マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは

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データサイエンス

 

科学の研究を進めるときに実験は重要です。この実験で得られたデータは仮説の真偽を検討するために使用されます。これまで企業の研究開発で行う実験もこのような科学の研究に準じて行われてきました。

 

材料科学の分野ではマテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる研究が注目されています。さらに、データサイエンス学部を設置する大学が増加しており、「データ」という情報をもとに現象を考察する技法がアカデミアの潮流となりつつあります。

 

情報科学が進歩し、多量のデータを容易に処理できる時代に、これを活用して効率を上げるだけでなく、そこから思いもよらぬアイデアが浮かぶかもしれないという期待が高まってきました。現象を表現しているデータ群を利用し AIを用いたデータマイニングで新しい「知」を取り出そうと人類が活動を始めたのです。

 

今回は、このような背景を踏まえて、マテリアルズ・インフォマティクスの概要を解説します。

 

1.今、なぜマテリアルズ・インフォマティクスなのか

様々な最終製品は競争が激しく、技術の進歩も非常に早いのです。そして、技術進歩の鍵は、バッテリーやセンサーなど各種の部品が握っています。製品の性能を飛躍的に向上させるため、各種の部品を形成する材料が着目されるとともに、その特性を大きく左右する材料開発も非常に活発に行われています。

 

いい材料を作成するには、検討ファクターとして例えば温度、時間、圧力、材料投入タイミング、方法、触媒の有無など実験パラメータがたくさんあり、それを過去のデータ、経験、勘をもとに最適化しなければならなくて実験の条件出しでも時間がかかります。それをマテリアルズ・インフォマティクスなどで自動で条件出しがされれば、科学者はクリエイティブなことに頭と時間を使うことができ、開発効率化にもなります。

 

実験や論文を解析して素材の分子構造や製造方法を予測するなど、デジタル化の進展で膨大なデータを高性能な情報処理装置で操れるようになり、近年、素材分野での応用が広がりつつあります。

 

これまでの材料探索は、ひとりの研究者が知識と経験に基づいて化合物を選定・設計して多量の合成をして、その特性評価をするということが広く行われてきました。

 

物質特性をCPU上で計算された材料データベースやAIなどを活用するマテリアルズ・インフォマティクスによって、研究者の直観と知識をデータで支え、時間とコストを大幅に削減することが期待されています。

 

2.マテリアルズ・インフォマティクスとは

そもそもマテリアルズ・インフォマティクスの始まりは、2011年に米国で開始されたMaterials Genome Initiative(MGI)と言われています。それ以降は、世界中で同様のプロジェクトが立ち上がり始め、多くのオープンな材料データベースが整備されてきました。それらは発表された論文から地道にデータを取得している場合もあれば、第一原理計算によって片っ端からデータを揃えている場合もあります。日本では国立研究開発法人_物質・材料研究機構(NIMS)のMatNaviがあります。

 

3.マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を用いた材料開発

AIなどの技術発展により材料研究において注目が集まっているのがマテリアルズ・インフォマティクス(MI)という分野です。MIとは、材料に関する大量の情報を基にコンピュータとAIを活用することで、新素材や代替素材を効率的に探索する手法です。

 

従来の実験科学を中心とする手法と異なりMIは、AIを用いて効率化を目指す開発手法で計算科学・データ駆動型の手法であり、素材開発を向上する事例も報告されています。MIの発展により、元素組成や原子間距離などの基礎パラメータと保磁力や伝熱特性等のマクロな物性データを集め、ある物性に関係するパラメータを見出し、新しい材料設計手法を生み出すことも期待されています。

 

従来、暗黙知とされていた部分が多い製造プロセスも温度や応力といったパラメータと製造物の物性データを蓄積して関係性を見いだすことで、効率的な製造プロセスなどを生み出すことができるかもしれません。

 

またMIの環境が整った場合の単純作業による開発費用のコストダウンは計り知れないものと推測され、その分をより高度な検討にリソースを向けられる期待を持てます。

 

4.マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのデータ駆動型研究開発プラットフォーム

マテリアルズ・インフォマティクスをはじめとする様々なデータ駆動型研究開発手法が提案されて、既存の経験的・理論的枠組みにとらわれない新たな研究アプローチが実践されています。実際に個々の手法を研究業務として導入するためには、即座に分析可能な形に蓄積されたデータより出力できること、高精度な機械学習手法を利用できることが求められます。それを実現するためには、データ駆動型の研究開発プラ...

