設備も風呂に入ってきれいになろう 作業環境:5S、ムダ(その4)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第4回目となります。

 

◆ 設備も風呂に入ってきれいにしよう

1. 人は風呂に入るが、設備は自ら入ることができない

 私たちは毎日風呂に入って全身の垢(あか)や汚れをお湯と石鹸(せっけん)で綺麗(きれい)に落とし、ついでに疲れも流してサッパリとすることを習慣にしています。入浴前には、当たり前ですが着ている服や下着まで全て脱ぎます。服を着たまま入浴することはありませんね。面倒でも裸になります。体を洗う時は、ただ洗うのではなく肌に傷をしていないかなど、無意識ながら点検もしています。

 洗った後は風呂にゆっくり浸かりながら、一日の出来事を振り返り反省することも多いでしょう。風呂上りにはタオルで水滴を全て拭き取り、鏡を見ながら再度顔や頭髪などを点検しています。また汚れた物は洗濯機に入れて洗濯をして綺麗にします。このように、当たり前のように私たち自身は毎日使った体を清掃し、さらに不具合個所がないかと点検をしています。

 

 しかし生産現場で毎日稼動している設備は風呂に入っているでしょうか。設備が自ら風呂に入ることはあり得ませんが、それらを使う現場の人たちが毎日清掃して、点検を確実に実施して故障のない状態を維持しているかどうかが重要です。

 設備が故障しないと信頼することはよいとしても、もっと設備に感謝の気持ちを持って接してほしいと思います。設備や機械は無機質ですが、心を込めて清掃や点検をしてやれば人間と同様、生き物のように反応して元気に働いてくれるものです。それは皆さんの車や趣味の道具と同じで、心を込めて手入れをしていくと、いつまでも長持ちする経験をお持ちでしょう。設備や機械も一緒であり、家族やペットと同様に愛情を注ぎたいものです。

 

 設備故障のうち8割が、ホコリ、汚れ、油切れ、操作ミスに起因するといわれています。

 これらを放置しておけば、故障という「強制劣化」になってしまいます。長く使用して寿命を迎えお釈迦(しゃか)になることを「自然劣化」といいますが、これは仕方ありません。しかし「強制劣化」は普段の手入れでとしての清掃や点検ができていなかったという怠慢(たいまん)の結果です。

 「強制劣化」は「設備を取り扱う保全マンやオペレータの恥だ!」という考えに変えてほしいものです。また設備を使って生産はするが、清掃や点検は保全マンに全て任せるというのは、もはや時代錯誤です。自分の設備はある程度現場のオペレーターが清掃や点検を行い異常を発見でき、新品のように復元できるようにしたいものです。競争力をつけるために、自ら考え行動できる自律型人間になっていく必要があります。

 

2. 五感をフル活用して設備の初期清掃をやってみよう

 毎日使っている設備を職場の皆さんと保全マンが一緒に初期清掃してみましょう。

 初期清掃とは、設備を清掃して新品だった時のように復元することです。まず保全マンから設備の初期清掃のやり方を紹介してもらい、 設備全体の稼動状態を30分ほど観察していきます。普段作業する個所だけを見ていますが、設備の天井やオイルパンの底の方までくまなく見て回ります。

 意識して見ていくと、見えなかったことが見えてくるものです。

 そのヒントとして

  1. 水漏れ
  2. エア漏れ
  3. 油漏れ
  4. 磨耗粉や切粉の発生や付着
  5. 設備の破損や変形個所
  6. 工具の散乱
  7. 表示標識
  8. 床の凸凹の状態
  9. 材料や仕掛けの状態
  10. 不安全な行動

 などをチェックしてみます。1台の設備にそれぞれ5つ以上、もしくは合計50件以上あれば、非常に問題が多い設備だと考えます。そして安全に配慮しながら設備に手を触れて、汚れやホコリなどを雑巾などで取り除いていきます。その時の写真を撮っておくと、その後の対比もできます。

