TRIZにおける究極の理想解

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1. 理想性とは

 TRIZツールの一つとして、究極の理想解(IFR:Ideal Final Result)があります。本来その概念は、質量も空間もエネルギも使わずに、やりたいことができることを意味しています。しかしそこまで追求すると、思考停止状態になって非生産的になってしまいます。そのツールの現実的な運用法として、究極の理想解に近い「あるべき姿」を目指してアイデア出しを行うツールと捉えて活用します。

 図1のように、理想性から順を追って説明してみます。「理想性」とはどういうことでしょうか。それを定義すると、次の式のように表わすことができます。この中で、分母に注目下さい。一般的なコスト以外に、環境問題に代表されるような「害」もコストに付加しています。

理想性  = (認識された)効用/(コスト+害)

 

2. 究極の理想解とは

 もしシステムをその極限にまで進化させれば、システムは良くなり、悪いものはなくなっていくわけです。そのような進化の状態をTRIZでは「究極の理想解」と呼ぶようになりました。例えば、収穫逓減の法則と呼ばれる概念があります。それによれば、現在のシステムを出発点に設定すると、持続的改善で大きな努力をしても、システム内の改善にとどまり、効果は徐々に小さくなっていきます。そして、改善のたびにシステムが複雑になっていきます。このことは、多くの皆さんが経験されていることではないでしょうか。

 これに対して、「究極の理想解」からスタートし。最小限のコストで、あるいは、害なしに達成される機能は何かと考える時、「リソース(資源)」と「セルフ-X」の考え方を活用していけば、それを実現できるようになるという考え方です。 

理想性、究極の理想解、リソース、セルフ-Xの概念  
 
 

図1
理想性、究極の理想解、リソース、セルフ-Xの概念

 3. 「リソース」と「セルフ-X」の定義

 「リソース」と「セルフ-X」については、別稿で個別に事例を紹介する予定ですから、ここでは概略だけ説明しておきます。「リソース」とは、英語のResource(リソース)という語です。英々辞典では、「人あるいは組織が持っているさまざまなモノあるいは質」と表現されています。広辞苑では、「生産活動のもとになる物質・水力・労働力などの総称」と記述されています。TRIZでは、周囲にある無限の「リソース」を利用できないか考えるのです。宇宙のあらゆるモノ、コトなどが発想のヒントやトリガー(きっかけ)となります。

 「セルフ-X」とは、コストをかけず、あるいは害なしに達成される機能を思考するとき、自分でその機能を果たす問題は「ひとりでに解決する」という意味を表しています。「セルフ-X」のX は、主に、機能を表わす言葉が入ります。日本語で表現すれば、自動清掃(セルフ-クリーニング)、自動配置、自動調節、自動位置決め、自動開閉、自動検査、自動駆動、自動較正、自動修復などのようなものです。

 

4. 究極の理想解の基本的活用法

 究極の理想解をどう活用すればよいのでしょうか。Darrell Mannは8つの質問を用意しています。初心者には少し難しいかもしれませんので、ここでは、基本的な2つの質問について説明します。最初の質問は、「システムの最終的目標は何か?」です。言い換えると、「挑戦的機能は何か?」になります。この質問が、問題定義者に要求しているのは、システムが提供する必要がある「機能」について考えることなのです。次に2番目の質問が、「究極の理想解は何か?」です。この質問は、「機能/最終目的/効用をコストも害もゼロで提供する」という意味を表しています。

 ここで、最終目標(目的)について整理しておきましょう。どうして機能に置き換えた方がよいかと言うと、ボール盤の目的は、ドリルではなく、「穴をあける」になり、電話の目的は携帯電話ではなく、「コミュニケーションする」になるからです。例えば、「衣服の洗濯」でどう2つの質問に答えればよいかを示すならば、「システムの最終的目標は何か?(挑戦的機能は何か?)=衣服をきれいにする」、「究極の理想解は何か?=衣服が自分自身をきれいにする」と定義すればよいわけです。

 実際に活用していく中で、重要なノウハウがあります。TRIZには、最小問題と最大問題と呼ばれるキーワードがあります。問題解決をする際に、特定のシステムに絞って目的を果たそうとする問題の捉え方が最小問題です。 これに対して、制約条件を考えずに目的を果たそうとする問題の捉え方(ゼロ自動空気入れ自転車(TRIZ)ベース思考)を最大問題といいます。...

