『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論(その3)

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 人的資源マネジメント

【『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論の連載目次】

・すべての関係者と課題を共有する。

・課題の共有

・顧客の言うことを鵜呑みにしない

・鵜呑みにしないことの大切さ

・「見える化」を活用する

・共通語の必要性

 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回はコミニュケーション論のその3です。
 

2. 顧客の言うことを鵜呑みにしない

 
 「お客さまは神様です」とよく言われますが、実際は全然そうではないようです。たとえば服を仕立てる場合はその場でやりとりするからあまり失敗はないでしょう。服の仕立ては寸法で行いますがいくら寸法が合っても、着心地が悪いことがあります。着心地には数値指標がないのです。文明度が上がるほど、数値指標がないものが増えてくるのです。だから、いい仕立て屋というのは、寸法の取り方や寸法どおりの仕上がりで上手下手を測るのではなく、着心地度というもので測ることになるのです。次に、顧客自身があいまいな段階を自覚しているときも、あまり行き違いはないのです。顧客自身も自分の要求が曖昧だと自覚しているから、「こんなものかな」とあきらめがつくのですが、顧客が何かを指定しているときには、顧客の言うことを鵜呑みにしないで理解した定義が同じかどうかを確認することが重要です。
 
 たとえば、「三つ揃いの背広」と言っても色々で、受ける側がプロで、顧客の方がアマの場合は、顧客が間違った定義を使うこともあるでしょう。そういう行き違いが起こりうるので、「三つ揃い」と言われたら、「こういう三つ揃いですか」と実物で確認をする必要があります。顧客のまた奥に顧客がいます。つまり顧客と思っていたのは実は組織の窓口だったということもビジネスの世界ではよくあることです。たとえば、システム開発で流通システムを社内に構築したいと言われたとき、その窓口になっているのは、実際にそのシステムを使う人ではなく、情報システム部の担当者だったりするのです。
 
 情報システム部は社内のあちこちから意見を集めてまとめますが、必ずしも社内の意見の大勢を表しているとはかぎりません。情報システム部の言うとおりに作ってみたら、現場でうまく展開できなかったという事例は山ほどあります。したがって、顧客からの発注を受けるほうも「そう言われましたから」といって鵜呑みにして作ってしまうのは間違いのもとです。このような問題が現実的には非常に多いのです。
 

(1) 丸投げ・丸呑み(鵜呑み)

 
 顧客(神様)から言われたことが、ニーズや目的に合っているかどうかの確認は、プロフェッショナルとしては必須です。「言われたようにやりました」では、たまたま結果が合っていればいいが、そうではない場合は言い訳になりません。たとえ契約書を交わしてこう書いてあるでしょうと言っても、「いやいや、そういうつもりではなかった」ということが日本では通用するのです。このように、相手が何かを指定しているとか、窓口があるなどの場合は要注意であり、プロジェクトの失敗の大半は着手する前にその原因があります。つまり、プロジェクトの失敗はその計画段階にあるのです。
 
 顧客の要求をしっかり把握することが、失敗しないコツです。依頼するほうも受ける方も、相応の見識がないと失敗します。企業対企業だったらお互いが相応の見識をもっているからまだしも、一方がアマチュアだったら見識を求めようがないので、受けるほうのプロがしっかりせざるをえません。仕立て屋に行って、「三つ揃い」と素人が言葉の定義を間違って言った場合は、どう考えてもプロのほうに責任があると考えざるをえません。プロジェクト・マネジメントの経験から言うと、受け手と依頼主のどちらかがしっかりしていれば、まず失敗しません。丸投げと丸呑みは、両者がしっかりしてないので失敗する可能性が極めて高いことになります。一般に「プロジェクト」には、依頼する側とそれを実行する側があります。実行する側(受け手側)はプロジェクトの進め方の手法を学ぶ姿勢や取り組みは活発です。今、プロジェクトマネジメントのセミナーの受講者は受け手側が圧倒的に多いようです。基本的に依頼主側がしっかりしなければならないのですが、相変わらず不勉強です。
 