 観察には私たちの持っている五感をフル活用します。

 手や指先で触る触覚、肌で感じる雰囲気も含みます。目で見る視覚、臭いを嗅(か)ぐ臭覚、耳で聴く聴覚、さすがに舌を出して舐(な)める味覚はやりませんが、食べる時にはこの感覚は非常に大切です。この場合は舐めるように触れて観察すると捉えましょう。つまり雑巾を手に持つことで設備に触れることになります。顔や頭を近づけて、これら五感を使っていくのです。これらは生きているうちにしか使えないもので、自らの感性磨きにもなります。そうして汚れやホコリを除去すれば、見えなかった不具合が次第に見え始めてきます。

 ネジの緩み、コネクタのガタ、ホースやコードのひび割れ、保護キャップやカバーの破損、フィルターの目詰まりによる温度上昇、油切れによる焼き付けや磨耗など、多くの現象が見えるようになります。さらに清掃することで設備や周囲が綺麗になっていくと、心も清々(すがすが)しくなるから不思議なことです。

 不具合個所にはその内容を簡単に記入できる付箋(ふせん)を貼り付けます。その付箋を付けた場所が一覧で分かるよう、設備のレイアウトマップに付箋の番号と共に記入していきます。これで、どこに問題が多いのか見えてきます。

 この体験をすることで、次第に異常に気付くようになります。不具合個所を保全マンと一緒に、購入した時の新品のように設備を復元していきます。簡単なことですが、毎月故障していた設備が故障しなくなったという事例はいくらでもあります。コストをかけなくても、とても簡単に効果を出すことができます。

 

3. 毎日の清掃で故障知らずに

 一回だけの設備清掃では元に戻ってしまうことがあります。継続した活動にしていくことが大切になってきます。私たちは1週間も風呂に入らなければ...

生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第4回目となります。

 

◆ 設備も風呂に入ってきれいにしよう

1. 人は風呂に入るが、設備は自ら入ることができない

 私たちは毎日風呂に入って全身の垢(あか)や汚れをお湯と石鹸(せっけん)で綺麗(きれい)に落とし、ついでに疲れも流してサッパリとすることを習慣にしています。入浴前には、当たり前ですが着ている服や下着まで全て脱ぎます。服を着たまま入浴することはありませんね。面倒でも裸になります。体を洗う時は、ただ洗うのではなく肌に傷をしていないかなど、無意識ながら点検もしています。

 洗った後は風呂にゆっくり浸かりながら、一日の出来事を振り返り反省することも多いでしょう。風呂上りにはタオルで水滴を全て拭き取り、鏡を見ながら再度顔や頭髪などを点検しています。また汚れた物は洗濯機に入れて洗濯をして綺麗にします。このように、当たり前のように私たち自身は毎日使った体を清掃し、さらに不具合個所がないかと点検をしています。

 

 しかし生産現場で毎日稼動している設備は風呂に入っているでしょうか。設備が自ら風呂に入ることはあり得ませんが、それらを使う現場の人たちが毎日清掃して、点検を確実に実施して故障のない状態を維持しているかどうかが重要です。

 設備が故障しないと信頼することはよいとしても、もっと設備に感謝の気持ちを持って接してほしいと思います。設備や機械は無機質ですが、心を込めて清掃や点検をしてやれば人間と同様、生き物のように反応して元気に働いてくれるものです。それは皆さんの車や趣味の道具と同じで、心を込めて手入れをしていくと、いつまでも長持ちする経験をお持ちでしょう。設備や機械も一緒であり、家族やペットと同様に愛情を注ぎたいものです。

 

 設備故障のうち8割が、ホコリ、汚れ、油切れ、操作ミスに起因するといわれています。

 これらを放置しておけば、故障という「強制劣化」になってしまいます。長く使用して寿命を迎えお釈迦(しゃか)になることを「自然劣化」といいますが、これは仕方ありません。しかし「強制劣化」は普段の手入れでとしての清掃や点検ができていなかったという怠慢(たいまん)の結果です。

 「強制劣化」は「設備を取り扱う保全マンやオペレータの恥だ!」という考えに変えてほしいものです。また設備を使って生産はするが、清掃や点検は保全マンに全て任せるというのは、もはや時代錯誤です。自分の設備はある程度現場のオペレーターが清掃や点検を行い異常を発見でき、新品のように復元できるようにしたいものです。競争力をつけるために、自ら考え行動できる自律型人間になっていく必要があります。

