技術者倫理とは?

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技術者倫理

 

技術者倫理、倫理綱領は知っているが、何となく腑に落ちないというあなたに、技術者倫理の考え方とその必要性を解説します。

◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

 

技術者倫理を検索してダウンロードして、知識として持っているだけでは不十分で、自ら考え、考え続け、行動規範として技術倫理、規範の意識を持ち続けることが研究者・専門家・エンジニアとして重要です。

 

1.技術者倫理とは

技術者倫理は、現代技術があまねく社会実験であるとの前提で、被験者の人権をどのように守るかを考えた倫理です。説明責任と公益の確保から構成されています。

 

【説明責任】

これは社会実験の被験に対して説明をして納得を得たうえで実施するということです。これは技術の導入時のみではなく、製品で問題を起こした場合には、それについての説明責任が求められることになります。国際規格においては、技術者倫理の概念が基本哲学として用いられており、この概念の上に規格が制定されています。

 

【公益の確保】

これは、技術によって社会の利益を損なうことが無いように対応することです。つまり、人を死亡や負傷させる事故が起きたり、経済的損失を生じたり、環境を破壊したりしないようにすることです。

 

【安全文化に向けた体制構築】

「報告の徹底」と「安全を第一義とした柔軟な対応の徹底」のために、安全文化に向けた体制構築が必要です。まず、「報告の徹底」のために安全上の問題をエスカレーションするルートを作成する必要があります。このルートは安全上の問題だけを担当する別ルートであることが望まれます。別ルートの意味は、通常業務を執行しているルートと異なるルートとすることです。なぜそうするかというと、通常業務執行の責任者は業務の予定どおりの執行や製品の安全問題に関して責任がありますので、そこを通しての報告の場合には隠ぺいが行われる可能性があるからです。この別ルートは社内で構築することもできますが、技術に精通した外部の技術者を入れるとより効果的です。これによって、第三者の視点で安全問題を確認するセカンドオピニオンの意味を持たせることできますので、消費者に対して安全設計を説明するうえでも役立ちます。

 

2.技術者倫理を学ぶ必要性

倫理は人間共通の普遍倫理、それから個人倫理がありますが、この他に職業倫理があります。技術者倫理とはこの職業倫理です。技術者によって高機能な物が世に出され、人々がその恩恵を受けています。同時に、過去に経験したことのない科学・技術に関連する事件・事故および企業の不祥事が続発する時代になりました。そして、リスクマネジメント・企業の社会的責任・コンプライアンスなどと同様に技術者倫理という言葉を紙面、ニュースで目にするようになりました。

 

技術を司る役割は技術者に委ねられています。企業倫理の本質を技術者が理解せずに誤った方向に技術を行使すれば諸刃の剣となります。技術者は専門領域の知識だけでなく、歴史観と社会性に基づき何はしてよいか、何はしてはならないかを判断し、行動できることが求められています。技術士をはじめ、多くの技術系専門職資格の根拠法や綱領などにおいて最優先での遵守が求められていることも、技術者倫理を学ぶことの重要性を示しています。

 

3.技術者倫理を向上させるには

企業人として意識すべき責任は、社会への責任です。これが欠落しては、安全と安心を望む社会の声を無視することとなり、技術者倫理を向上させることは出来ません。技術者は損失回避を求める会社の声より公益の確保を優先させて、技術者倫理を向上させるのです。

 

4.技術者倫理が問われる場面

技術者が意識すべき企業人の責任、それは社会への責任です。消費者の、安全と安心を望む社会の声を無視することは許されません。社会人としての責任を果たすことの他、法律、規則など決まりごとや世間の慣習に従うものをモラルとすれば、人間としてのモラル、社会人としてのモラル、組織人としてのモラル、技術者としてのモラルが技術者倫理に問われる場面です。

 

状況・立場により行動の指針として採るべき責任の中身が異なりますが、技術者は、人間として社会人としての基本的なモラルには従うべきであるのは当然です。それ以外にも特に技術者に要求されるモラルもあるでしょう。しかし社会人としてのモラルと技術者としてのモラルは共存しない部分があります。技術者がモラルの問題に直面した場合...

