス解析ログや工場のセンシングデータ、社員の行動ログ(入退社やPC操作ログ、ヘルスケアデータなど)、コールセンターログなどの蓄積などです。この「見える化」というフレーズは曲者で、約15年前のデータマイニング・ブームのころや、約20年前のCRMブームのころにも言われ、それに踊らされた企業が積極的にIT投資に踏み切りました。確かに、データを集めて視覚化すれば、何かが見えてきます。それは単に、データの集計結果などが見えるだけで、次の一手が見えるわけではありません。過去の実態が見えるだけです。ただ見えただけで、次のアクションに繋げることができなければ無意味です。重要なのは「見える化」よりも「動ける化」です。

2. Excelレベルのデータ分析が試金石

 Excelを使ったデータ分析は、Excelさえ使えれば誰でもできます。この最も初歩的な分析ツールであるExcelを使い、データ分析をすることでビジネス成果を出せないようでは、高度な分析ツールを使ってもビジネス成果を出せないことでしょう。分析ツールという面だけでなく、データの量や質という観点でも、同じようなことが言えます。Excelで扱えるようなリトルデータでビジネス成果を生み出すことのできない人に、ビッグデータでビジネス成果を出すことはできません。

 Excelレベルの分析とデータで、ビジネス成果を出せるかどうかというのは、その企業でデータ活用が上手くいくかどうかの、非常に重要な試金石なのです。なぜならば、Excelレベルの分析とデータでビジネス成果を出せるのであれば、おそらくその企業では、データ活用の勘所を掴んでいるからです。このデータ活用の勘所を掴んでいるかどうかが、データ活用が上手くいくかどうかの肝です。

 この勘所さえ掴んでいれば、後はIT投資でデータ活用基盤を整えたり、ビッグデータを扱ったりすることで、データ活用を加速させることができるからです。逆に、データ活用の勘所を掴んでいない状態で、IT投資をしビッグデータを扱ったとしても、多くの場合「見える化」止まりで「動ける化」に至らず、ビジネス成果に繋がらないことでしょう。

3. データ分析結果の活用イメージがない

 ところで、データ活用の勘所とは何でしょうか。少なくともデータ活用の勘所を掴んでいれば、データ分析結果の活用イメージが湧いているはずです。データ分析結果の活用イメージとは、「誰(Who)」の「何(What)」のためのデータ分析なのか、ということを明確にしている状態です。データ活用で迷走している多くの企業では、この「誰(Who)」と「何(What)」が欠落しています。

 この「誰(Who)」とは、誰のためのデータ分析なのか、ということです。現場の営業パーソンのためのデータ分析なのか、部署レベル(部長や課長など)のためのデータ分析なにか、全社レベル(役員など)のためのデータ分析なにか、ということです。この「誰(Who)」がごちゃごちゃしてしまうと、有意義な分析結果が出たとしても、誰が活用する分析結果なのか不明瞭になり、当事者意識がう薄くなり、結果的に活用されないデータ分析結果になります。

 さらに、「誰(Who)」が明確でも「何(What)」の業務に役立つのかが不明瞭だと、そのようなデータ分析結果も誰も使わなくなります。なぜならば、どの場面でそのデータ分析結果を活用すればよいのかが、分からないからです。要するに、「誰(Who)」の「何(What)」のためのデータ分析なのかを明確にしたデータ分析でないと、とてもではないですが活用されないデータ分析になってしまうということです。

4. 「誰(Who)」と「何(What)」は明文化し共有する

 では、どうすればよいでしょうか。難しいことは何もありません。単純に、「誰(Who)」の「何(What)」のためのデータ分析なのかを明確にするだけです。しかし、意外と明確化していないケースが多々見受けられます。明確にするとは、文章として明文化するということです。誰かの頭の中だけに、「『誰(Who)』の『何(What)』のためのデータ分析なのか」があるという状態ではだめです。データ活用に関わる人全員が、共通認識として持っておいた方がよいため、必ず明文化しておきましょう。

 そうしないと、最悪の場合、人によってデータ分析結果の活用イメージが微妙に異なってしまい、いざ活用しようとしたとき、嚙み合わなくなってしまいます。では、具体的にどのように「『誰(Who)』の『何(What)』のためのデータ分析なのか」を明文化すれば、よいのでしょうか。ここで簡単な手順を紹介します。

