品質システムと「なぜなぜ分析」

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 なぜなぜを5回繰り返して「真の原因」を追究せよ!と言いますが、5回繰り返せば本当に「真の原因」にたどり着くでしょうか?そもそも「真の原因」とはなんでしょう? 

 どの解説書を読んでも、分かったような、分からないような、そんなモヤモヤがいつまでたっても晴れません。そこで今回は、「なぜなぜ分析」を徹底的に「分析」してみたいと思います。
  

1.なぜなぜ分析の目的

 「なぜなぜ分析」を行う目的は大きく2つに分かれます。なぜなぜ分析とは

(1)自然科学上の法則(メカニズム)を解明する

(2)業務システム上のプロセスの欠陥を解明する

 前者は自然界の法則、後者は人間が作り上げた「仕組み」です。ほとんどの場合、この2種類を混同しているため、「なぜなぜ分析」がうまくいかないのです。
  

1.1 自然科学の法則を解明する

 自然科学の法則を解明する時は、リンゴはなぜ木から落ちるのか?なぜ風邪を引いたのか?など様々存在するなぜを解明する時に使います。 

事例1:なぜ機械が止まったのか?

大野耐一氏の「なぜなぜ分析」も実はこの部類に入ります。

(1)なぜ機械が止まったのか?

   オーバーロードが掛かってヒューズがきれたから

(2)なぜオーバーロードが掛かったか?

   軸受け部の潤滑が十分でないから

(3)なぜ十分に潤滑しないのか

   潤滑ポンプが十分組み上げていないから

(4)なぜ十分組み上げないのか

   ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているから

(5)なぜ摩耗したのか

   ろ過器が付いていないので切粉が入ったから

(大野耐一 著「トヨタ生産方式」33ページ、34ページ)

 著書の中で、なぜの追及が足りないとヒューズの取り換えやポンプの軸の取り換えの段階で終わってしまい、数か月後に同じトラブルが再発するとしています。
     

1.2 しくみの欠陥を解明する

 風邪を引いたのは、ウイルスが体に侵入したためで、ウイルスの種類を突き止め、そのウイルスに効く薬を飲む、栄養を補給するなどの対策に結び付けて行きます。風邪薬を飲む、栄養を補給すると風邪は治ります。ただし、またいつか風邪を引いてしまうことがあります。

 そこで、風邪のシーズンに入る前に予防接種をする、うがいをするなどの予防策を講じます。もし風邪を引く者が現れたら「なぜ、なぜ」と予防プロセスの欠陥を洗い出して、より万全な予防のしくみを構築していきます。つまり、同様な問題が二度と起きないようにするために「なぜなぜ分析」を行うのです。

 機械の故障も、なぜポンプにろ過器を付けなかったのか、予防プロセスの漏れや欠陥を洗い出し、ポンプを購入する際の仕様の確認、ひいては工場設備を新しく導入する時のチェック項目を洗い出し、漏れがあれば追加するなど、設備全体が二度と同じような事故が起きないように予防します。
   

2.しくみの欠陥を対策するには

 自然科学の法則を解明する「なぜなぜ分析」の到達点は明解です。それは、事実に基づく科学的な解明が可能だからです。ウイルスの種類に合った抗生物質を投与する、ポンプにろ過器を付けるなどで現象は収まります。 

 ところが、しくみの欠陥の「根本原因」を見つけ、二度と起きないようにするには困難が伴います。この点が、「なぜなぜ分析」を難しくしているもう一つの理由です。二度と起きないようにしようとしても、あらゆるケースを想定できない、人材や設備、資金などの制約がある、また最後は人間の注意力に頼らなければならないなどで、行き詰ってしまうからです。 

 そこで、あらかじめ何処までを想定した「仕組み」を構築するかを決めておかないと、なぜなぜ分析は永遠に終わりません。企業の技術レベル、人材力や財力などで、予防策も自ずと限度が出て来ます。
   

3.品質システムと「なぜなぜ分析」の関係

 以上の事から、品質問題の「なぜなぜ分析」は、どこまで「なぜなぜ」を続け「根本原因」に到達さ...

 なぜなぜを5回繰り返して「真の原因」を追究せよ!と言いますが、5回繰り返せば本当に「真の原因」にたどり着くでしょうか?そもそも「真の原因」とはなんでしょう? 