技術者倫理

 

技術者倫理、倫理綱領は知っているが、何となく腑に落ちないというあなたに、技術者倫理の考え方とその必要性を解説します。

◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

 

技術者倫理を検索してダウンロードして、知識として持っているだけでは不十分で、自ら考え、考え続け、行動規範として技術倫理、規範の意識を持ち続けることが研究者・専門家・エンジニアとして重要です。

 

1.技術者倫理とは

技術者倫理は、現代技術があまねく社会実験であるとの前提で、被験者の人権をどのように守るかを考えた倫理です。説明責任と公益の確保から構成されています。

 

【説明責任】

これは社会実験の被験に対して説明をして納得を得たうえで実施するということです。これは技術の導入時のみではなく、製品で問題を起こした場合には、それについての説明責任が求められることになります。国際規格においては、技術者倫理の概念が基本哲学として用いられており、この概念の上に規格が制定されています。

 

【公益の確保】

これは、技術によって社会の利益を損なうことが無いように対応することです。つまり、人を死亡や負傷させる事故が起きたり、経済的損失を生じたり、環境を破壊したりしないようにすることです。

 

【安全文化に向けた体制構築】

「報告の徹底」と「安全を第一義とした柔軟な対応の徹底」のために、安全文化に向けた体制構築が必要です。まず、「報告の徹底」のために安全上の問題をエスカレーションするルートを作成する必要があります。このルートは安全上の問題だけを担当する別ルートであることが望まれます。別ルートの意味は、通常業務を執行しているルートと異なるルートとすることです。なぜそうするかというと、通常業務執行の責任者は業務の予定どおりの執行や製品の安全問題に関して責任がありますので、そこを通しての報告の場合には隠ぺいが行われる可能性があるからです。この別ルートは社内で構築することもできますが、技術に精通した外部の技術者を入れるとより効果的です。これによって、第三者の視点で安全問題を確認するセカンドオピニオンの意味を持たせることできますので、消費者に対して安全設計を説明するうえでも役立ちます。

 

2.技術者倫理を学ぶ必要性

倫理は人間共通の普遍倫理、それから個人倫理がありますが、この他に職業倫理があります。技術者倫理とはこの職業倫理です。技術者によって高機能な物が世に出され、人々がその恩恵を受けています。同時に、過去に経験したことのない科学・技術に関連する事件・事故および企業の不祥事が続発する時代になりました。そして、リスクマネジメント・企業の社会的責任・コンプライアンスなどと同様に技術者倫理という言葉を紙面、ニュースで目にするようになりました。

 

技術を司る役割は技術者に委ねられています。企業倫理の本質を技術者が理解せずに誤った方向に技術を行使すれば諸刃の剣となります。技術者は専門領域の知識だけでなく、歴史観と社会性に基づき何はしてよいか、何はしてはならないかを判断し、行動できることが求められています。技術士をはじめ、多くの技術系専門職資格の根拠法や綱領などにおいて最優先での遵守が求められていることも、技術者倫理を学ぶことの重要性を示しています。

 

3.技術者倫理を向上させるには

企業人として意識すべき責任は、社会への責任です。これが欠落しては、安全と安心を望む社会の声を無視することとなり、技術者倫理を向上させることは出来ません。技術者は損失回避を求める会社の声より公益の確保を優先させて、技術者倫理を向上させるのです。

 

4.技術者倫理が問われる場面

技術者が意識すべき企業人の責任、それは社会への責任です。消費者の、安全と安心を望む社会の声を無視することは許されません。社会人としての責任を果たすことの他、法律、規則など決まりごとや世間の慣習に従うものをモラルとすれば、人間としてのモラル、社会人としてのモラル、組織人としてのモラル、技術者としてのモラルが技術者倫理に問われる場面です。

 

状況・立場により行動の指針として採るべき責任の中身が異なりますが、技術者は、人間として社会人としての基本的なモラルには従うべきであるのは当然です。それ以外にも特に技術者に要求されるモラルもあるでしょう。しかし社会人としてのモラルと技術者としてのモラルは共存しない部分があります。技術者がモラルの問題に直面した場合、はっきりと善・悪を区別した解決ができる場合はほとんどなく、どの位までなら許容できるかという判断に帰結できる場合が多いでしょう。この意味から技術者の倫理を考えるにあたっては、技術者として特有なモラルと社会人が持つべきモラルとは区別した方が良いでしょう。

最後に、日本機械学会倫理規定の前文を示して、この記事のまとめとします。

 

『本会会員は、真理の探究と技術の革新に挑戦し、新しい価値を創造することによって、文明と文化の発展および人類の安全、健康、福祉に貢献することを使命とする。また、科学技術が地球環境と人類社会に重大な影響を与えることを認識し、技術専門職として職務を遂行するにあたって、自らの良心と良識に従う自律ある行動が、科学技術の発展と人類の福祉にとって不可欠であることを自覚し、社会からの信頼と尊敬を得るために、以下に定める倫理綱領を遵守することを誓う。』

 

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この記事の著者

嶋村 良太

商品企画・デザインとエンジニアリングの両方の視点を統合し、顧客満足度の高い商品開発を実現していきます。

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