品質工学の望目特性SN比の公式活用時注意点

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 品質工学ではSN比を評価指標とするのが最大の特徴です。このSN比というのは、本来通信工学あたりで使われていたものですが、ノイズに対する信号成分の比ということでは同じようなものだということでしょうか。ここでは、そのなかでも望目特性SN比について公式活用上の注意点を初心者向けに説明します。なお、望目特性SN比でなく動的SN比を使うべきだとか、機能研究が大事だという話とは別です。あくまで、望目特性のSN比公式を使うとなった時の話です。
 
 その望目特性についてですが、 変動係数の逆数二乗あたりから入れるので結構理解されやすいですが、間違いやすい点も多いようです。まず、名前から、間違いやすい。「望むの望(ボウ)」と「目標の目(モク)」から、だれでも目標値が望ましいということで、これを使おうとすることが多いようです。(下記①)
 
 ①望目特性というのは、単に平均レベルに対するばらつきの大きさを小さくするだけのことで、目標値とは関係ありません。あとから目標値への調整が必要です。
 
 ②このSN比は、特性値が正負入り混じっている場合には使えない。たとえば、実験結果1の特性が(5 , -5)とし、実験結果2の特性が(1, -1)とすれば、一目瞭然です。ばらつきは圧倒的に実験結果2の方が小さく、平均も同じゼロですから、本来実験結果2のほうがSN比は高く評価されるべきです。しかし、例の基本式で計算すれば、
 
 実験結果1 St=52+(-5)2=50  Sm=(5-5)2/2=0  Se=St-Sm=50  Ve=50
 
    真数での望目SN比は、0となります。(対数もとれません)
 
 実験結果2 St=12+(-1)2=2   Sm=(1-1)2/2=0  Se=St-Sm=2  Ve=2
 
 ここでも、真数SN比は0となってしまいます。対策としては、正負入り混じる場合の望目は、ゼロ望目特性をとります。-10logσ2 というものです。(σは標準偏差)
 
 ③正負入り混じらなくても、特性がゼロ近傍に近づくと不安定になる。上の例(分子がゼロ)と違い特性値が正からゼロに近づくと、平均もばらつきσもゼロに近づくので、今度は0/0となってしまいます。数学的不定というものです。この対策には望小特性を使うことで回避できます。
 
 ④平均に対して非常に小さなばらつきであった場合、過剰評価となります。たとえば、平均が1に対して、(1)σ=0.001の場合と(2)σ=0.002の場合、真数比でSN比は1対4となります。実に4倍の比です。これを問題にするのならそれでよいですが、平均1狙いで問題にならないような場合には過剰評価となります。この場合も②同様、望小特性で回避できます。
 
 望小特性なら、(1)は12+(0....
 品質工学ではSN比を評価指標とするのが最大の特徴です。このSN比というのは、本来通信工学あたりで使われていたものですが、ノイズに対する信号成分の比ということでは同じようなものだということでしょうか。ここでは、そのなかでも望目特性SN比について公式活用上の注意点を初心者向けに説明します。なお、望目特性SN比でなく動的SN比を使うべきだとか、機能研究が大事だという話とは別です。あくまで、望目特性のSN比公式を使うとなった時の話です。
 
 その望目特性についてですが、 変動係数の逆数二乗あたりから入れるので結構理解されやすいですが、間違いやすい点も多いようです。まず、名前から、間違いやすい。「望むの望(ボウ)」と「目標の目(モク)」から、だれでも目標値が望ましいということで、これを使おうとすることが多いようです。(下記①)
 
 ①望目特性というのは、単に平均レベルに対するばらつきの大きさを小さくするだけのことで、目標値とは関係ありません。あとから目標値への調整が必要です。
 
 ②このSN比は、特性値が正負入り混じっている場合には使えない。たとえば、実験結果1の特性が(5 , -5)とし、実験結果2の特性が(1, -1)とすれば、一目瞭然です。ばらつきは圧倒的に実験結果2の方が小さく、平均も同じゼロですから、本来実験結果2のほうがSN比は高く評価されるべきです。しかし、例の基本式で計算すれば、
 
 実験結果1 St=52+(-5)2=50  Sm=(5-5)2/2=0  Se=St-Sm=50  Ve=50
 
    真数での望目SN比は、0となります。(対数もとれません)
 
 実験結果2 St=12+(-1)2=2   Sm=(1-1)2/2=0  Se=St-Sm=2  Ve=2
 
 ここでも、真数SN比は0となってしまいます。対策としては、正負入り混じる場合の望目は、ゼロ望目特性をとります。-10logσ2 というものです。(σは標準偏差)
 
 ③正負入り混じらなくても、特性がゼロ近傍に近づくと不安定になる。上の例(分子がゼロ)と違い特性値が正からゼロに近づくと、平均もばらつきσもゼロに近づくので、今度は0/0となってしまいます。数学的不定というものです。この対策には望小特性を使うことで回避できます。
 
 ④平均に対して非常に小さなばらつきであった場合、過剰評価となります。たとえば、平均が1に対して、(1)σ=0.001の場合と(2)σ=0.002の場合、真数比でSN比は1対4となります。実に4倍の比です。これを問題にするのならそれでよいですが、平均1狙いで問題にならないような場合には過剰評価となります。この場合も②同様、望小特性で回避できます。
 
 望小特性なら、(1)は12+(0.001)2=1.000001(2)は12+(0.002)2=1.000004 ですから、大差ない結果です。比率で考えても、1.0000029 倍ですから、実感にあいます。
 
 望小特性や望大特性についても注意点があります。次の記事で、解説致します。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 
 

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この記事の著者

村島 繁延

QCDはバランスさせるものではなく、全て両立させるものだという信念で向かいます。一石三鳥を狙った成果を目指します。

QCDはバランスさせるものではなく、全て両立させるものだという信念で向かいます。一石三鳥を狙った成果を目指します。


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