 どの解説書を読んでも、分かったような、分からないような、そんなモヤモヤがいつまでたっても晴れません。そこで今回は、「なぜなぜ分析」を徹底的に「分析」してみたいと思います。
  

1.なぜなぜ分析の目的

 「なぜなぜ分析」を行う目的は大きく2つに分かれます。なぜなぜ分析とは

(1)自然科学上の法則(メカニズム)を解明する

(2)業務システム上のプロセスの欠陥を解明する

 前者は自然界の法則、後者は人間が作り上げた「仕組み」です。ほとんどの場合、この2種類を混同しているため、「なぜなぜ分析」がうまくいかないのです。
  

1.1 自然科学の法則を解明する

 自然科学の法則を解明する時は、リンゴはなぜ木から落ちるのか?なぜ風邪を引いたのか?など様々存在するなぜを解明する時に使います。 

事例1:なぜ機械が止まったのか?

大野耐一氏の「なぜなぜ分析」も実はこの部類に入ります。

(1)なぜ機械が止まったのか?

   オーバーロードが掛かってヒューズがきれたから

(2)なぜオーバーロードが掛かったか?

   軸受け部の潤滑が十分でないから

(3)なぜ十分に潤滑しないのか

   潤滑ポンプが十分組み上げていないから

(4)なぜ十分組み上げないのか

   ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているから

(5)なぜ摩耗したのか

   ろ過器が付いていないので切粉が入ったから

(大野耐一 著「トヨタ生産方式」33ページ、34ページ)

 著書の中で、なぜの追及が足りないとヒューズの取り換えやポンプの軸の取り換えの段階で終わってしまい、数か月後に同じトラブルが再発するとしています。
     

1.2 しくみの欠陥を解明する

 風邪を引いたのは、ウイルスが体に侵入したためで、ウイルスの種類を突き止め、そのウイルスに効く薬を飲む、栄養を補給するなどの対策に結び付けて行きます。風邪薬を飲む、栄養を補給すると風邪は治ります。ただし、またいつか風邪を引いてしまうことがあります。

 そこで、風邪のシーズンに入る前に予防接種をする、うがいをするなどの予防策を講じます。もし風邪を引く者が現れたら「なぜ、なぜ」と予防プロセスの欠陥を洗い出して、より万全な予防のしくみを構築していきます。つまり、同様な問題が二度と起きないようにするために「なぜなぜ分析」を行うのです。

 機械の故障も、なぜポンプにろ過器を付けなかったのか、予防プロセスの漏れや欠陥を洗い出し、ポンプを購入する際の仕様の確認、ひいては工場設備を新しく導入する時のチェック項目を洗い出し、漏れがあれば追加するなど、設備全体が二度と同じような事故が起きないように予防します。
   

2.しくみの欠陥を対策するには

 自然科学の法則を解明する「なぜなぜ分析」の到達点は明解です。それは、事実に基づく科学的な解明が可能だからです。ウイルスの種類に合った抗生物質を投与する、ポンプにろ過器を付けるなどで現象は収まります。 

 ところが、しくみの欠陥の「根本原因」を見つけ、二度と起きないようにするには困難が伴います。この点が、「なぜなぜ分析」を難しくしているもう一つの理由です。二度と起きないようにしようとしても、あらゆるケースを想定できない、人材や設備、資金などの制約がある、また最後は人間の注意力に頼らなければならないなどで、行き詰ってしまうからです。 

 そこで、あらかじめ何処までを想定した「仕組み」を構築するかを決めておかないと、なぜなぜ分析は永遠に終わりません。企業の技術レベル、人材力や財力などで、予防策も自ずと限度が出て来ます。
   

3.品質システムと「なぜなぜ分析」の関係

 以上の事から、品質問題の「なぜなぜ分析」は、どこまで「なぜなぜ」を続け「根本原因」に到達させるかがポイントとなります。

 逆に経営者は、自社の品質システムの達成すべき目標を明確にしておく必要があります。つまり経営資源の配分としての人材、設備、およびしくみ(方法・手順)を何処まで準備しておくか?例えば、検査を人出でやるか、あるいは高価な自動検査機を購入するかなど、どこに目標を置くのかで対策も変わります。

 一般的な製造業の品質問題発生・流出の「根本原因」は以下のような5Mに分類できます。

  •  人・・・教育・訓練制度、採用制度
  •  設備・・・発注手順、導入検証手順、保全点検手順
  •  材料・・・材料採用認定手順、外注選定・管理手順、保管手順
  •  作業・・・作業方法・手順、ポカよけ、自働化、検査手順、工程FMEA
  •  測定・・・計測器導入と管理、データー監視と分析、4M変動管理

 自社の顧客、製品種類そして現状の品質システムに照らし、それぞれの項目の達成レベルを描き、それを目指した品質改善活動が求められるのです。

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この記事の著者

濱田 金男

製造業に従事して50年、新製品開発設計から製造技術、品質管理、海外生産まで、あらゆる業務に従事した経験を基に、現場目線で業務改革・経営改革・意識改革支援に取り組んでいます。

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