購買業務の要点(その1)サプライチェーンの入り口業務に続けて、解説します。
4. 原価積み上げでの価格設定
RFQ:Request for proposal:提案要請プロセスにおいては見積価格を提示していただきます。その際に提出フォームはこちら側で準備しそれをサプライヤーに渡して記入していただくことにします。提出フォームを相手任せにすると各社まちまちな項目での提出となりますので、提出後の分析にとても苦労します。
そしてこちら側が知りたい項目はできるだけブレークダウンしておくと効果的です。溶接価格1cmあたりの単価を記入する欄と実際の溶接長さを記入する欄に分けます。物流費であれば輸送費と荷姿費に分けます。輸送費も距離単価と距離を記入してもらうようにするとよいでしょう。
このように知りたい項目はあらかじめ洗い出し、それを記入してもらうことで後々の分析が楽になりますし、価格比較の際にも役立ちます。
購買であればサプライヤーの実力値を把握しておくことが求められます。価格がすべて込み込みの丸まったものであれば、そのサプライヤーの労務費に問題があるのか資材調達力に問題があるのかさっぱりわからないことになりかねません。
価格をもらう際に気を付けたいことは他にもあります。それは「ブラックボックス」にする項目は無くすことです。よく物流費を明確化せずにブラックボックス化してしまっているケースを見かけますがこれは望ましくありません。
原価を明確にした上でそれに管理費と利益を乗せるという考え方でいきたいものです。「一式」でいくらという考え方はしない方が良いと思います。これをコスト方式と呼びます。一方でプライス方式と呼ばれるものがあります。これは原価積み上げではなく最終的に「価格がいくら」になるかどうかを見る方式です。
実はプライス方式の方がコスト方式よりも安くなるという考え方もあります。原価積み上げでは表せない「戦略価格」というものがあるからです。たしかに戦略価格の恩恵を被ることもあるかもしれません。ただし購買行為においては相手のSQDCMを把握するためにも原価の積み上げで価格を提出してもらうことがよいといえるでしょう。
5. 公平公正なソーシング
候補会社選定から最終発注先の決定までの厳格なプロセスですが、RFP、RFQを通して発注先を決めることを「ソーシング」と呼びます。このプロセスで重要なことは公平公正に実施していくことです。すべて数値化することで勝ち負けが明確に分かるようにしておくことです。
最終的に発注先を決める際にはあらかじめ決めたルールで行うことです。仮に1点の差でもルール通りに実施することです。これをルール以外の要素を入れてしまう会社があります。例を挙げながら説明していきましょう。
候補会社X社とY社が選定のためのスコアが100点満点でそれぞれ85点、80点でした。きちんとした選定ルールが定められている以上、X社を選定することは明らかです。しかし選定に関わるスタッフの一人が将来性はY社の方が上なので5点差は誤差に過ぎずY社にすべきとの発言をしました。これに対してその意見ももっともだと他のスタッフもなびき、最終的にY社を選定するという結果になりました。
このような事例が実際にあるのではないかと思います。このケースでの問題点は「ルールに無い判断基準」を後出ししてしまったということです。これでは透明性に欠けるとともに公平公正の原則にも反してしまいます。購買は考えようによっては「危ない仕事」だとも言えるのです。なぜ危ないのか。
それは上記のような判定は表向きは「将来性」と言ってはいますが、実際にはその「裏」があるのではないかとも推測できてしまうのです。端的に言うとY社との癒着です。この例では「将来性」についての判断基準が欠けていたこと自体が問題であると思われます。何を持って将来性があるのかについて明確な基準が必要だったということです。
ソーシングプロセスにあいまいな個人的考え方は入れるべきではありません。あくまでも事前に定めたルール、判断基準で決定すべきです。これはスポーツと似たところがあると思います。特に欧米ではこのあたりについて厳格に行われています。日本もグローバル化が進展してきましたので、欧米に見習うところは見習って透明性のあるソーシングを心がけたいものです。
6. 発注時の注意点
ソーシングで取引先が決定すると今度はその会社に対する発注が始まります。取引先に対する発注行為をパーチェシングと呼びます。ソーシングが購買部門で行われるのに対してパーチェシングは実際にそのものやサービスを使用する部門が行うことが一般的です。たとえば製品を組み立てるための部品の発注先を決めるのは購買部門で、実際にその部品が必要な時に発注するのは工場ということになります。
パーチェシングプロセスで注意しなければならない点について考えてみましょう。
やはり注意が必要な点として確認すべきは「契約通りの発注」になっているのかどうか、ということではないでしょうか。納品の何日前までに発注するのか、納品は一日何回なのか、一回当たりの発注量に制限はあるのか、年間の発注量は決まっているのか、等契約書をきっちりとチェックしておくことが必要です。
工場が発注の主体となる場合、サプライヤーとの契約について意識することなく実施してしまうことがあります。これは法令違反につながる可能性があり得るので注意が必要です。購買部門は契約内容を発注部門に対してしっかりと説明しなければなり...