【SDGs取り組み事例】廃棄される海藻からプラスチック 株式会社ツカサぺトコ

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“脱炭素”に向け、海洋藻類から生分解性プラスチック生産の事業化進める

株式会社ツカサぺトコ(神奈川県横浜市)

PETの新たな価値を求める株式会社ツカサぺトコ

目次

1.PET樹脂の新たな価値求め、事業を推進
2. ペットボトルリサイクルの事業化に向けて
3. 食用ワカメ・コンブの廃棄物からPHAの抽出に成功
4. 食用に向かない海藻の有効活用 2026年までには商業ベースに
5. 海に囲まれる日本 豊富な資源を有効活用

国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

1. PET樹脂の新たな価値求め、事業を推進

株式会社ツカサぺトコ(神奈川県・代表取締役 森田英資氏)の創設は2006(平成18)年3月。合成樹脂の原材料・製品、化学品の輸出入を行うほか、三国間貿易を事業の柱とし、横浜本社以外に韓国(ソウル)、台湾(台北)、中国(上海)に事務所を設けています。
樹脂材料のサプライヤーは台湾はじめ、韓国、東南アジアからで、なかでも飲料ペットボトル用に使用されるポリエステル樹脂は同社売上の4割を占め、日本国内の中堅・大手の加工メーカーや飲料メーカーに納められています。同社では、「時代の変化を見とどける」、「お客様のニーズに応える」、「環境改善に取り組む」といった3つの視点を経営理念に、PET(Polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)樹脂の新たな価値の創造を求め事業を進めています。

2. ペットボトルリサイクルの事業化に向けて

「年間10万トン程度の合成樹脂原材料(石油由来)を扱っていることからも、SDGs(持続可能な開発目標)に対する取り組みは3年ほど前から始めた」という同社。国内飲料メーカーも「2030年までにペットボトル材料の50~100%をサスティナブル素材に切り替える」といった目標を掲げ、取り組みを推進していることを背景に、台湾のサプライヤーと共同で①「再生PET樹脂の販売」、②「国内に再生PET樹脂の生産供給体制を設けた工場の設置」など、ペットボトルリサイクルの事業化に向けた取り組みを進めています(目標:12、14、15)。
これまでも世界的にリサイクル率が高く、脱炭素の観点から有力な原料として利用されてきたPET樹脂販売を中心とした事業を進める一方、海洋で分解されない樹脂材料による海洋プラスチック(マイクロプラスチック)問題に対する対策についても模索してきたという同社。同社によると、トウモロコシや米、樹木のチップといった植物由来の生分解性プラスチックへの置き換えも検討したといいますが食糧問題はじめ、樹木伐採は地球温暖化防止に逆行することから、これら課題解決に向けた糸口を探る日々が続いたそうです。

3.食用ワカメ・コンブの廃棄物からPHAの抽出に成功

同社は2015(同27)年から、テクニオン・イスラエル工科大学の公式日本組織・テクニオンジャパン株式会社(本社・東京都、代表取締役:石角完爾氏)に出資しています。元々、ユダヤ人でユダヤ教徒の石角氏が、同社の顧問弁護士であったことから、テクニオンジャパンの存在を知り、同工科大がその世界的技術供与戦略の対日窓口として公認する「Friends of Technion」に参加。バイオプラスチック事業を進めるにあたり、テクニオンジャパンを通じ、技術力の提供先を探していたところ、兼ねてからバイオプラスチックの研究に向け取り組んでいたテルアビブ大環境研究所(イスラエル)の存在を知り、同研究所とテクニオンジャパン、ツカサぺトコ3者による共同研究(目標:9)が始まったといいます。

テクニオン・イスラエル工科大学

写真説明】テクニオン・イスラエル工科大学(ツカサぺトコ提供)

同社によると、日本国内で食用のコンブ・ワカメとして使用された後、廃棄されてしまう茎などの残滓(ざんさい)総量は年間約15,000トンに及ぶといいます。2021(令和3)年3月には、同研究所との間にバイオマスを原料として、日本国内での培養や化学製品生産(バイオリファイナリー[1]技術・産業)に関するライセンス契約を結んだほか、翌年4月には同研究所と共同でコンブ・ワカメの残滓から、生分解性プラスチックの原料となるPHA[2]を採り出す技術開発に成功。また、同大でも独自に、日本国内で生産されている青のりから生分解性プラスチックの生成に成功したことを受け、海藻由来の生分解性プラスチック生産の実業化に向けたプロジェクトの始動を発表。同社・森田氏の夢は「国内におけるバイオリファイナリー産業の国内展開」です。

