【ものづくりの現場から】日本発!二輪エンジン技術者が挑戦するエンジンドローン(アラセ・アイザワ・アエロスパシアル)

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私たちのシリーズ「ものづくりの現場から」では、現場の課題や解決策に焦点を当て、ものづくりの進歩に役立つ情報を提供しています。今回は、エンジンドローンの開発、製造を行う静岡県浜松市のアラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社(AAA)にスポットを当てます。

 

この記事のハイライト 

  1. 技術で社会に貢献する具体例
  2. 大手メーカー退職後の起業、技術キャリアの活用について

写真1.右奥からエンジンドローンAZ‐1000(初号機)、AZ‐500

 

1.産業用エンジンドローン開発会社の概要

アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社(以下、AAA)(浜松市南区)は、スズキの元二輪エンジン開発者が共同代表を務める会社であり、排気量1000ccの産業用エンジンドローン(無人航空機)を開発しました。現在の市場では電動機が主流ですが、積載量や航続時間の制約があり、用途が限定されています。しかし、「AZ-1000」という二輪エンジン技術を応用したこのドローンは、重量積載と長時間飛行を得意とし、建設や防災など幅広い分野で即戦力となることを目指しています。

多くの特徴をもつAZ-1000ですが、特筆すべきはエンジン出力をそのまま推進力としている「直エンジン出力」である点です。世界的に見て電動ではなくレシプロエンジンやジェットエンジンを使ったドローンは存在しますが、その多くはエンジン出力で発電したのちにモーターを駆動させるものや、エンジン出力とモーター出力を併用するものですが、AZ-1000はモーターや動力用バッテリーを使うことなくエンジン出力をそのまま推進力にする機構を備えた設計です。これにより、モーターやバッテリーの搭載する必要が無くなり、ペイロード(積載量)の拡大と飛行時間の拡大を実現しています。

 

写真2.試験飛行後のAZ-1000(初号機と比較してブレードの素材がアップグレードしている)

 

2.二輪エンジン技術を活かしたプロダクト

「AZ-1000」の開発者である荒瀬国男さんは、スズキ時代に人気バイク「隼」などの高性能二輪エンジンの開発に携わり、また二輪レースの最高峰であるMotoGPのプロジェクトリーダーも務めました。

AZ-1000は、四つのブレード(回転翼)を備えた機体で、高さ100センチ、長さ302センチ、幅286センチ、重さ110キロです。このドローンは、ガソリンエンジン(水冷、4サイクル)本体からギアで4本に分岐したシャフトの先にプロペラを配置しています。また、安定した飛行を実現するために、専用の低振動化技術を採用しています。回転を同期させてプロペラ軸間の距離を最短にするなど、機体のコンパクト化と大幅な軽量化を図っています。

写真3.試験飛行後のAZ-1000移動時の写真。(排気管が確認できる)

 

このドローンは、無積載時には6時間以上、150キロの荷物を運ぶ場合には2時間以上の航行が可能です。試算では、同じ重量物を運ぶ場合、電動機に比べて10倍以上の航続時間を実現できるとされています。

同社では無人機の産業利用に欠かせない3つの性能要件を定め、これらを満たす期待を「超無人機」と名付けて開発を行っています

無人機の産業利用に欠かせない3つの性能要件

①超・長航続時間

②超・大積載量

③超・小型軽量

 

写真4.ホバリング試験(飛行時は雨天であったが、問題なく飛行)

 

写真5.着陸の様子

 

写真6.今回飛行したAZ-1000(左)と昨年発表したAZ-500(右)

 

超無人機「AZ-1000」スペック

機体形式 クアッド型マルチコプター
寸法
(プロペラ折り畳み時)
高さ1,000×長さ3,020×幅2,860mm
(高さ1,000×長さ1,510×幅1,405mm)
空虚重量(最大離陸重量) 110kg(310kg未満)
積載量+燃料重量 200kg以下
航続時間(積載量) 6時間以上(積載量なし)
2時間以上(積載量150kg)
燃料タンク容量 55L
プロペラ 可変ピッチ式・直径1,700mm×4

