AI(人工知能)が加速させるモノづくりの進化

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 ai21980年代、世界のIT業界で人工知能(AI)ブームが起きました。日本の通産省が人工知能を実現する次世代コンピューターの開発を目指して、第五世代コンピューター研究開発プロジェクトを立ち上げたのもこの頃です。
 
 この時代の人工知能の主流は、人間の専門家が持っているノウハウをルールとして表現して取り込んだエキスパートシステムと呼ばれるITシステムでした。当時、富士通のAI開発推進室に所属していた筆者も、自動車シミュレーションの効率化、石油プラント設計ノウハウのシステム化、製鉄所の電気設備保守診断など、様々なエキスパートシステムを開発しました。
 
 当時のAIの限界は、人間の知識をすべてルールのような形式で表現することは難しいことにありました。ノウハウ(know how)とセイハウ(say how)は違います。人は知っていることのすべてを言葉で伝えることはできません。つまり、言葉に表現できる範囲の知識であるセイハウをコンピューターに入力することはできても、言葉で表現できない暗黙知も含むノウハウのすべてをシステムに取り入れることは困難だったのです。また、取り入れることができたとしても、メインテナンスは大変です。
 
 それから30年、図のように今また、人工知能が注目されています。今回のブームのキーワードはディープラーニング(深層学習)とビッグデータです。ディープラーニングとは、人間がルールを与えなくても、コンピューターがデータの中から意思決定にとって有意な特徴を見出し、どう判断すればよいかを自ら学習する能力。これに、コンピューターに蓄積されたり、センサーやIoT機器から収集したりしたビッグデータを入力として与えることにより、場合によっては、コンピューターが人間を凌駕する判断能力を持つようになってきました。
 
      AI
図.人工知能の応用分野        
 
 さらに、制御技術と融合することで、自律性の高いロボットが登場しています。倉庫から必要な商品をピッキングする自律型ロボット等は既に実用化されていますが、加えて、人間の目で識別する必要があった作業もロボットに置き換えることが可能になってきました。今後、人工知能を搭載した自律型ロボットは、...
 ai21980年代、世界のIT業界で人工知能(AI)ブームが起きました。日本の通産省が人工知能を実現する次世代コンピューターの開発を目指して、第五世代コンピューター研究開発プロジェクトを立ち上げたのもこの頃です。
 
 この時代の人工知能の主流は、人間の専門家が持っているノウハウをルールとして表現して取り込んだエキスパートシステムと呼ばれるITシステムでした。当時、富士通のAI開発推進室に所属していた筆者も、自動車シミュレーションの効率化、石油プラント設計ノウハウのシステム化、製鉄所の電気設備保守診断など、様々なエキスパートシステムを開発しました。
 
 当時のAIの限界は、人間の知識をすべてルールのような形式で表現することは難しいことにありました。ノウハウ(know how)とセイハウ(say how)は違います。人は知っていることのすべてを言葉で伝えることはできません。つまり、言葉に表現できる範囲の知識であるセイハウをコンピューターに入力することはできても、言葉で表現できない暗黙知も含むノウハウのすべてをシステムに取り入れることは困難だったのです。また、取り入れることができたとしても、メインテナンスは大変です。
 
 それから30年、図のように今また、人工知能が注目されています。今回のブームのキーワードはディープラーニング(深層学習)とビッグデータです。ディープラーニングとは、人間がルールを与えなくても、コンピューターがデータの中から意思決定にとって有意な特徴を見出し、どう判断すればよいかを自ら学習する能力。これに、コンピューターに蓄積されたり、センサーやIoT機器から収集したりしたビッグデータを入力として与えることにより、場合によっては、コンピューターが人間を凌駕する判断能力を持つようになってきました。
 
      AI
図.人工知能の応用分野        
 
 さらに、制御技術と融合することで、自律性の高いロボットが登場しています。倉庫から必要な商品をピッキングする自律型ロボット等は既に実用化されていますが、加えて、人間の目で識別する必要があった作業もロボットに置き換えることが可能になってきました。今後、人工知能を搭載した自律型ロボットは、モノづくりの現場を一変させることでしょう。
 
 では、30年後にはどうなっているのでしょうか。米国の著名な発明家カーツワイル氏は、人工知能が人間の知的能力を超え、科学技術の進歩を主導するようになる技術的特異点(シンギュラリティ)が、2045年に訪れると予言しています。このとき、人工知能がモノづくりにとって、さらに有益な技術になっていることを期待したいものです。
 
 この文書は、 2016年1月21日の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。
 

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この記事の著者

谷萩 祐之

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