機械学習とリーンシックスシグマ

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 最近はテレビや新聞でも人工知能(AI)、IoT、ビッグデータという言葉が当たり前のように使われるようになりました。僕が勤める会社でもそれに関連してなのか、データ解析(Analytics )分野の研究や製品開発が進んでいます。リーンシックスシグマも例外ではありません。もしかしたら今後、リーンシックスシグマが人口知能を取り入れていくかもしれません。いやむしろ、人口知能が時代遅れのリーンシックスシグマに取って代わってしまうかもしれません。そんな危機感もあり、今回は人工知能の中でも特に機械学習についてです。
 
 まず、色々と機械学習に関連した本やサイトを読んでいて感じたことは、次の3点です。
 
  • 機械学習で使っている言葉はリーンシックスシグマとは違うけれど、やっていること自体はそれほど違いがない
  • リーンシックスシグマの知識と経験があれば、機械学習に十分対応できる
  • リーンシックスシグマの実務者にとって、機械学習、恐るるに足らず
 
 結論から先に言えば、「リーンシックスシグマは時代の先を走っていたのか」と僕には思えました。
 

1. リーンシックスシグマによるシステムの最適化

 
 リーンシックスシグマでは、対象とするシステム(生産システム、事務処理、製品設計、品質など)が複雑過ぎてよく分からない(ブラックボックス化されている)とき、DOE(Design of Experiments 実験計画法)を使って、そのシステムを理解しようとします。システムを理解しない限り、システムの最適化やシステムの向上が図れないからです。
 
 情報マネジメント
 

(1) データの準備

 
 DOE では解析に必要となるデータ(入力パラメータ)をあらかじめ準備します。次のステップである「データの取得」は時間やコストがかかるため、それを少しでも削減するために、統計的に意味のある入力パラメータを準備します。
 

(2) データの取得

 
 準備したデータをシステムに与えます。「システムのパラメータを計画的に変更する」と言った方が正確かもしれません。そしてその結果(出力)をシステムから取得します。
 

(3) モデルの開発と評価

 
 システムへの入力値と、それに応じたシステムからの出力を使って、統計的にシステムをモデル(数式)化します。モデル化に使う統計的手法としては、線形や非線形の重回帰分析や、ロジスティック回帰分析などがあります。
 

(4) モデルの生成

 
 主要因子だけを使ったモデル(数式)によってシステムを表現します。
 

(5) モデルの応用

 
 モンテカルロ・シミュレーションなどにモデルを与え、システムの能力や可変性などを評価します。実際のシステムにおいて入力パラメータをどれだけ変更できるのかなど、その調整範囲なども確認します。
 

(6) 最適化

 
 システムからの出力が最適になるよう、入力パラメータを調整します。最適化には線形計画法や非線形計画法などを使います。そして調整した入力パラメータをシステムに与え、後は実際のシステムからの出力が最適になるまで、その処理を繰り返します。
 
 (1)~(6)が DOE を使ったリーンシックスシグマによるシステム最適化の大体のやり方です。
 

2. 機械学習によるシステムの予測

 
 リーンシックスシグマと異なり、機械学習はシステムを良くするためのツールではありません。一方リーンシックスシグマと同様に、機械学習は分からないシステムを理解するためのツールだと言えます。それは最終的な目的が、リーンシックスシグマの場合はシステムの最適化であり、機械学習の場合はシステムの予測であることからも分かります。
 
 情報マネジメント
 

(1) データの取得

 
 大量のデータ(所謂ビッグデータ)をシステムから取得します。IoT による装置からのデータ取得であったり、マーケティングによる市場からのデータであったりします。
 

(2) データの準備

 
 リーンシックスシグマの DOE とは違い、統計的に計画して取得したデータではないので、雑多なデータが混ざり込んでいます。それを統計処理ができるようになるまで、取得したデータを綺麗に整理します。
 

(3) モデルの学習と評価

 
 統計処理が可能なように準備されたデータを使って、システムをモデル(数式)化します。モデル化に使う統計的手法としては、リーンシックスシグマでも良く使う線形・非線形の重回帰分析、ロジスティック回帰分析などの他に、ナイーブベイズ分類、サポートベクターマシン、K-平均法などがあります。
 

(4) モデルの生成

 
 色々な統計的手法を試してみて、最終的にもっとも良くシステム(入力データに対する出力結果)を説明できるモデルを生成します。
 

(5) モデルの応用

 
 新たにデータを取得して、生成したモデルに与えます。
 

(6) 予測

 
 新たなデータを使って、モデルにより結果を予測します。
 
 上記二つの図を比べると、DOE を使ったリーンシックスシグマも、機械学習も、そのプロセスはとても良く似ていることが分かります。実際にリーンシックスシグマで使う統計処理ツール(例えば Minitab や MATLAB、R など)が機械学習でも使えますし、使う統計処理も良く似ています。機械学習で使うビッグデータの場合は、データ数が多い分、統計的な制約が少ないため処理が簡単な場合もあります。
 
 両者の違いは、リーンシックスシグマがシステムの入力パラメータを変えることを前提とした「システム...
 