コンブ・ワカメの残さいから採りだされた、生分解性プラスチックの原料となるPHA

写真説明】コンブ・ワカメの残滓から採りだされた、生分解性プラスチックの原料となるPHA(同社提供)

4. 食用に向かない海藻の有効活用 2026年までには商業ベースに

同社によると、日本国内におけるバイオプラスチック事業は、トウモロコシやサトウキビなど、陸上の食用となる植物から生産されるものが中心で、海洋植物をベースとした事業は商業化されていないといいます。また「SDGs目標の『貧困を無くす』(目標1)、『飢餓をゼロに(目標2)』といった点からも、食用に向かない海藻を有効活用していきたい」と話します。ただ「漁業権の問題もあるため、今後は漁業協同組合などと協議を進めながら解決していきたい」ということです。
同社は「まずは、テルアビブ大のラボ設備(生分解性プラスチック生成技術)を国内に導入し、2024(令和6)年前半にはパイロットプラントを設け、生産化に向けた準備を進めたい」と話しています。今後は、ペットボトルや部品として生産した際の強度や金型との相性などについて、成形加工メーカーなどと共同で研究・開発を重ね「2026(同8)年ごろまでには商業ベースに乗せたい」としています。

 

5.海に囲まれる日本 豊富な資源を有効活用

ダイバーシティ経営・ジェンダーの面(目標:5、10)では従業員20人中、女性が11人...

“脱炭素”に向け、海洋藻類から生分解性プラスチック生産の事業化進める

株式会社ツカサぺトコ(神奈川県横浜市)

PETの新たな価値を求める株式会社ツカサぺトコ

目次

1.PET樹脂の新たな価値求め、事業を推進
2. ペットボトルリサイクルの事業化に向けて
3. 食用ワカメ・コンブの廃棄物からPHAの抽出に成功
4. 食用に向かない海藻の有効活用 2026年までには商業ベースに
5. 海に囲まれる日本 豊富な資源を有効活用

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1. PET樹脂の新たな価値求め、事業を推進

株式会社ツカサぺトコ(神奈川県・代表取締役 森田英資氏)の創設は2006(平成18)年3月。合成樹脂の原材料・製品、化学品の輸出入を行うほか、三国間貿易を事業の柱とし、横浜本社以外に韓国(ソウル)、台湾(台北)、中国(上海)に事務所を設けています。
樹脂材料のサプライヤーは台湾はじめ、韓国、東南アジアからで、なかでも飲料ペットボトル用に使用されるポリエステル樹脂は同社売上の4割を占め、日本国内の中堅・大手の加工メーカーや飲料メーカーに納められています。同社では、「時代の変化を見とどける」、「お客様のニーズに応える」、「環境改善に取り組む」といった3つの視点を経営理念に、PET(Polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)樹脂の新たな価値の創造を求め事業を進めています。

2. ペットボトルリサイクルの事業化に向けて

「年間10万トン程度の合成樹脂原材料(石油由来)を扱っていることからも、SDGs(持続可能な開発目標)に対する取り組みは3年ほど前から始めた」という同社。国内飲料メーカーも「2030年までにペットボトル材料の50~100%をサスティナブル素材に切り替える」といった目標を掲げ、取り組みを推進していることを背景に、台湾のサプライヤーと共同で①「再生PET樹脂の販売」、②「国内に再生PET樹脂の生産供給体制を設けた工場の設置」など、ペットボトルリサイクルの事業化に向けた取り組みを進めています(目標:12、14、15)。
これまでも世界的にリサイクル率が高く、脱炭素の観点から有力な原料として利用されてきたPET樹脂販売を中心とした事業を進める一方、海洋で分解されない樹脂材料による海洋プラスチック(マイクロプラスチック)問題に対する対策についても模索してきたという同社。同社によると、トウモロコシや米、樹木のチップといった植物由来の生分解性プラスチックへの置き換えも検討したといいますが食糧問題はじめ、樹木伐採は地球温暖化防止に逆行することから、これら課題解決に向けた糸口を探る日々が続いたそうです。

