製造業における現場改善の定石とは

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 5S
 

1. 現場改善が必要な理由

 
 生産年齢人口の減少や働き方改革の流れもあり、製造業に限らず生産性の改善は必須ですが、実現は容易でありません。できるだけ新しいことに手を付けずに、なんとか今のままで済ませて楽をしたい、という想いも理解できます。
 
 しかし残念ながら昨今の低成長の時代にあって、どこかの売り上げが伸びればその分だけどこかが減るしかありません。競合が改善して生産性を上げ、自社が従来通りでいたら、その分だけ競争力が下がり、売上や利益が下がることになります。現状維持は衰退を意味するのです。
 
 また万が一競合が全く改善しないとしても、生産性を上げるということは少ない工数≒時間で多くの価値を生み出すことですから、労働分配率が同じで労働時間が同じなら報酬が増え、報酬が同じなら労働時間が減って、いずれにしてもより豊かな生活につながるはずです。報酬が増えずに労働時間も減らないとしたら、会社の内部留保が増えるので、将来的に仕事が無くなるリスクが減ることになります。要するに業務の改善は誰かのためではなく、すべて自分に還ってくるものです。
 
 改善の方法は無数にあり、また個々に状況が違う現場に応じてそれぞれ工夫すべきものではありますが、一方であらゆる改善を無手勝流でやるのは効率が悪すぎます。今回は改善活動において初めに考慮すべき視点、つまり定石を3つ紹介します。
 

2. 現場改善の定石1:ECRS

 
 現場改善に有効な視点の英単語四つの頭文字を並べたものです。現場を注意深く観察し、いずれかが適用できないか考えてみます。
 

(1)排除する(Eliminate)

 
 本当に必要なものでなければ、工夫する前に捨てるべきです。ものやプロセスが少なくなると、現場はすっきり分かりやすくなります。
 

(2)結合する(Combine)

 
 別々の機能、工程をひとつにまとめることで、作業時間の短縮、スペース削減などが可能となる場合があります。
 

(3)交換する(Rearrange)

 
 従来の工程や場所を入れ替えることで、作業の円滑化、搬送距離/時間を削減できる可能性があります。
 

(4)簡素化(Simplify)

 
 複雑な作業を簡略にしたり、繰り返しを減らすことで、作業時間を短縮するだけでなく、ミスの低減にも効果が期待できます。
 

3. 現場改善の定石2:3S

 
 これも現場改善に有効な、Sで始まる英単語三つで重要な視点を示します。
 

(1)単純化(Simplification)

 
 材料、部品、製品、治工具、手順、工程、ルールなどを整理して減らしたり、簡略化したりします。ECRSのSと被りますから、非常に重要と言えます。
 

(2)標準化(Standardization)

 
 材料、設備、部品、製品などの「もの」や、作業手順、作業条件などの「方法」を統一し、さらに規格化することで、ミスが起こりにくくなり、効率的な作業を安定的に実現します。
 

(3)専門化(Specialization)

 
 特定の製品に対して、ライン、機械設備、治工具、作業者などを限定して、効率や品質を向上します。見ようによっては標準化の逆とも言えます。
 

4. 現場改善の定石3:5S

 
 現場改善と言えばこれ!皆さんご存知の5Sは、もともとトヨタ系列の工場で整理整頓の2Sから始まったと言われ、その後3S、4S、5Sと発展してきました。今では海外の工場現場へも展開するために、Sで始まる英語表記も用意されています。
 

(1)整理 (Sort)

 
 不要なものを捨てることです。
 

(2)整頓 (Set in Order)

 
 必要なものがすぐ使えるように配置、表示することです。
 

(3)清掃 (Shine)

 
 掃除できれいにし、細部を点検します。
 

(4)清潔 (Standardize)

 
 整理/整頓/清掃の3Sを一度やるだけではなく、維持する必要があります。
 

(5)躾 (Sustain)

 
 決められたこと、指示されたことを守るだけでなく、自主的に実行できるまで習慣付けることであり、ここまできて初めて完成と言えるでしょう。分かってはいても、なかなか実行、継続ができない活動です。
 
  ・ ・ ・
 
 いかがでしょう、参考になったでしょうか?必ずし...
 