 

2. 五感をフル活用して設備の初期清掃をやってみよう

 毎日使っている設備を職場の皆さんと保全マンが一緒に初期清掃してみましょう。

 初期清掃とは、設備を清掃して新品だった時のように復元することです。まず保全マンから設備の初期清掃のやり方を紹介してもらい、 設備全体の稼動状態を30分ほど観察していきます。普段作業する個所だけを見ていますが、設備の天井やオイルパンの底の方までくまなく見て回ります。

 意識して見ていくと、見えなかったことが見えてくるものです。

 そのヒントとして

  1. 水漏れ
  2. エア漏れ
  3. 油漏れ
  4. 磨耗粉や切粉の発生や付着
  5. 設備の破損や変形個所
  6. 工具の散乱
  7. 表示標識
  8. 床の凸凹の状態
  9. 材料や仕掛けの状態
  10. 不安全な行動

 などをチェックしてみます。1台の設備にそれぞれ5つ以上、もしくは合計50件以上あれば、非常に問題が多い設備だと考えます。そして安全に配慮しながら設備に手を触れて、汚れやホコリなどを雑巾などで取り除いていきます。その時の写真を撮っておくと、その後の対比もできます。

 観察には私たちの持っている五感をフル活用します。

 手や指先で触る触覚、肌で感じる雰囲気も含みます。目で見る視覚、臭いを嗅(か)ぐ臭覚、耳で聴く聴覚、さすがに舌を出して舐(な)める味覚はやりませんが、食べる時にはこの感覚は非常に大切です。この場合は舐めるように触れて観察すると捉えましょう。つまり雑巾を手に持つことで設備に触れることになります。顔や頭を近づけて、これら五感を使っていくのです。これらは生きているうちにしか使えないもので、自らの感性磨きにもなります。そうして汚れやホコリを除去すれば、見えなかった不具合が次第に見え始めてきます。

 ネジの緩み、コネクタのガタ、ホースやコードのひび割れ、保護キャップやカバーの破損、フィルターの目詰まりによる温度上昇、油切れによる焼き付けや磨耗など、多くの現象が見えるようになります。さらに清掃することで設備や周囲が綺麗になっていくと、心も清々(すがすが)しくなるから不思議なことです。

 不具合個所にはその内容を簡単に記入できる付箋(ふせん)を貼り付けます。その付箋を付けた場所が一覧で分かるよう、設備のレイアウトマップに付箋の番号と共に記入していきます。これで、どこに問題が多いのか見えてきます。

 この体験をすることで、次第に異常に気付くようになります。不具合個所を保全マンと一緒に、購入した時の新品のように設備を復元していきます。簡単なことですが、毎月故障していた設備が故障しなくなったという事例はいくらでもあります。コストをかけなくても、とても簡単に効果を出すことができます。

 

3. 毎日の清掃で故障知らずに

 一回だけの設備清掃では元に戻ってしまうことがあります。継続した活動にしていくことが大切になってきます。私たちは1週間も風呂に入らなければ体中が臭くなってしまいます。設備も私たちと一緒に毎日働いているのです。働くから汚れる(劣化する)のは当たり前ですが、汚れない工夫も清掃することで気付くようになります。

 切粉が発生する所に局所カバーを付けるだけで他に飛散しなくなり、清掃が楽になり時間も短縮できます。ある工場でオイルパンに一滴の油がないように綺麗に清掃しました。一滴漏れるとすぐにその発生個所が分かり、即座に対応できるようになりました。

 

 ホコリや汚れの除去や潤滑油の給油、ネジの増し締め、フィルターの交換など、点検個所を決めて定期的に清掃しながら点検をしていくようにします。

 これは保全マンではなく、その設備で働いているオペレーター自身が取り組む必要があります。設備は赤ちゃんと一緒だと思ってください。自分で風呂に行くことができず、自分で洗うことや給油することもできないのです。可愛いわが子であったらオムツの交換も進んでできます。毎日の清掃を通して点検することで、小さな不具合をすぐ発見し、対策することを繰り返して、故障知らずの設備にしたいものです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ(その5)できる改善と必要な改善 」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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