意匠法の目的 意匠法講座 (その1)

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 意匠法「ものづくり」をすれば、必ず「モノの形」が創作されます。「ものづくり」によって開発される知的財産は、発明(特許)だけでなく、意匠もあります。このことがあまり広く普及していないことが残念であり、意匠を専門とする弁理士の立場から、意匠制度について解説していこうと思います。本稿は、拙著『セミナール意匠法(第2版)』(2009年 法学書院)を要約したものです。
 

1.はじめに

 
 意匠法の目的。条文的にはきれいに書かれており、特許法と同じ構成です。しかし、意匠法の目的については定説がありません。特に、「意匠の保護及び利用を図る」ことと「産業の発達」がどうつながるのか、という点について、現行意匠法制定(1959年)以来半世紀を経ても、未だ「これが正しい」は勿論「これが妥当だ」という見解の収束はありません。意匠保護の趣旨は、著作権、商標、特許のはざまでうごめいているのが現状です。そこで今回は「意匠法の目的」について説明します。
 

2.意匠法1条の構造

 
 意匠法第1条を分説すると以下のようになります。
 
ア)この法律は
イ)意匠の保護及び利用を図ることにより
ウ)意匠の創作を奨励し
エ)もって産業の発達に寄与すること
オ)を目的とする
 
 上記1条の構成から、意匠法は「意匠の保護及び利用を図る」ものであること、「意匠の創作を奨励するものであること」が明らかです。したがって、意匠法の解釈にあたっては「意匠の創作の奨励」という法目的を前提として解釈しなければならない、ということだと理解できます。このように考えると、「産業の発達に寄与」という文言は、「意匠の創作の奨励」を前提としたものと理解できます。「意匠は創作を保護するものである」ということは合意を見ていると言ってよいでしょう。
 

3.意匠の保護

 
 意匠法における意匠保護の構造は、審査主義を採用し(16条)、登録要件を備えた意匠に対して設定登録(20条1項)により排他的独占権としての意匠権(23条)を発生させるものです。すなわち、意匠法は創作された意匠に一定期間排他的独占権を認め、意匠権者にその独占的な実施を確保し、第三者による無権限実施を排除する権能を保障することにより意匠の保護を図っているのです。
 

4.意匠の利用

 
 特許法における「発明の利用」に関しては、実施による利用と文献的利用とがあるとされていますが、「意匠の利用」においては実施による利用が主であって、文献的利用は重視されません。意匠は発明と異なり累積的に進歩をするものではなく、かつその創作に際してはデザイナーのオリジナリティーが寄与する部分が大きいためです。それだからこそ早期公開や早期出願を促す法目的上の要求もあまりなく、秘密意匠制度が認められているということができます。
 

5.意匠保護と産業の発達

 
 意匠法は「産業の発達」を目的とするものです。単に意匠の創作に保護価値を認めるというものではなく、意匠の創作を保護することが産業の発達に寄与することをその保護の根拠としています。言い換えると、意匠権は産業の発達のために、政策的観点から創設された権利であり、この点で著作権とは基本的な違いがあります。
 
 しかしながら、「意匠の保護及び利用」と「産業の発達」との関係をどのように捉えるかは、意匠法における大きな論点となっています。特許法では「保護及び利用」と「産業の発達」とを「技術」を媒介として比較的直線的に理解できますが、意匠法では両者の関連づけが明かでないこと、そして関連づけの見解における相違が、意匠の類否という意匠法の要における見解の相違に直結しているためです。
 
 おおざっぱに分けると、「産業の発達」は生産・販売の増大、市場における混同の排除あるいは生産の効率化により達成されるという考え方と、それにとどまらず、終局的には、実生活において真に豊で意味のある人間的な物質的精神的生活の到来を期待し得る、健全な産業...
 意匠法「ものづくり」をすれば、必ず「モノの形」が創作されます。「ものづくり」によって開発される知的財産は、発明(特許)だけでなく、意匠もあります。このことがあまり広く普及していないことが残念であり、意匠を専門とする弁理士の立場から、意匠制度について解説していこうと思います。本稿は、拙著『セミナール意匠法(第2版)』(2009年 法学書院)を要約したものです。
 