1. 理想性とは

 TRIZツールの一つとして、究極の理想解(IFR:Ideal Final Result)があります。本来その概念は、質量も空間もエネルギも使わずに、やりたいことができることを意味しています。しかしそこまで追求すると、思考停止状態になって非生産的になってしまいます。そのツールの現実的な運用法として、究極の理想解に近い「あるべき姿」を目指してアイデア出しを行うツールと捉えて活用します。

 図1のように、理想性から順を追って説明してみます。「理想性」とはどういうことでしょうか。それを定義すると、次の式のように表わすことができます。この中で、分母に注目下さい。一般的なコスト以外に、環境問題に代表されるような「害」もコストに付加しています。

理想性  = (認識された)効用/(コスト+害)

 

2. 究極の理想解とは

 もしシステムをその極限にまで進化させれば、システムは良くなり、悪いものはなくなっていくわけです。そのような進化の状態をTRIZでは「究極の理想解」と呼ぶようになりました。例えば、収穫逓減の法則と呼ばれる概念があります。それによれば、現在のシステムを出発点に設定すると、持続的改善で大きな努力をしても、システム内の改善にとどまり、効果は徐々に小さくなっていきます。そして、改善のたびにシステムが複雑になっていきます。このことは、多くの皆さんが経験されていることではないでしょうか。

 これに対して、「究極の理想解」からスタートし。最小限のコストで、あるいは、害なしに達成される機能は何かと考える時、「リソース(資源)」と「セルフ-X」の考え方を活用していけば、それを実現できるようになるという考え方です。 

理想性、究極の理想解、リソース、セルフ-Xの概念  
 
 

図1
理想性、究極の理想解、リソース、セルフ-Xの概念

 3. 「リソース」と「セルフ-X」の定義

 「リソース」と「セルフ-X」については、別稿で個別に事例を紹介する予定ですから、ここでは概略だけ説明しておきます。「リソース」とは、英語のResource(リソース)という語です。英々辞典では、「人あるいは組織が持っているさまざまなモノあるいは質」と表現されています。広辞苑では、「生産活動のもとになる物質・水力・労働力などの総称」と記述されています。TRIZでは、周囲にある無限の「リソース」を利用できないか考えるのです。宇宙のあらゆるモノ、コトなどが発想のヒントやトリガー(きっかけ)となります。

 「セルフ-X」とは、コストをかけず、あるいは害なしに達成される機能を思考するとき、自分でその機能を果たす問題は「ひとりでに解決する」という意味を表しています。「セルフ-X」のX は、主に、機能を表わす言葉が入ります。日本語で表現すれば、自動清掃(セルフ-クリーニング)、自動配置、自動調節、自動位置決め、自動開閉、自動検査、自動駆動、自動較正、自動修復などのようなものです。

 

4. 究極の理想解の基本的活用法

 究極の理想解をどう活用すればよいのでしょうか。Darrell Mannは8つの質問を用意しています。初心者には少し難しいかもしれませんので、ここでは、基本的な2つの質問について説明します。最初の質問は、「システムの最終的目標は何か?」です。言い換えると、「挑戦的機能は何か?」になります。この質問が、問題定義者に要求しているのは、システムが提供する必要がある「機能」について考えることなのです。次に2番目の質問が、「究極の理想解は何か?」です。この質問は、「機能/最終目的/効用をコストも害もゼロで提供する」という意味を表しています。

 ここで、最終目標(目的)について整理しておきましょう。どうして機能に置き換えた方がよいかと言うと、ボール盤の目的は、ドリルではなく、「穴をあける」になり、電話の目的は携帯電話ではなく、「コミュニケーションする」になるからです。例えば、「衣服の洗濯」でどう2つの質問に答えればよいかを示すならば、「システムの最終的目標は何か?(挑戦的機能は何か?)=衣服をきれいにする」、「究極の理想解は何か?=衣服が自分自身をきれいにする」と定義すればよいわけです。

 実際に活用していく中で、重要なノウハウがあります。TRIZには、最小問題と最大問題と呼ばれるキーワードがあります。問題解決をする際に、特定のシステムに絞って目的を果たそうとする問題の捉え方が最小問題です。 これに対して、制約条件を考えずに目的を果たそうとする問題の捉え方(ゼロ自動空気入れ自転車(TRIZ)ベース思考)を最大問題といいます。 TRIZでは、最初に最小問題に取り組み、その後、最大問題へと制約条件を拡張していくことを推奨しています。筆者のセミナーでは、究極の理想解を活用するときに、回り道とならないように、最初に最小問題として捉えるために、限られたシステムとして前提条件(制約条件)をまず定義することから始めるようにしています。

 具体的には、例えば図2に示す自動空気入れ自転車があります。自転車のタイヤは、チューブの性質上どんなに改良を重ねても空気が漏れていました。そこで「漏れる分だけ自動で空気を入れ続ける」の発想で解決策を考案したアイデアです。ハブの中の専用部品がピストン運動をして空気を圧縮し、その空気が専用チューブを通ってタイヤに送り込むのです。要するに、自転車をこぎながら、自動的に空気が供給されるわけです。
                                 図2.自動空気入れ自転車

 参考文献

Darrell Mann 他、TRIZ実践と効用(1)体系的技術革新

◆関連解説『TRIZとは』

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この記事の著者

粕谷 茂

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