新テーマ発見のためのオープン・イノベーション 研究テーマの多様な情報源(その25)

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 前回のその24に続いて解説します。製品アイデア創出・実現を目的に、必ずしも技術に限定せず、製品アイデアそのものを外部から獲得するためのオープン・イノベーションについてです。
 

1.オープン・イノベーションによる獲得の対象

 通常のオープン・イノベーションいわゆるインバウンドの場合は、外部技術の獲得を目的としています。しかしオープン・イノベーションの活動を、技術の獲得に限定する必要はありません。定義として、オープン・イノベーションを外部活用して社内にイノベーションを起こすならば、外部に求めるものを、技術以外の製品アイデアや、そのための必要技術とすることも可能です。
 
 シュンペーターによれば、オープン・イノベーションの中の「イノベーション」の部分は、「既存知識の新しい結合」と定義さます。結合する前の「既存の知識」は、技術に限定する必要がないのです。したがって、外部を活用してイノベーションを起こすには、技術以外のアイデアや能力を含むと考えるのが良いでしょう。今回の説明では、一義的に製品アイデアそのもの(場合により技術や他の能力とのセットということも当然あり得る)を外部に求めるイノベーションについて議論します。
 

2.P&Gのテクノロジー・アントレプレナーの事例

 オープン・イノベーションと言うと、コネクト&デベロップを展開するP&Gが例に出されることがよくあります。P&Gでは同プログラムを、世界中の主要地域に配置したテクノロジー・アントレプレナースタッフによって実行しています。彼らの目的は、現地で面白い技術を持つ企業、大学、個人を対象として技術を見つけますが、同時に製品アイデアも発見します。正確に言えば、技術を探すことでその技術によって実現を目指している製品アイデアも当然ついてくる、むしろそのような技術を探す活動全般の中から新しい製品アイデアを見つける機会が生まれるということです。したがって、P&Gは外部で探す対象を技術に限定してはいません。
 

3.重要視点:知りえたアイデアの抽象化

 既に技術と製品アイデアがセットになり、製品として実現している、もしくは製品アイデアと技術の完成度が高いものは、そこに自社としてなんらかの価値を付加する余地は少ないものです。その製品をその技術を使って実現したとしても、せいぜい自社で設計・生産し、販売チャネルに載せるという程度で、自社で創出する価値は小さいのです。もちろんそのような製品があっても良いのですが、最も望ましいのは、製品のアイデアがまだ粗い段階で、「自社」の内部で「新しい結合(スパーク)」ができる余地が大き...
 
 
 前回のその24に続いて解説します。製品アイデア創出・実現を目的に、必ずしも技術に限定せず、製品アイデアそのものを外部から獲得するためのオープン・イノベーションについてです。
 

1.オープン・イノベーションによる獲得の対象

 通常のオープン・イノベーションいわゆるインバウンドの場合は、外部技術の獲得を目的としています。しかしオープン・イノベーションの活動を、技術の獲得に限定する必要はありません。定義として、オープン・イノベーションを外部活用して社内にイノベーションを起こすならば、外部に求めるものを、技術以外の製品アイデアや、そのための必要技術とすることも可能です。
 
 シュンペーターによれば、オープン・イノベーションの中の「イノベーション」の部分は、「既存知識の新しい結合」と定義さます。結合する前の「既存の知識」は、技術に限定する必要がないのです。したがって、外部を活用してイノベーションを起こすには、技術以外のアイデアや能力を含むと考えるのが良いでしょう。今回の説明では、一義的に製品アイデアそのもの(場合により技術や他の能力とのセットということも当然あり得る)を外部に求めるイノベーションについて議論します。
 

2.P&Gのテクノロジー・アントレプレナーの事例

 オープン・イノベーションと言うと、コネクト&デベロップを展開するP&Gが例に出されることがよくあります。P&Gでは同プログラムを、世界中の主要地域に配置したテクノロジー・アントレプレナースタッフによって実行しています。彼らの目的は、現地で面白い技術を持つ企業、大学、個人を対象として技術を見つけますが、同時に製品アイデアも発見します。正確に言えば、技術を探すことでその技術によって実現を目指している製品アイデアも当然ついてくる、むしろそのような技術を探す活動全般の中から新しい製品アイデアを見つける機会が生まれるということです。したがって、P&Gは外部で探す対象を技術に限定してはいません。
 

3.重要視点:知りえたアイデアの抽象化

 既に技術と製品アイデアがセットになり、製品として実現している、もしくは製品アイデアと技術の完成度が高いものは、そこに自社としてなんらかの価値を付加する余地は少ないものです。その製品をその技術を使って実現したとしても、せいぜい自社で設計・生産し、販売チャネルに載せるという程度で、自社で創出する価値は小さいのです。もちろんそのような製品があっても良いのですが、最も望ましいのは、製品のアイデアがまだ粗い段階で、「自社」の内部で「新しい結合(スパーク)」ができる余地が大きいことです。
 そのためには、自社でアイデアを抽象化することです。これは、その製品アイデアや技術が特定市場を対象としているならば、視点をずらして抽象化して他の市場の製品を発想することです。例えば、ある技術を活用して図書館用の製品を考えている企業があった場合、一度その製品、技術の本質は何かを考えること(抽象化)です。例えばその本質を抽象化し、盗難防止と見極めれば、他の市場、例えば物流や店舗に使えるという発想が生まれ、そこから新たな製品テーマの発見に結びついていくのです。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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