 最近はテレビや新聞でも人工知能(AI)、IoT、ビッグデータという言葉が当たり前のように使われるようになりました。僕が勤める会社でもそれに関連してなのか、データ解析(Analytics )分野の研究や製品開発が進んでいます。リーンシックスシグマも例外ではありません。もしかしたら今後、リーンシックスシグマが人口知能を取り入れていくかもしれません。いやむしろ、人口知能が時代遅れのリーンシックスシグマに取って代わってしまうかもしれません。そんな危機感もあり、今回は人工知能の中でも特に機械学習についてです。
 
 まず、色々と機械学習に関連した本やサイトを読んでいて感じたことは、次の3点です。
 
  • 機械学習で使っている言葉はリーンシックスシグマとは違うけれど、やっていること自体はそれほど違いがない
  • リーンシックスシグマの知識と経験があれば、機械学習に十分対応できる
  • リーンシックスシグマの実務者にとって、機械学習、恐るるに足らず
 
 結論から先に言えば、「リーンシックスシグマは時代の先を走っていたのか」と僕には思えました。
 

1. リーンシックスシグマによるシステムの最適化

 
 リーンシックスシグマでは、対象とするシステム(生産システム、事務処理、製品設計、品質など)が複雑過ぎてよく分からない(ブラックボックス化されている)とき、DOE(Design of Experiments 実験計画法)を使って、そのシステムを理解しようとします。システムを理解しない限り、システムの最適化やシステムの向上が図れないからです。
 
 情報マネジメント
 

(1) データの準備

 
 DOE では解析に必要となるデータ(入力パラメータ)をあらかじめ準備します。次のステップである「データの取得」は時間やコストがかかるため、それを少しでも削減するために、統計的に意味のある入力パラメータを準備します。
 

(2) データの取得

 
 準備したデータをシステムに与えます。「システムのパラメータを計画的に変更する」と言った方が正確かもしれません。そしてその結果(出力)をシステムから取得します。
 

(3) モデルの開発と評価

 
 システムへの入力値と、それに応じたシステムからの出力を使って、統計的にシステムをモデル(数式)化します。モデル化に使う統計的手法としては、線形や非線形の重回帰分析や、ロジスティック回帰分析などがあります。
 

(4) モデルの生成

 
 主要因子だけを使ったモデル(数式)によってシステムを表現します。
 

(5) モデルの応用

 
 モンテカルロ・シミュレーションなどにモデルを与え、システムの能力や可変性などを評価します。実際のシステムにおいて入力パラメータをどれだけ変更できるのかなど、その調整範囲なども確認します。
 

(6) 最適化

 
 システムからの出力が最適になるよう、入力パラメータを調整します。最適化には線形計画法や非線形計画法などを使います。そして調整した入力パラメータをシステムに与え、後は実際のシステムからの出力が最適になるまで、その処理を繰り返します。
 
 (1)~(6)が DOE を使ったリーンシックスシグマによるシステム最適化の大体のやり方です。
 

2. 機械学習によるシステムの予測

 
 リーンシックスシグマと異なり、機械学習はシステムを良くするためのツールではありません。一方リーンシックスシグマと同様に、機械学習は分からないシステムを理解するためのツールだと言えます。それは最終的な目的が、リーンシックスシグマの場合はシステムの最適化であり、機械学習の場合はシステムの予測であることからも分かります。
 
 情報マネジメント
 

(1) データの取得

 
 大量のデータ(所謂ビッグデータ)をシステムから取得します。IoT による装置からのデータ取得であったり、マーケティングによる市場からのデータであったりします。
 

(2) データの準備

 
 リーンシックスシグマの DOE とは違い、統計的に計画して取得したデータではないので、雑多なデータが混ざり込んでいます。それを統計処理ができるようになるまで、取得したデータを綺麗に整理します。
 

(3) モデルの学習と評価

 
 統計処理が可能なように準備されたデータを使って、システムをモデル(数式)化します。モデル化に使う統計的手法としては、リーンシックスシグマでも良く使う線形・非線形の重回帰分析、ロジスティック回帰分析などの他に、ナイーブベイズ分類、サポートベクターマシン、K-平均法などがあります。
 

(4) モデルの生成

 
 色々な統計的手法を試してみて、最終的にもっとも良くシステム(入力データに対する出力結果)を説明できるモデルを生成します。
 

(5) モデルの応用

 
 新たにデータを取得して、生成したモデルに与えます。
 

(6) 予測

 
 新たなデータを使って、モデルにより結果を予測します。
 
 上記二つの図を比べると、DOE を使ったリーンシックスシグマも、機械学習も、そのプロセスはとても良く似ていることが分かります。実際にリーンシックスシグマで使う統計処理ツール(例えば Minitab や MATLAB、R など)が機械学習でも使えますし、使う統計処理も良く似ています。機械学習で使うビッグデータの場合は、データ数が多い分、統計的な制約が少ないため処理が簡単な場合もあります。
 
 両者の違いは、リーンシックスシグマがシステムの入力パラメータを変えることを前提とした「システムの最適化」であるのに対し、機械学習はシステムをそのまま理解(学習)した「結果の予測」、という点です。
 
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 
 DOE(Design of Experiments 実験計画法)はフィッシャーによって 1920 年代に始まりました。それを使ったシックスシグマは 1980 年代に始まりました。つまり我々リーンシックスシグマの実務者は機械学習が注目を集める前から似たようなことをしていたわけです。機械学習が今注目を浴びているからといって、また機械学習が違う言葉を使っているからといって、「リーンシックスシグマがこのまま時代遅れになるのではないか」と恐れることは一切ないでしょう。むしろ機械学習や IoT 、人工知能(AI)などをどのようにしたら上手くリーンシックスシグマに取り入れられるのかを考える時が来ているのだと思います。
 

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この記事の著者

津吉 政広

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