 

3.技術キャリアを生かしたドローン開発

荒瀬さんは2018年にスズキを退職し、技術を活かすために行動を開始しました。まず最初に取り組んだのが二輪車エンジンの特徴である軽量、高出力が活かせる分野のリサーチでした。自分で調べることと合わせて、知人やその先の仲間など多様な人々と対話し、各界の識者の意見も聞く中で自分が作るエンジンを活かす分野として「空」が浮かび上がりました。空の移動体について掘り下げてみると様々な気づきがあったとの事。最近、各所で話題の電動ドローンについては重量のわりにペイロード(積載量)が少ない(重量の多くがエネルギー(バッテリー)事、動作可能時間が短い事などそれらの弱点を高性能エンジンで解決できると考えたのです。

 


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そして、エンジンドローンに焦点をあわせて設計を開始。スズキ時代に学び始めた3次元CADや流体シミュレーションなどのデジタルツールを活用し、バーチャル空間での検証を一人で行い、製造開始のための会社づくりを進めました。その中で、荒瀬さんは「會澤高圧コンクリート」(北海道)の會澤祥弘代表と出会い、共同で会社を設立。現在、静岡県浜松市での機体、エンジンの研究・開発・製造、福島県浪江町の研究開発拠点での、試作機の試験飛行、長時間自律航行と映像中継をなど目指すプロジェクトなどに取り組んでいます。

 

写真7.汎用エンジンではなく、自社で開発したエンジンをドローンに搭載

 

写真8.エンジンは開発者の名前にちなみ「國男(クニオ)ENGINE」と名付けられている

 

無人航空機用エンジン「國男」スペック

エンジン型式 4サイクル・直列4気筒・DOHC16バルブ
最高出力 110kW(150PS)
冷却方法 水冷
排気量 998cc
燃料供給装置 電子制御フュエルインジェクションシステム
特徴 ・2軸2次バランサーによる極低振動
・機体のコンパクト化に貢献するギアレイアウト

二輪車用エンジン技術を応用した小型・軽量・高出力の無人航空機専用エンジン「國男」は、2軸2次バランサーを搭載することで低振動化を図るとともに、レイアウトに工夫を凝らしたトランスミッション設計により、高出力化と機体の小型化を実現しています。

 

エンジンドローンはまだ少数派ですが、「災害時などには長時間の飛行が必要であり、エンジンドローンが現実的である」と荒瀬さんは述べています。電動化の波が社会に押し寄せる中、荒瀬さんはドローンに限らず、高性能なエンジン技術が日本の宝であると考えており、「技術を最大限に活用して社会に役立つ製品を開発したい」と意欲を示しており、国内だけでなく海外からも注目を集めています。

写真9.海外からのお客様へ機構を説明する開発者の荒瀬さん

 

また、エンジンドローンの目指す脱炭素社会への対応策として、使用する化石燃料をバイオ燃料に切り替えることを検討しています。

産業用ドローンは、農薬散布や建物の点検、撮影、物流、防衛分野やリモートセンシングなど、さまざまなビジネス利用や活用の可能性が模索されています。国もこれを「空の産業革命」の一環と位置付け、人口減少や高齢化、人手不足などの社会課題の解決に貢献するための取り組みを推進しています。ビジネス利用に対する期待は高まっていますが、ドローンを使用した物流などは主に低積載・近距離での実施か、まだ実証段階にとどまっています。動力源としては、主に電動機によるバッテリー駆動、バッテリーと発電用エンジンを組み合わせたハイブリッド、またはエンジンのいずれかが使用されています。

 


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AAAがリリースする国産産業用エンジンドローンが社会課題の解決に活用される日は、そう遠くないかもしれません。

培った技術を他産業へと応用してイノベーションを起こす視点は、AAAが追求する価値であり、すべてのものづくり技術者に参考になるのではないでしょうか。

 

 

【取材に協力いただいた方】

荒瀬 国男 様

アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社
Co-Chief Executive Officer

 

【会社概要】

・名称 アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社

・所在:静岡県浜松市

  HP https://www.aaa-llc.jp/

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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