作業姿勢は安全・品質に大きく影響 作業環境:5S、ムダ(その12)

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第12回目となります。

◆設備と調和した作業改善を

1. 作業姿勢の悪さは集中力の欠如に

 ある組立工場のラインを観察した時、各組立部品に多くのマジックインクのチェックマークがあり、数えてみると数十個所もあることが分かりました。監督者に尋ねてみると、組立ミスが多くあるため、その度にチェックマークをつけてオペレーター自身が確認していると回答がありました。最終のお客様からのクレーム対策として、そのような処置をしていることでした。お気づきのように、これはあくまでも処置だけで、根本対策にはなっていませんので、モグラ叩き状態になっていたのです。

 そこでさらに生産現場を観察していくと、一つの工程で部品を取るため180度の振り向き作業をに数回行っていることが分かりました。これは作業姿勢が悪いことからオペレーターが相当疲れてしまい、集中力が欠けて色々なミスを発生させたと容易に想像できます。振り向き作業は時間に換算すると、1回につき約0.8秒で、往復だと約1.6秒になります。さらに振り向いた時、眼球は頭の中で浮いている状態なので、視点を合わせるために筋肉で固定しようとしています。つまり相当な筋肉疲労になっていると考えられます。結果として1回で約2秒間も時間がかかってしまい、1日に何百回も振り返ることになるので疲れるのは当然です。

 この事例のように、作業姿勢が悪いと目だけではなく体全体が疲れてしまいます。この疲労によって品質に注力する気力が欠け、作業ミスにつながっていきます。さらに作業安全にも波及し、注意緩慢に陥ってしまいます。

 この作業姿勢では、立ちっぱなしや動かない状態が続きますと、腰痛やヒザの痛みにもなります。腕の上下やしゃがみ作業、さらに背伸び作業、重筋作業も身体の疲れにすぐに結びついてきます。厚労省の統計によると製造業の分野だけでも、2万人以上の方が作業中に死傷の災害に遭われています。本人の不注意もあるでしょうが、作業環境の不備や不十分な作業指導もその要因になっていると考えられ、これはトップや管理監督者の責任だと指摘したいくらいです。

 疲労の蓄積からくる集中力の欠如は品質の問題、お客様との信用問題に発展し、作業安全面では労働災害に波及し兼ねません。労働災害によるケガや病欠があれば、生産ができなくなり、すぐに納期遅延や余分な残業の問題として現れてきます。特に労働災害は、本人にとっても会社にとっても大きな損失になります。早速現場に出向き、オペレーターと一緒に作業姿勢を検証して、筆者が提唱している「安全で、楽に、さらに楽しい職場づくり」の機会に捉えてもらえればと願っております。

 

2. お金をかけずすぐ実行できる改善

 作業姿勢の検証を行う場合は、しばらく一連の作業を観察することが大切です。その作業だけでは発見できない工程間の移動や運搬、段取り替え、作業準備なども観察します。むしろこれらの作業に多くの問題が潜んでいます。それらの問題の対策案として、お金をかけず、すぐ実行できるヒントを3つ紹介します。

(1)高さを揃える

 腕や腰、ヒザを曲げたり伸ばしたりする作業をなくしていきます。対策としては、作業台の高さを上下できる昇降機能を付けます。これは机や椅子が上下できる機能があるガス式の昇降機がヒントです。車のジャッキは700キロ以上も支えることができます。板などのブロックを挟んで、かさ上げすることも簡単です。移動する場合は、コロコンやキャスターを装着して台車化します。投入する材料を少なく小ロット化して、背伸び作業やしゃがみ作業を少なくしていきます。

(2)振り向き作業をなくす

 材料や治工具を横置きや作業する正面に揃えて、振り向き作業をなくしていきます。段取り替え台車や治工具をセットにして置くことができるオカモチです。自在アームの付いた台を用いて、180度の振り向きを90度以内にして、上下作業を平行移動にすることで疲れにくくしていきます。またオペレーターの後ろに置いていた材料を小ロット化して、横置きにすることでも作業姿勢が楽になります。

(3)リズムある動きに

 適度な歩行や体の移動を作業に組み込みます。立ちっぱなしの場合は、3分間も直立不動になっていると腰が痛くなり、次の動作がスムーズにできなくなります。体重を時々片足に移動することをオペレーターに教えるだけでも楽になります。監視作業がある場合には、サブの組み立てや加工も取り入れてみてもよいでしょう。作業の見直しをして、適時に他の工程に移動したり、設備や機械を多台持ちすることも作業のリズムをつくることができます。

 

3. 作業姿勢改善のヒントは文房具に!?

 多くの工場が高価な設備を使っているので、設備中心になる考え方がほとんどです。オペレーターの作業まで考慮した作業環境になっていないことが、多くの現場で見受けられます。往々にして設備に合わせた人の動きになってしまい、人の動きは二の次になっています。そのため作業姿勢のことまでは余り考えず、あとはオペレーター任せです。結局オペレーター自身は、強いられたやりにくい作業を黙々とこなすことになります。さらに市販の設備は加工の機能を重視しており、清掃や点検さらには段取り替えに時間がかかるなど、使う側に立った考えが少ないことも改善の余地があります。

 すぐに人中心とはいきませんが、設備と調...