 ところが、最近になって依頼主側の取...
 人的資源マネジメント

【『坂の上の雲』に学ぶコミニュケーション論の連載目次】

・すべての関係者と課題を共有する。

・課題の共有

・顧客の言うことを鵜呑みにしない

・鵜呑みにしないことの大切さ

・「見える化」を活用する

・共通語の必要性

 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回はコミニュケーション論のその3です。
 

2. 顧客の言うことを鵜呑みにしない

 
 「お客さまは神様です」とよく言われますが、実際は全然そうではないようです。たとえば服を仕立てる場合はその場でやりとりするからあまり失敗はないでしょう。服の仕立ては寸法で行いますがいくら寸法が合っても、着心地が悪いことがあります。着心地には数値指標がないのです。文明度が上がるほど、数値指標がないものが増えてくるのです。だから、いい仕立て屋というのは、寸法の取り方や寸法どおりの仕上がりで上手下手を測るのではなく、着心地度というもので測ることになるのです。次に、顧客自身があいまいな段階を自覚しているときも、あまり行き違いはないのです。顧客自身も自分の要求が曖昧だと自覚しているから、「こんなものかな」とあきらめがつくのですが、顧客が何かを指定しているときには、顧客の言うことを鵜呑みにしないで理解した定義が同じかどうかを確認することが重要です。
 
 たとえば、「三つ揃いの背広」と言っても色々で、受ける側がプロで、顧客の方がアマの場合は、顧客が間違った定義を使うこともあるでしょう。そういう行き違いが起こりうるので、「三つ揃い」と言われたら、「こういう三つ揃いですか」と実物で確認をする必要があります。顧客のまた奥に顧客がいます。つまり顧客と思っていたのは実は組織の窓口だったということもビジネスの世界ではよくあることです。たとえば、システム開発で流通システムを社内に構築したいと言われたとき、その窓口になっているのは、実際にそのシステムを使う人ではなく、情報システム部の担当者だったりするのです。
 
 情報システム部は社内のあちこちから意見を集めてまとめますが、必ずしも社内の意見の大勢を表しているとはかぎりません。情報システム部の言うとおりに作ってみたら、現場でうまく展開できなかったという事例は山ほどあります。したがって、顧客からの発注を受けるほうも「そう言われましたから」といって鵜呑みにして作ってしまうのは間違いのもとです。このような問題が現実的には非常に多いのです。
 

(1) 丸投げ・丸呑み(鵜呑み)

 
 顧客(神様)から言われたことが、ニーズや目的に合っているかどうかの確認は、プロフェッショナルとしては必須です。「言われたようにやりました」では、たまたま結果が合っていればいいが、そうではない場合は言い訳になりません。たとえ契約書を交わしてこう書いてあるでしょうと言っても、「いやいや、そういうつもりではなかった」ということが日本では通用するのです。このように、相手が何かを指定しているとか、窓口があるなどの場合は要注意であり、プロジェクトの失敗の大半は着手する前にその原因があります。つまり、プロジェクトの失敗はその計画段階にあるのです。
 
 顧客の要求をしっかり把握することが、失敗しないコツです。依頼するほうも受ける方も、相応の見識がないと失敗します。企業対企業だったらお互いが相応の見識をもっているからまだしも、一方がアマチュアだったら見識を求めようがないので、受けるほうのプロがしっかりせざるをえません。仕立て屋に行って、「三つ揃い」と素人が言葉の定義を間違って言った場合は、どう考えてもプロのほうに責任があると考えざるをえません。プロジェクト・マネジメントの経験から言うと、受け手と依頼主のどちらかがしっかりしていれば、まず失敗しません。丸投げと丸呑みは、両者がしっかりしてないので失敗する可能性が極めて高いことになります。一般に「プロジェクト」には、依頼する側とそれを実行する側があります。実行する側(受け手側)はプロジェクトの進め方の手法を学ぶ姿勢や取り組みは活発です。今、プロジェクトマネジメントのセミナーの受講者は受け手側が圧倒的に多いようです。基本的に依頼主側がしっかりしなければならないのですが、相変わらず不勉強です。
 
 ところが、最近になって依頼主側の取り組みも必要であることが認識されつつあり、専門家の間では依頼主のほうでビジネスを分析する取り組みが始まったのは喜ばしいことです。しかし、依頼する側がもっともっとしっかりしていれば間違いも起きないのですが、世の中では依頼主側がまだまだしっかりしていないことが多いのは残念なことだと思っています。石油プラントなどの海外プロジェクトは、依頼主側が優秀なメンバーを抱えており、プロ対プロの話なのであまり問題は起きません。ところが日本国内では、依頼主側が不勉強でいい加減だから、受け手側にもしっかりした人がいないとたちまち破綻するのが現実です。
 
 次回も、コミニュケーション論の2. 顧客の言うことを鵜呑みにしないを続けます。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。


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