1.はじめに

 
 意匠法の目的。条文的にはきれいに書かれており、特許法と同じ構成です。しかし、意匠法の目的については定説がありません。特に、「意匠の保護及び利用を図る」ことと「産業の発達」がどうつながるのか、という点について、現行意匠法制定(1959年)以来半世紀を経ても、未だ「これが正しい」は勿論「これが妥当だ」という見解の収束はありません。意匠保護の趣旨は、著作権、商標、特許のはざまでうごめいているのが現状です。そこで今回は「意匠法の目的」について説明します。
 

2.意匠法1条の構造

 
 意匠法第1条を分説すると以下のようになります。
 
ア)この法律は
イ)意匠の保護及び利用を図ることにより
ウ)意匠の創作を奨励し
エ)もって産業の発達に寄与すること
オ)を目的とする
 
 上記1条の構成から、意匠法は「意匠の保護及び利用を図る」ものであること、「意匠の創作を奨励するものであること」が明らかです。したがって、意匠法の解釈にあたっては「意匠の創作の奨励」という法目的を前提として解釈しなければならない、ということだと理解できます。このように考えると、「産業の発達に寄与」という文言は、「意匠の創作の奨励」を前提としたものと理解できます。「意匠は創作を保護するものである」ということは合意を見ていると言ってよいでしょう。
 

3.意匠の保護

 
 意匠法における意匠保護の構造は、審査主義を採用し(16条)、登録要件を備えた意匠に対して設定登録(20条1項)により排他的独占権としての意匠権(23条)を発生させるものです。すなわち、意匠法は創作された意匠に一定期間排他的独占権を認め、意匠権者にその独占的な実施を確保し、第三者による無権限実施を排除する権能を保障することにより意匠の保護を図っているのです。
 

4.意匠の利用

 
 特許法における「発明の利用」に関しては、実施による利用と文献的利用とがあるとされていますが、「意匠の利用」においては実施による利用が主であって、文献的利用は重視されません。意匠は発明と異なり累積的に進歩をするものではなく、かつその創作に際してはデザイナーのオリジナリティーが寄与する部分が大きいためです。それだからこそ早期公開や早期出願を促す法目的上の要求もあまりなく、秘密意匠制度が認められているということができます。
 

5.意匠保護と産業の発達

 
 意匠法は「産業の発達」を目的とするものです。単に意匠の創作に保護価値を認めるというものではなく、意匠の創作を保護することが産業の発達に寄与することをその保護の根拠としています。言い換えると、意匠権は産業の発達のために、政策的観点から創設された権利であり、この点で著作権とは基本的な違いがあります。
 
 しかしながら、「意匠の保護及び利用」と「産業の発達」との関係をどのように捉えるかは、意匠法における大きな論点となっています。特許法では「保護及び利用」と「産業の発達」とを「技術」を媒介として比較的直線的に理解できますが、意匠法では両者の関連づけが明かでないこと、そして関連づけの見解における相違が、意匠の類否という意匠法の要における見解の相違に直結しているためです。
 
 おおざっぱに分けると、「産業の発達」は生産・販売の増大、市場における混同の排除あるいは生産の効率化により達成されるという考え方と、それにとどまらず、終局的には、実生活において真に豊で意味のある人間的な物質的精神的生活の到来を期待し得る、健全な産業の発達を目的とし、福祉の向上に資するために制定されたものであるという考え方があります。私は後者の考え方を支持しています。次回は意匠法講座:第2回です。
 

6.参考文献

 
 1. 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕(特許庁編 2013 特許庁HP)
   2. 意匠(高田忠 1969 有斐閣)
 3. 意匠法要説(加藤恒久 1983 ぎょうせい)
 4. 意匠法概説・補訂版(斉藤瞭二 1995 有斐閣
 5. 実務解説 特許・意匠・商標(田邊隆執筆部分 2012 青林書院)
 6. 意匠法コンメンタール第2版(寒河江・峯・金井編著 2012 レクシスネクシス・ジャパン)
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

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