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第12回目となります。

◆設備と調和した作業改善を

1. 作業姿勢の悪さは集中力の欠如に

 ある組立工場のラインを観察した時、各組立部品に多くのマジックインクのチェックマークがあり、数えてみると数十個所もあることが分かりました。監督者に尋ねてみると、組立ミスが多くあるため、その度にチェックマークをつけてオペレーター自身が確認していると回答がありました。最終のお客様からのクレーム対策として、そのような処置をしていることでした。お気づきのように、これはあくまでも処置だけで、根本対策にはなっていませんので、モグラ叩き状態になっていたのです。

 そこでさらに生産現場を観察していくと、一つの工程で部品を取るため180度の振り向き作業をに数回行っていることが分かりました。これは作業姿勢が悪いことからオペレーターが相当疲れてしまい、集中力が欠けて色々なミスを発生させたと容易に想像できます。振り向き作業は時間に換算すると、1回につき約0.8秒で、往復だと約1.6秒になります。さらに振り向いた時、眼球は頭の中で浮いている状態なので、視点を合わせるために筋肉で固定しようとしています。つまり相当な筋肉疲労になっていると考えられます。結果として1回で約2秒間も時間がかかってしまい、1日に何百回も振り返ることになるので疲れるのは当然です。

 この事例のように、作業姿勢が悪いと目だけではなく体全体が疲れてしまいます。この疲労によって品質に注力する気力が欠け、作業ミスにつながっていきます。さらに作業安全にも波及し、注意緩慢に陥ってしまいます。

 この作業姿勢では、立ちっぱなしや動かない状態が続きますと、腰痛やヒザの痛みにもなります。腕の上下やしゃがみ作業、さらに背伸び作業、重筋作業も身体の疲れにすぐに結びついてきます。厚労省の統計によると製造業の分野だけでも、2万人以上の方が作業中に死傷の災害に遭われています。本人の不注意もあるでしょうが、作業環境の不備や不十分な作業指導もその要因になっていると考えられ、これはトップや管理監督者の責任だと指摘したいくらいです。

 疲労の蓄積からくる集中力の欠如は品質の問題、お客様との信用問題に発展し、作業安全面では労働災害に波及し兼ねません。労働災害によるケガや病欠があれば、生産ができなくなり、すぐに納期遅延や余分な残業の問題として現れてきます。特に労働災害は、本人にとっても会社にとっても大きな損失になります。早速現場に出向き、オペレーターと一緒に作業姿勢を検証して、筆者が提唱している「安全で、楽に、さらに楽しい職場づくり」の機会に捉えてもらえればと願っております。

 

2. お金をかけずすぐ実行できる改善

 作業姿勢の検証を行う場合は、しばらく一連の作業を観察することが大切です。その作業だけでは発見できない工程間の移動や運搬、段取り替え、作業準備なども観察します。むしろこれらの作業に多くの問題が潜んでいます。それらの問題の対策案として、お金をかけず、すぐ実行できるヒントを3つ紹介します。

(1)高さを揃える

 腕や腰、ヒザを曲げたり伸ばしたりする作業をなくしていきます。対策としては、作業台の高さを上下できる昇降機能を付けます。これは机や椅子が上下できる機能があるガス式の昇降機がヒントです。車のジャッキは700キロ以上も支えることができます。板などのブロックを挟んで、かさ上げすることも簡単です。移動する場合は、コロコンやキャスターを装着して台車化します。投入する材料を少なく小ロット化して、背伸び作業やしゃがみ作業を少なくしていきます。

(2)振り向き作業をなくす

 材料や治工具を横置きや作業する正面に揃えて、振り向き作業をなくしていきます。段取り替え台車や治工具をセットにして置くことができるオカモチです。自在アームの付いた台を用いて、180度の振り向きを90度以内にして、上下作業を平行移動にすることで疲れにくくしていきます。またオペレーターの後ろに置いていた材料を小ロット化して、横置きにすることでも作業姿勢が楽になります。

(3)リズムある動きに

 適度な歩行や体の移動を作業に組み込みます。立ちっぱなしの場合は、3分間も直立不動になっていると腰が痛くなり、次の動作がスムーズにできなくなります。体重を時々片足に移動することをオペレーターに教えるだけでも楽になります。監視作業がある場合には、サブの組み立てや加工も取り入れてみてもよいでしょう。作業の見直しをして、適時に他の工程に移動したり、設備や機械を多台持ちすることも作業のリズムをつくることができます。

 

3. 作業姿勢改善のヒントは文房具に!?

 多くの工場が高価な設備を使っているので、設備中心になる考え方がほとんどです。オペレーターの作業まで考慮した作業環境になっていないことが、多くの現場で見受けられます。往々にして設備に合わせた人の動きになってしまい、人の動きは二の次になっています。そのため作業姿勢のことまでは余り考えず、あとはオペレーター任せです。結局オペレーター自身は、強いられたやりにくい作業を黙々とこなすことになります。さらに市販の設備は加工の機能を重視しており、清掃や点検さらには段取り替えに時間がかかるなど、使う側に立った考えが少ないことも改善の余地があります。

 すぐに人中心とはいきませんが、設備と調和した作業改善はすぐにできるものです。テコや滑車の原理を応用したからくりによる改善や、少し自働化を組み込んだ簡易自働化は、現存する設備に付け加えることが簡単にできます。これにより作業姿勢が改善されて、疲れない楽で安全な作業になり、オペレーターは品質向上に集中できます。このような小さな改善を繰り返すことで、ジャストフィットする作業姿勢が見つかるものです。

 

 この作業姿勢の改善は、デスク回りの文房具に多くのヒントがあります。例えば、握りやすいボールペンは、グリップ部分が手になじむ形になっていて「疲れない筆記具」となっています。手がすっぽり入る形のマウスもあります。キーボードの手前には、両手が楽に置ける棒状の座布団があります。手首をあまり動かさなくてもキー操作ができます。いずれもコロンブスの卵のように、実物を見ると「なるほどなあ」と思う物ばかりです。良く観察をすると、そこに人の動きや形状、姿勢のヒントが隠されています。自分たちが使いやすく工夫したり改造したりして、生産現場にも応用したいものです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ(その13)探さなくても探せる作業環境づくり 」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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