【ものづくりの現場から】地域密着企業が取り組む新エネルギー開発(三ツ田)

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ものづくりドットコムの連載「ものづくりの現場から」では、現場の課題や解決策に注目し、ものづくりの発展に寄与する情報を提供しています。今回は、地域に密着した電気工事、土木業と並行してバイオマスエネルギー開発にを行う株式会社三ツ田の取り組みにスポットを当てます。

 


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会社概要

株式会社三ツ田は、広島市南区で電気工事、土木業を手がける企業です。
同社は、一般道路、高速道路工事、災害復旧工事、治山工事、鉄道関連工事など、地域に密着した各種土木、電気工事を行う企業です。

 

地域密着企業が行うバイオマス発電

同社は現在、通常業務である各現場での土木工事、電気工事などの業務と並行して、バイオマス発電所建設を自社で行っています。

 

バイオマス発電所の建設が進む現場で説明する桝田社長

 

建設地の取得、開墾整備から許認可の取得、プラント建設などをすべて自社独自で行っている点が特徴で、これには今までの土木、電気工事の経験に加え、災害対応の経験が生きているとの事。

自社の有するノウハウの理解と活用の良い事例だと感じます。

 

バイオマス発電のエネルギー源である木材も自社で収集

バイオマス発電は、バイオマスを燃料として発電する方法です。バイオマスとは、動植物などの生物から得られる資源のうち、石油などの化石燃料を除いたもののことを指します。

バイオマス発電の原理は、バイオマスを燃焼させて、熱エネルギーを得て、そのエネルギーで蒸気を発生させ、タービンを回して発電します。化石燃料を使わないことから燃焼時にCO2を排出する量が化石燃料に比べて少ないため、環境にやさしいこともあり、注目が集まっている発電方法で、燃料となるバイオマスは、国内で調達可能なため、エネルギー安全保障に貢献できる点も評価されています。

 


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同社はバイオマス発電所建設用地の周りの山林取得も行っており、山林の維持に伴い発生する間伐材、CO2吸収強化や低花粉症木への植生変更など植え替えに伴い発生した材を利用できるようにデザインされています。

材の集積場。これらの材はチップに加工され発電に利用される。

 

代表取締役の桝田氏は「エネルギーの元と使用場所はできるだけ近くにそろえる事が、安全と効率、コストの面での強みになる」と説明されました。このことは古くから製造業で用いられる職場デザインの方法である動作経済の原則にある「できるだけ近くに」というものと全く同じ考えであると言えます。

ムダの無い動線を建設時点から実現できるのは自社で工事できる強みの活用です。

 

材をチップに加工する機械。材集積場の近くで加工する。自走可能であるのも大きな特徴

 

しかし、木材は一度伐採すると次に伐採時期を迎えるまでに30年から40年かかるとも言われている長いスパンでの計画が必要なもので、「できるだけ近く」という点を考えるとエネルギーの枯渇が課題になります。この課題に向けて同社では「伐採→植林」のサイクルを自社で計画的に実施できるよう、育苗(木の苗を生産する)の許可を持つ関連会社を設立しています。

育苗施設の一部。下写真にあるコンテナで木の苗を育てる。

 

育苗、植林、間伐、伐採、バイオマス発電のサイクルを自社で完結

桝田氏は「バイオマス発電は手段であってゴールではありません」と話しています。これは、森林を健康な状態で生き返らせて、人と自然が共生できる社会のモデルを小さくても作れないか?という同社の思いから来ています。このモデルの中には林業だけでなく、農業、製造業も含まれますし、人のリカバリーとして森の力が注目される中、里山開発や未病対策なども含む持続循環型の森を中心にしたものです。地域の人々森に触れ、森から得られるものを活かしたビジネスを生み出し、地域自身が地域の手で活性化する事を狙いの一つとしています。

また、企業による研修やワークショップの場として、ワーケーションでの利用もできるよう研修設備の準備も進んでいます。

整備中の研修所。企業研修やワークショップだけでなく、ものづくりの拠点となるゾーンも準備されている。

 

地域密着型の中小企業である同社が森林開発、林業に取り組めたことには通信技術の進歩とデジタル機器の利用などDXの環境を整えて利用していることも大きな要因であると考えられます。

用地内の携帯電話不達地域(電波が届かない場所)のカバーは衛星通信を利用したり、水源の確認にはIoTセンサーを設置。電源は発電所からの有線供給、太陽光発電、小型水力発電など様々な先端機器の設置も進められています。ほんの10年前には手が届かなかったこれらの機器が入手できるようになったことも新規事業参入へのDX活用であると言えます。

 

用地内で試験栽培中のネギ畑(広島名物お好み焼き向け出荷品)
電気柵の電源は太陽光を利用しているが、現状スタンドアロン。今後ネットワーク化を計画。(ドローン連動で映像取得など)

 

取材を通じて

新規事業として、異業種へ参入する課題のうち、DXが課題解決につながるという事が理解できた現場でした。また、新規事業を行うにあたり、自社がすでに保有するノウハウやリソースを理解することが、短期間で計画的な事業進行に役立つという事を再認識することができました。

自社でできる事、ハード面だけでなくスタッフのノウハウも含めたソフト面のナレッジ化に取り組んでみることで新規事業の構想につながるのではないでしょうか?

同社の今後に注目です。

 


 

会社情報

会社名: 株式会社三ツ田

所在:    広島市南区(広島本社)、三原市大和町(大和事業場)、呉市安浦町(安浦事業場)

Web:    https://mitsuta.info/

 

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

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