先行技術テーマを企画段階で評価するには

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1.先行技術開発

 
 イノベーションイノベーション、すなわち価値創造がものづくり企業におけるR&Dのミッションとして期待される中で、それを実現する先行技術開発は、現場の重要な課題になっています。先行技術開発の起点は未来です。想定する時間軸は、業界の特性によって異なりますが、短い企業でも3年先、長い企業であれば、10~15年先を見据えてという形で取り組みます。基本的な進め方として、現在から未来を拡大する展開思考型と、未来から現在に落とし込む逆算思考型があり、前者はフォワードキャスティング、後者をバックキャスティングと言われます。また、この両者を組み合わせて取り組む場合もあります。
 
 バックキャスティングによる先行技術の企画・開発は人気のあるやり方で、多くの企業のR&Dで取り組まれていますが、「企画内容が現在の延長線上とあまり変わらない」「企画内容はよいが、結局技術開発に進めていない」など、なかなか期待するような結果に繋がっていない例を目にします。なぜ、うまくいかないのか、その原因として、企画・開発のやり方よりもむしろ、先行技術に関わる関係者のマインド(意識・姿勢・考え方)にあるとケースが多いと考えています。そして、そのような企業の多くは、マインドの課題を認識・解決しないまま、企画・開発のプロセスや手法の導入ばかりに目を奪われているような印象を受けます。
 

2.短期開発テーマと先行技術テーマ

 
 中長期の未来を見据えて取り組む先行技術開発テーマと現在の商品のための短期開発テーマとは、それらを取り組むうえでのマインドが決定的に異なります。短期開発テーマは、いかにスピーディーかつ確実に製品ないしは技術を最適化して造り込めるかが問われます。そのためには、計画が非常に重要になります。想定される課題とリスクを抜けもれなく洗い出し、それを確実に潰し込む開発プロセスと、関連部門と密にコミュニケーションをとり、協働しながら無駄なく動くチームをつくることが鍵になります。
 
 一方、先行技術テーマは、未知への挑戦です。すなわち、やってみなければわからないことばかりです。そこでは、いかに計画を精緻に立てたとしてもあまり意味をなしません。むしろ、いくつかの想定される仮説を立てながら行動し、そのなかから得られた情報を考察・解釈しながら知識に変換していく学習サイクルを、いかに効果的に回せるかが鍵になります。少し乱暴な表現をすれば、「思いついたらまずやってみる。そして、考える」、すなわち「動きながら考える」のマインドです。未知の先行技術に取り組むためには、ある意味フットワークの軽さが求められます。
 

3.先行技術テーマを企画段階で評価する4項目

 
 実際のR&D現場では、前述の「やってみる」ということが意外に難しいのです。そして、その原因は、技術者、研究者自身だけでなくテーマを評価する経営者、管理者のマインドに起因する場合も多いと感じています。その象徴的なシーンが、テーマ企画会議やレビューの場です。そもそも未来を起点にした先行技術テーマにおいて、正確かつ詳細な計画を立てることなど不可能であるにも関わらず、テーマの企画内容について、「本当にそのような顧客はいるのか」「定量的な市場規模はいくらなのか」「本当にそれが売れるのか」「競合他社との差別化はどうするのか」「本当にその技術方式が標準になるのか」「技術課題をしっかりばらしているのか」など、まるで短期開発テーマをレビューするような質問が、評価者である経営者や管理者から繰り返されます。「そんなこと、正確にわかるわけはないじゃないか・・・」と技術者、研究者は心の中でつぶやきながら、何とか企画をでっちあげ、レビューの場を乗り切ろうとするか、企画内容をより現実的な形にグレードダウンしてしまうか、やる気を失ってテーマを止めてしまう、ないしは立ち消えてしまう場合が多いのです。皮肉なことに、テーマ企画評価の場で、上記のような質問を繰り返す経営者、管理者ほど、「現場の技術者、研究者からイノベーティブなアイデアが出てこない。未来を見据えた先行技術開発がなかなかうまくいかない。」と嘆いています。テーマを企画段階で評価するには、下記の4項目です。
 

  ◆テーマを企画段階で評価する4項目

 
   ① 世の中の変化の潮流を捉えているか(トレンドに対する認識)
   ② 先行技術テーマが生み出す顧客価値と事業のインパクトはどうか(価値創造のビジョン)
   ③...