データサイエンス

 

科学の研究を進めるときに実験は重要です。この実験で得られたデータは仮説の真偽を検討するために使用されます。これまで企業の研究開発で行う実験もこのような科学の研究に準じて行われてきました。

 

材料科学の分野ではマテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる研究が注目されています。さらに、データサイエンス学部を設置する大学が増加しており、「データ」という情報をもとに現象を考察する技法がアカデミアの潮流となりつつあります。

 

情報科学が進歩し、多量のデータを容易に処理できる時代に、これを活用して効率を上げるだけでなく、そこから思いもよらぬアイデアが浮かぶかもしれないという期待が高まってきました。現象を表現しているデータ群を利用し AIを用いたデータマイニングで新しい「知」を取り出そうと人類が活動を始めたのです。

 

今回は、このような背景を踏まえて、マテリアルズ・インフォマティクスの概要を解説します。

 

1.今、なぜマテリアルズ・インフォマティクスなのか

様々な最終製品は競争が激しく、技術の進歩も非常に早いのです。そして、技術進歩の鍵は、バッテリーやセンサーなど各種の部品が握っています。製品の性能を飛躍的に向上させるため、各種の部品を形成する材料が着目されるとともに、その特性を大きく左右する材料開発も非常に活発に行われています。

 

いい材料を作成するには、検討ファクターとして例えば温度、時間、圧力、材料投入タイミング、方法、触媒の有無など実験パラメータがたくさんあり、それを過去のデータ、経験、勘をもとに最適化しなければならなくて実験の条件出しでも時間がかかります。それをマテリアルズ・インフォマティクスなどで自動で条件出しがされれば、科学者はクリエイティブなことに頭と時間を使うことができ、開発効率化にもなります。

 

実験や論文を解析して素材の分子構造や製造方法を予測するなど、デジタル化の進展で膨大なデータを高性能な情報処理装置で操れるようになり、近年、素材分野での応用が広がりつつあります。

 

これまでの材料探索は、ひとりの研究者が知識と経験に基づいて化合物を選定・設計して多量の合成をして、その特性評価をするということが広く行われてきました。

 

物質特性をCPU上で計算された材料データベースやAIなどを活用するマテリアルズ・インフォマティクスによって、研究者の直観と知識をデータで支え、時間とコストを大幅に削減することが期待されています。

 

2.マテリアルズ・インフォマティクスとは

そもそもマテリアルズ・インフォマティクスの始まりは、2011年に米国で開始されたMaterials Genome Initiative(MGI)と言われています。それ以降は、世界中で同様のプロジェクトが立ち上がり始め、多くのオープンな材料データベースが整備されてきました。それらは発表された論文から地道にデータを取得している場合もあれば、第一原理計算によって片っ端からデータを揃えている場合もあります。日本では国立研究開発法人_物質・材料研究機構(NIMS)のMatNaviがあります。

 

3.マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を用いた材料開発

AIなどの技術発展により材料研究において注目が集まっているのがマテリアルズ・インフォマティクス(MI)という分野です。MIとは、材料に関する大量の情報を基にコンピュータとAIを活用することで、新素材や代替素材を効率的に探索する手法です。

 

従来の実験科学を中心とする手法と異なりMIは、AIを用いて効率化を目指す開発手法で計算科学・データ駆動型の手法であり、素材開発を向上する事例も報告されています。MIの発展により、元素組成や原子間距離などの基礎パラメータと保磁力や伝熱特性等のマクロな物性データを集め、ある物性に関係するパラメータを見出し、新しい材料設計手法を生み出すことも期待されています。

 

従来、暗黙知とされていた部分が多い製造プロセスも温度や応力といったパラメータと製造物の物性データを蓄積して関係性を見いだすことで、効率的な製造プロセスなどを生み出すことができるかもしれません。

 

またMIの環境が整った場合の単純作業による開発費用のコストダウンは計り知れないものと推測され、その分をより高度な検討にリソースを向けられる期待を持てます。

 

4.マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのデータ駆動型研究開発プラットフォーム

マテリアルズ・インフォマティクスをはじめとする様々なデータ駆動型研究開発手法が提案されて、既存の経験的・理論的枠組みにとらわれない新たな研究アプローチが実践されています。実際に個々の手法を研究業務として導入するためには、即座に分析可能な形に蓄積されたデータより出力できること、高精度な機械学習手法を利用できることが求められます。それを実現するためには、データ駆動型の研究開発プラットフォームが重要な基盤となります。すなわち、データ駆動型研究開発(マテリアルズ・インフォマティクスを始めとする)には、シミュレーションデータや実験データをもとに、最適パラメータ推定を行う機械学習手法が用いられます。

 

恐らくまず取りかかるのは、既存データのデジタル化で最初壁にぶつかってしまう企業が日本では多いのではないかと推測しています。しかし、実は大事なのはその後である材料ファクターから計算される結果と、実際に精製されるであろう材料の性能差つまりは精度をどこまで詰めていけるかが重要なポイントになり得ます。

 

データ駆動型R&Dに必要なチームメンバーは、数値計算の専門家はもとより、実験のエキスパート、そして未経験者であっても、デジタルラボアーキテクト(データの流れを設計・管理するメンバー)としてデータ駆動型研究開発を実践することが必要です。材料シミュレーションや機械学習の専門家は、社内展開のための共有プラットフォームづくりも必要です。

 

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この記事の著者

鈴木 崇司

IoT機構設計コンサルタント ~一気通貫:企画から設計・開発、そして品質管理、製造まで一貫した開発を~

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