5. 明文化するだけで、データ活用が進む

 最初に、「誰(Who)」を明確にします。

 次に、明確にした「誰(Who)」の業務を洗い出します。できれば、ビジネスプロセスとして整理するとよいでしょう。そして、その業務もしくはビジネスプロセスの、どの部分をよくするためのデータ分析なのかを明確にします。最後に、その部分をどのようによくするのかを明確にします。つまり、「『何(What)』のためのデータ分析なのか」が明確にされます。

  • ステップ 1:「誰(Who)」を明確化する
  • ステップ 2:業務もしくは関係するビジネスプロセスを整理する
  • ステップ 3:そのどの部分をよくするためのデータ分析なのかを明確にする
  • ステップ 4:その部分をどのようによくするのかを明確にする
  • ステップ 5:「『誰(Who)』の『何(What)』のためのデータ分析なのか」を明文化する

 明文化とは、「広告宣伝課長の広告予算を配分するという業務を、データ分析を使うこ...

 

情報マネジメント

◆ 迷走する「データ分析」には、「誰(Who)の何(What)のための」がない

 「専門家を雇ったけど、使えるデータ分析結果がでてこない」このような悩みを抱えた、ある企業の情報システム部門のトップの方がいました。その企業では、データ分析の専門家を数年で100名体制にする計画がありました。一昨年度に、社内外から人を集め、形だけはデータ分析の部署を新設しました。しかし、社内に蓄積されたデータをいくら分析しても、ビジネス成果が得られないというのです。設立から1年経っても、目に見えた成果が得られません。では、何が問題なのでしょうか。

1. IT投資をすればよいという罠

 ビッグデータというキーワードがもてはやされ始めたころです。当時、「見える化」というフレーズとともに、「とりあえずデータを集めて『見える化』をしましょう」と言われ、データ活用のためのIT投資が積極的になされました。

 例えば、クラウド型CRM(顧客関係管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)、企業サイトのCMS(コンテンツ管理システム)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどの導入や、企業サイトのアクセス解析ログや工場のセンシングデータ、社員の行動ログ(入退社やPC操作ログ、ヘルスケアデータなど)、コールセンターログなどの蓄積などです。この「見える化」というフレーズは曲者で、約15年前のデータマイニング・ブームのころや、約20年前のCRMブームのころにも言われ、それに踊らされた企業が積極的にIT投資に踏み切りました。確かに、データを集めて視覚化すれば、何かが見えてきます。それは単に、データの集計結果などが見えるだけで、次の一手が見えるわけではありません。過去の実態が見えるだけです。ただ見えただけで、次のアクションに繋げることができなければ無意味です。重要なのは「見える化」よりも「動ける化」です。

2. Excelレベルのデータ分析が試金石

 Excelを使ったデータ分析は、Excelさえ使えれば誰でもできます。この最も初歩的な分析ツールであるExcelを使い、データ分析をすることでビジネス成果を出せないようでは、高度な分析ツールを使ってもビジネス成果を出せないことでしょう。分析ツールという面だけでなく、データの量や質という観点でも、同じようなことが言えます。Excelで扱えるようなリトルデータでビジネス成果を生み出すことのできない人に、ビッグデータでビジネス成果を出すことはできません。

 Excelレベルの分析とデータで、ビジネス成果を出せるかどうかというのは、その企業でデータ活用が上手くいくかどうかの、非常に重要な試金石なのです。なぜならば、Excelレベルの分析とデータでビジネス成果を出せるのであれば、おそらくその企業では、データ活用の勘所を掴んでいるからです。このデータ活用の勘所を掴んでいるかどうかが、データ活用が上手くいくかどうかの肝です。

 この勘所さえ掴んでいれば、後はIT投資でデータ活用基盤を整えたり、ビッグデータを扱ったりすることで、データ活用を加速させることができるからです。逆に、データ活用の勘所を掴んでいない状態で、IT投資をしビッグデータを扱ったとしても、多くの場合「見える化」止まりで「動ける化」に至らず、ビジネス成果に繋がらないことでしょう。

3. データ分析結果の活用イメージがない

 ところで、データ活用の勘所とは何でしょうか。少なくともデータ活用の勘所を掴んでいれば、データ分析結果の活用イメージが湧いているはずです。データ分析結果の活用イメージとは、「誰(Who)」の「何(What)」のためのデータ分析なのか、ということを明確にしている状態です。データ活用で迷走している多くの企業では、この「誰(Who)」と「何(What)」が欠落しています。

