ものづくり効率化技法の有効性調査

投稿日

この記事は2011年の経営工学会で発表した内容を編集したものです。

 

1.    はじめに

 市場、顧客要求の多様化、IT技術の進展、アジア諸国の技術力向上などの社会情勢変化により、日本の製造業は、付加価値の高い製品をより効率的に開発設計し、生産する必要に迫られています。

 この要求を実現するために、多種多様な技法、手法が提案されており、それらを総括する試みも各所から報告されています。[1][2][3]

 そこで当社では、目的とする課題を索引とした手法の逆引きによる課題解決を「ものづくり工学マトリクス」として体系化し、その試みを発表しているわけです。 [4][5] [6]

 ここでは、上記体系で取り上げている技法が企業内でどのように認知、活用され、評価されているかをアンケートによって調査した結果を報告します。

 

2.    調査方法

2.1  対象者、配布、回収方法

 私が在籍していた東京農工大学技術経営研究科の社会人学生およびOB約60名に対して、エクセル調査ファイルを添付した電子メールにて回答を依頼し、電子メール返信にて回収しました。本人の同僚、上司、部下などへも回答協力をお願いした結果、21社29名からの回答を得ています。

2.2  アンケート質問項目

 ものづくり工学マトリクスで扱う技法の中から66技法を選択し、それぞれに対して次の3つの質問を設定しました。

(問1)個人的な認識と活用の度合い

(問2)組織的な活用の度合い

(問3)業務への有効度評価

 

3. 結果

3.1 単純集計(全体傾向)

 66技法に対する各設問への回答を合計したものが図1、図2、図3です。

                       図1.個人的技法認識度

 図1に示す問1への回答結果から、全回答者平均で4分の1程度の技法を使った経験があり、半分強の技法については何らかの認知をしているが、半分弱の技法については全く聞いた事がないとしています。

 図2に示す問2への回答結果から、全社方針として使用されているのは平均で10%程度すなわち7技法弱であり、一部の部門で使われているものを含めても21%すなわち13技法程度であることが分かります。30%を占める      図2.組織的技法活用度              無回答項目は「⑤見聞きしたがない」に近いと思われますが、これを集計対象から外したとしても半分以上の技法は全く活用されていません。

 図3に示す問3への回答結果では、存在自体を知らないため判断ができない技法を除けば、ほとんどの技法が全社的にあるいは一部の部門にとって効果があると評価されています。

                                                                                                                                                            図3. 技法業務上有効度

4.考察

 今回実施したアンケート調査の結果から、実践経験のある手法、技法に対して極めて高い有効性が評価されているにもかかわらず、相対的に認知率、活用率は低い事が分かりました。

 筆者の経験でも、セミナー受講直後は各種技法の効果を期待しながらも、職場に戻ると日常業務に忙殺されたり、従来慣行の壁に遮られたりで、なかなか実践の進まない事が繰り返されています。

 製造現場が新興国へ移るなど閉塞感の漂うものづくり産業ですが、今回の結果から、活用されずにいる多くの効率化技法の中から、組織課題に適したものを積極的に選択、活用する事...

この記事は2011年の経営工学会で発表した内容を編集したものです。

 

1.    はじめに

 市場、顧客要求の多様化、IT技術の進展、アジア諸国の技術力向上などの社会情勢変化により、日本の製造業は、付加価値の高い製品をより効率的に開発設計し、生産する必要に迫られています。

 この要求を実現するために、多種多様な技法、手法が提案されており、それらを総括する試みも各所から報告されています。[1][2][3]

 そこで当社では、目的とする課題を索引とした手法の逆引きによる課題解決を「ものづくり工学マトリクス」として体系化し、その試みを発表しているわけです。 [4][5] [6]

 ここでは、上記体系で取り上げている技法が企業内でどのように認知、活用され、評価されているかをアンケートによって調査した結果を報告します。

 

2.    調査方法

2.1  対象者、配布、回収方法

 私が在籍していた東京農工大学技術経営研究科の社会人学生およびOB約60名に対して、エクセル調査ファイルを添付した電子メールにて回答を依頼し、電子メール返信にて回収しました。本人の同僚、上司、部下などへも回答協力をお願いした結果、21社29名からの回答を得ています。

2.2  アンケート質問項目

 ものづくり工学マトリクスで扱う技法の中から66技法を選択し、それぞれに対して次の3つの質問を設定しました。

(問1)個人的な認識と活用の度合い

(問2)組織的な活用の度合い

(問3)業務への有効度評価

 

3. 結果

3.1 単純集計(全体傾向)