 5S
 

1. 現場改善が必要な理由

 
 生産年齢人口の減少や働き方改革の流れもあり、製造業に限らず生産性の改善は必須ですが、実現は容易でありません。できるだけ新しいことに手を付けずに、なんとか今のままで済ませて楽をしたい、という想いも理解できます。
 
 しかし残念ながら昨今の低成長の時代にあって、どこかの売り上げが伸びればその分だけどこかが減るしかありません。競合が改善して生産性を上げ、自社が従来通りでいたら、その分だけ競争力が下がり、売上や利益が下がることになります。現状維持は衰退を意味するのです。
 
 また万が一競合が全く改善しないとしても、生産性を上げるということは少ない工数≒時間で多くの価値を生み出すことですから、労働分配率が同じで労働時間が同じなら報酬が増え、報酬が同じなら労働時間が減って、いずれにしてもより豊かな生活につながるはずです。報酬が増えずに労働時間も減らないとしたら、会社の内部留保が増えるので、将来的に仕事が無くなるリスクが減ることになります。要するに業務の改善は誰かのためではなく、すべて自分に還ってくるものです。
 
 改善の方法は無数にあり、また個々に状況が違う現場に応じてそれぞれ工夫すべきものではありますが、一方であらゆる改善を無手勝流でやるのは効率が悪すぎます。今回は改善活動において初めに考慮すべき視点、つまり定石を3つ紹介します。
 

2. 現場改善の定石1:ECRS

 
 現場改善に有効な視点の英単語四つの頭文字を並べたものです。現場を注意深く観察し、いずれかが適用できないか考えてみます。
 

(1)排除する(Eliminate)

 
 本当に必要なものでなければ、工夫する前に捨てるべきです。ものやプロセスが少なくなると、現場はすっきり分かりやすくなります。
 

(2)結合する(Combine)

 
 別々の機能、工程をひとつにまとめることで、作業時間の短縮、スペース削減などが可能となる場合があります。
 

(3)交換する(Rearrange)

 
 従来の工程や場所を入れ替えることで、作業の円滑化、搬送距離/時間を削減できる可能性があります。
 

(4)簡素化(Simplify)

 
 複雑な作業を簡略にしたり、繰り返しを減らすことで、作業時間を短縮するだけでなく、ミスの低減にも効果が期待できます。
 

3. 現場改善の定石2:3S

 
 これも現場改善に有効な、Sで始まる英単語三つで重要な視点を示します。
 

(1)単純化(Simplification)

 
 材料、部品、製品、治工具、手順、工程、ルールなどを整理して減らしたり、簡略化したりします。ECRSのSと被りますから、非常に重要と言えます。
 

(2)標準化(Standardization)

 
 材料、設備、部品、製品などの「もの」や、作業手順、作業条件などの「方法」を統一し、さらに規格化することで、ミスが起こりにくくなり、効率的な作業を安定的に実現します。
 

(3)専門化(Specialization)

 
 特定の製品に対して、ライン、機械設備、治工具、作業者などを限定して、効率や品質を向上します。見ようによっては標準化の逆とも言えます。
 

4. 現場改善の定石3:5S

 
 現場改善と言えばこれ!皆さんご存知の5Sは、もともとトヨタ系列の工場で整理整頓の2Sから始まったと言われ、その後3S、4S、5Sと発展してきました。今では海外の工場現場へも展開するために、Sで始まる英語表記も用意されています。
 

(1)整理 (Sort)

 
 不要なものを捨てることです。
 

(2)整頓 (Set in Order)

 
 必要なものがすぐ使えるように配置、表示することです。
 

(3)清掃 (Shine)

 
 掃除できれいにし、細部を点検します。
 

(4)清潔 (Standardize)

 
 整理/整頓/清掃の3Sを一度やるだけではなく、維持する必要があります。
 

(5)躾 (Sustain)

 
 決められたこと、指示されたことを守るだけでなく、自主的に実行できるまで習慣付けることであり、ここまできて初めて完成と言えるでしょう。分かってはいても、なかなか実行、継続ができない活動です。
 
  ・ ・ ・
 
 いかがでしょう、参考になったでしょうか?必ずしもすべてが有効とは限りませんし、逆の表現もあったりします。要は視点であって、具体的な方策は自分の頭で考えることが重要です。また、一発ホームランの改善など滅多に出るものではありません。小さな改善のヒットを積み重ねて少しずつ理想に近づくのが王道です。日本最大の製造企業であるトヨタ自動車は、現場社員が毎日改善案を考えているうちに、改善しないと気持ちが悪くなるまで習慣化していると聞きます。そこまで到達してようやくあのポジションなのです。競争力を強化し、豊かな生活を実現するために、今日から改善マインドを鍛えましょう。
 

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この記事の著者

熊坂 治

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。


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