 この「誰(Who)」とは、誰のためのデータ分析なのか、ということです。現場の営業パーソンのためのデータ分析なのか、部署レベル(部長や課長など)のためのデータ分析なにか、全社レベル(役員など)のためのデータ分析なにか、ということです。この「誰(Who)」がごちゃごちゃしてしまうと、有意義な分析結果が出たとしても、誰が活用する分析結果なのか不明瞭になり、当事者意識がう薄くなり、結果的に活用されないデータ分析結果になります。

 さらに、「誰(Who)」が明確でも「何(What)」の業務に役立つのかが不明瞭だと、そのようなデータ分析結果も誰も使わなくなります。なぜならば、どの場面でそのデータ分析結果を活用すればよいのかが、分からないからです。要するに、「誰(Who)」の「何(What)」のためのデータ分析なのかを明確にしたデータ分析でないと、とてもではないですが活用されないデータ分析になってしまうということです。

4. 「誰(Who)」と「何(What)」は明文化し共有する

 では、どうすればよいでしょうか。難しいことは何もありません。単純に、「誰(Who)」の「何(What)」のためのデータ分析なのかを明確にするだけです。しかし、意外と明確化していないケースが多々見受けられます。明確にするとは、文章として明文化するということです。誰かの頭の中だけに、「『誰(Who)』の『何(What)』のためのデータ分析なのか」があるという状態ではだめです。データ活用に関わる人全員が、共通認識として持っておいた方がよいため、必ず明文化しておきましょう。

 そうしないと、最悪の場合、人によってデータ分析結果の活用イメージが微妙に異なってしまい、いざ活用しようとしたとき、嚙み合わなくなってしまいます。では、具体的にどのように「『誰(Who)』の『何(What)』のためのデータ分析なのか」を明文化すれば、よいのでしょうか。ここで簡単な手順を紹介します。

5. 明文化するだけで、データ活用が進む

 最初に、「誰(Who)」を明確にします。

 次に、明確にした「誰(Who)」の業務を洗い出します。できれば、ビジネスプロセスとして整理するとよいでしょう。そして、その業務もしくはビジネスプロセスの、どの部分をよくするためのデータ分析なのかを明確にします。最後に、その部分をどのようによくするのかを明確にします。つまり、「『何(What)』のためのデータ分析なのか」が明確にされます。

  • ステップ 1:「誰(Who)」を明確化する
  • ステップ 2:業務もしくは関係するビジネスプロセスを整理する
  • ステップ 3:そのどの部分をよくするためのデータ分析なのかを明確にする
  • ステップ 4:その部分をどのようによくするのかを明確にする
  • ステップ 5:「『誰(Who)』の『何(What)』のためのデータ分析なのか」を明文化する

 明文化とは、「広告宣伝課長の広告予算を配分するという業務を、データ分析を使うことで、ROAS(Return On Advertising Spend)を最大化する」といったものです。

  • 誰(Who):広告宣伝課長
  • 何(What):広告予算配分によるROAS最大化

 ちなみに、ROASとは、売上÷広告費のことで、広告がどの程度効率的に売り上げに効いたのかを計測するための指標です。この例の場合、広告宣伝課長のためのデータ分析です。あくまでも、「広告宣伝課長のため」というポイントを外してはいけません。

 例えば、会社として広告予算の全体が決められているならば、その予算の中で広告宣伝課長のためのデータ分析を考えなければなりません。つまり、データ分析した結果「全体の広告予算を増やせ」という結論はいけません。それは、その上の役員や部長などのためのデータ分析になるからです。同様に、現場レベルのデータ分析をしてもいけません。課長のためのデータ分析としては細かすぎるからです。

 もちろん、役員向けのデータ分析、課長向けのデータ分析、現場向けのデータ分析と、明確に分けてデータ分析を実施することは問題ありません。問題になるのは、課長向けのデータ分析の中に、役員向けや現場向けのデータ分析を混在することです。

 要するに、活用されず迷走しているデータ分析は、「誰(Who)の何(What)のための」が「ない」もしくは「混在」している場合が多く、その分析が誰向けなのか分からず、さらにどの場面で活用すれば分からず、誰も活用しないデータ分析結果になってしまいます。この「誰(Who)の何(What)のための」を明確にするだけで、データ活用が進みやすくなります。

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)


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