3.食用ワカメ・コンブの廃棄物からPHAの抽出に成功

同社は2015(同27)年から、テクニオン・イスラエル工科大学の公式日本組織・テクニオンジャパン株式会社(本社・東京都、代表取締役:石角完爾氏)に出資しています。元々、ユダヤ人でユダヤ教徒の石角氏が、同社の顧問弁護士であったことから、テクニオンジャパンの存在を知り、同工科大がその世界的技術供与戦略の対日窓口として公認する「Friends of Technion」に参加。バイオプラスチック事業を進めるにあたり、テクニオンジャパンを通じ、技術力の提供先を探していたところ、兼ねてからバイオプラスチックの研究に向け取り組んでいたテルアビブ大環境研究所(イスラエル)の存在を知り、同研究所とテクニオンジャパン、ツカサぺトコ3者による共同研究(目標:9)が始まったといいます。

テクニオン・イスラエル工科大学

写真説明】テクニオン・イスラエル工科大学(ツカサぺトコ提供)

同社によると、日本国内で食用のコンブ・ワカメとして使用された後、廃棄されてしまう茎などの残滓(ざんさい)総量は年間約15,000トンに及ぶといいます。2021(令和3)年3月には、同研究所との間にバイオマスを原料として、日本国内での培養や化学製品生産(バイオリファイナリー[1]技術・産業)に関するライセンス契約を結んだほか、翌年4月には同研究所と共同でコンブ・ワカメの残滓から、生分解性プラスチックの原料となるPHA[2]を採り出す技術開発に成功。また、同大でも独自に、日本国内で生産されている青のりから生分解性プラスチックの生成に成功したことを受け、海藻由来の生分解性プラスチック生産の実業化に向けたプロジェクトの始動を発表。同社・森田氏の夢は「国内におけるバイオリファイナリー産業の国内展開」です。

コンブ・ワカメの残さいから採りだされた、生分解性プラスチックの原料となるPHA

写真説明】コンブ・ワカメの残滓から採りだされた、生分解性プラスチックの原料となるPHA(同社提供)

4. 食用に向かない海藻の有効活用 2026年までには商業ベースに

同社によると、日本国内におけるバイオプラスチック事業は、トウモロコシやサトウキビなど、陸上の食用となる植物から生産されるものが中心で、海洋植物をベースとした事業は商業化されていないといいます。また「SDGs目標の『貧困を無くす』(目標1)、『飢餓をゼロに(目標2)』といった点からも、食用に向かない海藻を有効活用していきたい」と話します。ただ「漁業権の問題もあるため、今後は漁業協同組合などと協議を進めながら解決していきたい」ということです。
同社は「まずは、テルアビブ大のラボ設備(生分解性プラスチック生成技術)を国内に導入し、2024(令和6)年前半にはパイロットプラントを設け、生産化に向けた準備を進めたい」と話しています。今後は、ペットボトルや部品として生産した際の強度や金型との相性などについて、成形加工メーカーなどと共同で研究・開発を重ね「2026(同8)年ごろまでには商業ベースに乗せたい」としています。

 

5.海に囲まれる日本 豊富な資源を有効活用

ダイバーシティ経営・ジェンダーの面(目標:5、10)では従業員20人中、女性が11人と女性活躍の場を提供。国籍も台湾、中国、韓国、ベトナムとさまざまで、グローバル(外国人)採用を推し進めています。地域貢献活動では、日本プロサッカーリーグJ3所属の「Y.S.C.C横浜」(横浜市)への寄付を行い、同クラブのサポートに努めています。また、健康経営(目標:3)についての取り組みは今後、コンサルティングを受けながら、従業員の健康の維持に配慮する環境づくりを進めるそうです。
最後に2030年の目標について「現在は、100%石油由来の合成樹脂(年間約10万トン)を扱っているため、2030年までには50%にまで削減し、残り半分をバイオ系やリサイクル原料の材料に置き換えていきたい。現状、トウモロコシや大豆など、食用の原料を使った日本のバイオプラスチック事業は輸入に頼っているが、日本は四方を海に囲まれているため資源(海藻)も豊富。これらアドバンテージを生かしていきたい」と語ってくれました。

記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


記事中解説

[1]バイオリファイナリー:バイオマスを原料とし、化学製品や燃料を生産する技術・産業を指す。
[2]PHA(Poly Hydroxyalk Anoates: ポリヒドロキシアルカノエート):微生物が体内で生産するバイオプラスチックの一種で、自然界で生産されるポリエステルで、生分解性などの特性を持つため、石油由来のプラスチックの代替材料として注目されている。

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