1.先行技術開発

 
 イノベーションイノベーション、すなわち価値創造がものづくり企業におけるR&Dのミッションとして期待される中で、それを実現する先行技術開発は、現場の重要な課題になっています。先行技術開発の起点は未来です。想定する時間軸は、業界の特性によって異なりますが、短い企業でも3年先、長い企業であれば、10~15年先を見据えてという形で取り組みます。基本的な進め方として、現在から未来を拡大する展開思考型と、未来から現在に落とし込む逆算思考型があり、前者はフォワードキャスティング、後者をバックキャスティングと言われます。また、この両者を組み合わせて取り組む場合もあります。
 
 バックキャスティングによる先行技術の企画・開発は人気のあるやり方で、多くの企業のR&Dで取り組まれていますが、「企画内容が現在の延長線上とあまり変わらない」「企画内容はよいが、結局技術開発に進めていない」など、なかなか期待するような結果に繋がっていない例を目にします。なぜ、うまくいかないのか、その原因として、企画・開発のやり方よりもむしろ、先行技術に関わる関係者のマインド(意識・姿勢・考え方)にあるとケースが多いと考えています。そして、そのような企業の多くは、マインドの課題を認識・解決しないまま、企画・開発のプロセスや手法の導入ばかりに目を奪われているような印象を受けます。
 

2.短期開発テーマと先行技術テーマ

 
 中長期の未来を見据えて取り組む先行技術開発テーマと現在の商品のための短期開発テーマとは、それらを取り組むうえでのマインドが決定的に異なります。短期開発テーマは、いかにスピーディーかつ確実に製品ないしは技術を最適化して造り込めるかが問われます。そのためには、計画が非常に重要になります。想定される課題とリスクを抜けもれなく洗い出し、それを確実に潰し込む開発プロセスと、関連部門と密にコミュニケーションをとり、協働しながら無駄なく動くチームをつくることが鍵になります。
 
 一方、先行技術テーマは、未知への挑戦です。すなわち、やってみなければわからないことばかりです。そこでは、いかに計画を精緻に立てたとしてもあまり意味をなしません。むしろ、いくつかの想定される仮説を立てながら行動し、そのなかから得られた情報を考察・解釈しながら知識に変換していく学習サイクルを、いかに効果的に回せるかが鍵になります。少し乱暴な表現をすれば、「思いついたらまずやってみる。そして、考える」、すなわち「動きながら考える」のマインドです。未知の先行技術に取り組むためには、ある意味フットワークの軽さが求められます。
 

3.先行技術テーマを企画段階で評価する4項目

 
 実際のR&D現場では、前述の「やってみる」ということが意外に難しいのです。そして、その原因は、技術者、研究者自身だけでなくテーマを評価する経営者、管理者のマインドに起因する場合も多いと感じています。その象徴的なシーンが、テーマ企画会議やレビューの場です。そもそも未来を起点にした先行技術テーマにおいて、正確かつ詳細な計画を立てることなど不可能であるにも関わらず、テーマの企画内容について、「本当にそのような顧客はいるのか」「定量的な市場規模はいくらなのか」「本当にそれが売れるのか」「競合他社との差別化はどうするのか」「本当にその技術方式が標準になるのか」「技術課題をしっかりばらしているのか」など、まるで短期開発テーマをレビューするような質問が、評価者である経営者や管理者から繰り返されます。「そんなこと、正確にわかるわけはないじゃないか・・・」と技術者、研究者は心の中でつぶやきながら、何とか企画をでっちあげ、レビューの場を乗り切ろうとするか、企画内容をより現実的な形にグレードダウンしてしまうか、やる気を失ってテーマを止めてしまう、ないしは立ち消えてしまう場合が多いのです。皮肉なことに、テーマ企画評価の場で、上記のような質問を繰り返す経営者、管理者ほど、「現場の技術者、研究者からイノベーティブなアイデアが出てこない。未来を見据えた先行技術開発がなかなかうまくいかない。」と嘆いています。テーマを企画段階で評価するには、下記の4項目です。
 

  ◆テーマを企画段階で評価する4項目

 
   ① 世の中の変化の潮流を捉えているか(トレンドに対する認識)
   ② 先行技術テーマが生み出す顧客価値と事業のインパクトはどうか(価値創造のビジョン)
   ③ 自社の技術資源の何を活かすのか、新たに必要な技術はなにか(技術の活用と獲得)
   ④ まずどこから取り組み(やってみる)、その結果として何を学ぶのか(学習サイクル)
 
  経営者、管理者の仕事は、この4点を技術者、研究者が、具体的なストーリーとして自分の言葉で語れるかを評価し、テーマに対する思いと熱意を確認しながら、「やってみる」ために必要なアドバイスを与えることです。
 
 「計画の精緻さではなく、価値創造・事業創造のビジョン及びストーリーと研究者の思い・熱意にこだわる」 「10考えて1進むのではなく、1考えて1進むことを10回繰り返す」シンプルですが、重要なこれらのマインドを、先行技術を企画・開発する技術者、研究者と、それを評価する経営者、管理者がともに共有する必要があります。
 
 

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この記事の著者

平木 肇

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。


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