 66技法に対する各設問への回答を合計したものが図1、図2、図3です。

                       図1.個人的技法認識度

 図1に示す問1への回答結果から、全回答者平均で4分の1程度の技法を使った経験があり、半分強の技法については何らかの認知をしているが、半分弱の技法については全く聞いた事がないとしています。

 図2に示す問2への回答結果から、全社方針として使用されているのは平均で10%程度すなわち7技法弱であり、一部の部門で使われているものを含めても21%すなわち13技法程度であることが分かります。30%を占める      図2.組織的技法活用度              無回答項目は「⑤見聞きしたがない」に近いと思われますが、これを集計対象から外したとしても半分以上の技法は全く活用されていません。

 図3に示す問3への回答結果では、存在自体を知らないため判断ができない技法を除けば、ほとんどの技法が全社的にあるいは一部の部門にとって効果があると評価されています。

                                                                                                                                                            図3. 技法業務上有効度

4.考察

 今回実施したアンケート調査の結果から、実践経験のある手法、技法に対して極めて高い有効性が評価されているにもかかわらず、相対的に認知率、活用率は低い事が分かりました。

 筆者の経験でも、セミナー受講直後は各種技法の効果を期待しながらも、職場に戻ると日常業務に忙殺されたり、従来慣行の壁に遮られたりで、なかなか実践の進まない事が繰り返されています。

 製造現場が新興国へ移るなど閉塞感の漂うものづくり産業ですが、今回の結果から、活用されずにいる多くの効率化技法の中から、組織課題に適したものを積極的に選択、活用する事で、まだまだ生産性の向上が期待できます。

 

5.参考文献

1)    特集「TQMツールボックス」、品質、Vol.32, No.3, P4-P69(2002).

2)    林利弘:開発・設計技術者の視点からMOTを考える、「経営システム」、Vol.14, No.1, (2004)

3)    日経ものづくり編:『革新のための7つの手法』、日経BP出版センター(2006)

4)    熊坂治:「ものづくり課題解決における品質工学の役割」、第17回品質工学研究発表大会予稿集、p.14-17(2009)

5)    熊坂治:「ものづくり課題解決体系におけるTRIZの役割」、第5回日本TRIZシンポジウム予稿集、p.59 (2009)

6)    熊坂治:「品質マネジメント側面から観たものづくり工学マトリクス」、第5回日本品質管理学会予稿集、p. 17-20(2010.)

   続きを読むには・・・


この記事の著者

熊坂 治

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。


「全般」の他のキーワード解説記事

もっと見る
平均値よりも中央値

 中央値という統計量についてです。我々の最も身近な統計量は、平均値では無いでしょうか、何かの程度を比べる時、とりあえず平均値で判断すると思います。   ...

 中央値という統計量についてです。我々の最も身近な統計量は、平均値では無いでしょうか、何かの程度を比べる時、とりあえず平均値で判断すると思います。   ...


事業の概観把握 業務改革を実現する問題解決技法 (その2)

【業務改革を実現する問題解決技法 連載目次】 1. 全体像 2. 事業の概観把握 3. 事業責任者の問題認識 4. 全体業務フロー 5....

【業務改革を実現する問題解決技法 連載目次】 1. 全体像 2. 事業の概観把握 3. 事業責任者の問題認識 4. 全体業務フロー 5....


コトバから見えるものづくり[身も蓋も無い]の身と蓋ってどこ?

  「身(み)も蓋(ふた)もない」という言葉を聞いたり、使ったりする事はありますか?意外と考えたことが無いと思いますが、「身」と「蓋」とはいっ...

  「身(み)も蓋(ふた)もない」という言葉を聞いたり、使ったりする事はありますか?意外と考えたことが無いと思いますが、「身」と「蓋」とはいっ...


「全般」の活用事例

もっと見る
【SDGs取り組み事例】電気の「見える化」で企業の省エネ活動を支援 日本テクノ株式会社

電気代削減だけでなく、様々な面にメリットも 日本テクノ株式会社(東京都新宿区) 建物の状況に合わせ、設備機器運用を最適化することで温室効果ガスや光...

電気代削減だけでなく、様々な面にメリットも 日本テクノ株式会社(東京都新宿区) 建物の状況に合わせ、設備機器運用を最適化することで温室効果ガスや光...


【ものづくりの現場から】他産業技術を農業へ転用。研究・実証を重ねる中小企業の発想とは(ラジアント)

  ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづく...

  ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづく...


【ものづくりの現場から】「変形」が武器の製品を生み出すDX-nativeな開発現場(ICOMA)

  【特集】ものづくりの現場から一覧へ戻る ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消...

  【特集】ものづくりの現場から一覧へ戻る ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消...