EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125) SEMの元素分析器とは

投稿日

 

EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125)

【目次】

    1. EDSとWDS

    SEMの元素分析器としてEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:エネルギー分散型X線分光器)とWDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry:波長分散型X線分光器)があります。この両者はともに試料から発生した特性X線を取り扱います。特性X線の発生メカニズムを下図に示します。特性X線は電磁波の一種であり、エネルギーとしての特性と波動としての特性があります。EDSはエネルギーとしての特性X線を検出し、WDSは波動としての特性X線を検出します。なお、EDSはSEM-EDSと呼ばれます。一方WDSをセットしたSEMはEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線プローブマイクロアナライザ)と呼ばれます。

     

    EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125)

    図.特性X線の発生メカニズム

     

    EDSでは特性X線の検出に半導体検出器を使用します。検出器に特性X線が入射すると、エネルギーに相当する電子と正孔の対が生成されます。この電流から特性X線のエネルギーを測定します。EDSでは一度に多くの元素を同時に測定でき、EDS分析を行うと特性X線に応じたスペクトルが得られます。このスペクトルは縦軸が特性X線のカウント、横軸が特性X線のエネルギー(eV)です。

     

    2. EDSとWDSの比較

    EDSとWDSの違いは特性X線の検出方法ですが、これは特性X線の測定時間と検出精度に影響します。両者の比較を下表に示します。

     

    EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125)

    表.EDSとWDSの比較

     

    EDSは測定時間が早く、検出精度が低いです。WDSはその逆です。EDSは検出器の電流から分析するので短時間となり、逆にWDSは分光結晶と検出器を移動しながら分析するので時間がかかります。一方、検出感度について、EDSは同時に複数の元素を測定できる反面、スペクトルピークの分解能が悪く、ピークの重なりも起こるため、検出感度は低いです。また炭素、酸素などの軽元素は正確な分析が困難です。WDSではスペクトルピークの分解能が高く検出感度が高いです。さらに炭素、酸素などの軽元素の分析も可能です。一方で、一つの分光結晶で分析できる元素が限られているため、多元素を分析する場合は分光結晶を多く用意する必要があります。EDSは主に短時間で簡易的な分析に使用され、WD...

     

    EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125)

    【目次】

      1. EDSとWDS

      SEMの元素分析器としてEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:エネルギー分散型X線分光器)とWDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry:波長分散型X線分光器)があります。この両者はともに試料から発生した特性X線を取り扱います。特性X線の発生メカニズムを下図に示します。特性X線は電磁波の一種であり、エネルギーとしての特性と波動としての特性があります。EDSはエネルギーとしての特性X線を検出し、WDSは波動としての特性X線を検出します。なお、EDSはSEM-EDSと呼ばれます。一方WDSをセットしたSEMはEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線プローブマイクロアナライザ)と呼ばれます。

       

      EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125)

      図.特性X線の発生メカニズム

       

      EDSでは特性X線の検出に半導体検出器を使用します。検出器に特性X線が入射すると、エネルギーに相当する電子と正孔の対が生成されます。この電流から特性X線のエネルギーを測定します。EDSでは一度に多くの元素を同時に測定でき、EDS分析を行うと特性X線に応じたスペクトルが得られます。このスペクトルは縦軸が特性X線のカウント、横軸が特性X線のエネルギー(eV)です。

       

      2. EDSとWDSの比較

      EDSとWDSの違いは特性X線の検出方法ですが、これは特性X線の測定時間と検出精度に影響します。両者の比較を下表に示します。

       

      EDSとWDS:金属材料基礎講座(その125)

      表.EDSとWDSの比較

       

      EDSは測定時間が早く、検出精度が低いです。WDSはその逆です。EDSは検出器の電流から分析するので短時間となり、逆にWDSは分光結晶と検出器を移動しながら分析するので時間がかかります。一方、検出感度について、EDSは同時に複数の元素を測定できる反面、スペクトルピークの分解能が悪く、ピークの重なりも起こるため、検出感度は低いです。また炭素、酸素などの軽元素は正確な分析が困難です。WDSではスペクトルピークの分解能が高く検出感度が高いです。さらに炭素、酸素などの軽元素の分析も可能です。一方で、一つの分光結晶で分析できる元素が限られているため、多元素を分析する場合は分光結晶を多く用意する必要があります。EDSは主に短時間で簡易的な分析に使用され、WDSで時間をかけて詳細な分析が行われます。

       

      次回に続きます。

      関連解説記事:マランゴニ対流~宇宙でもきれいに混ざらない合金の不思議 

      関連解説記事:金属材料基礎講座 【連載記事紹介】

       

      連載記事紹介:ものづくりドットコムの人気連載記事をまとめたページはこちら!

       

      【ものづくり セミナーサーチ】 セミナー紹介:国内最大級のセミナー掲載数 〈ものづくりセミナーサーチ〉 はこちら!

       

         続きを読むには・・・


      この記事の著者

      福﨑 昌宏

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


      「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

      もっと見る
      フィッシュアイとストライエーション 金属材料基礎講座(その43)

        1.フィッシュアイ  フィッシュアイは主に内部起点破壊の周辺に見られる模様です。  浸炭や高周波焼入れなどの熱処理をした鋼は表面が硬い...

        1.フィッシュアイ  フィッシュアイは主に内部起点破壊の周辺に見られる模様です。  浸炭や高周波焼入れなどの熱処理をした鋼は表面が硬い...


      JIS G4053 機械構造用合金鋼鋼材 SCr SCM:金属材料基礎講座(その108)

        機械構造用合金鋼鋼材のクロム鋼、クロムモリブデン鋼の化学成分を表1に示します。クロム鋼はクロムを1%程度添加することで焼入れ性を高めて...

        機械構造用合金鋼鋼材のクロム鋼、クロムモリブデン鋼の化学成分を表1に示します。クロム鋼はクロムを1%程度添加することで焼入れ性を高めて...


      析出強化 金属材料基礎講座(その12)

        ◆ 析出強化:金属の強化方法のその2  2つ目の強化方法は析出強化です。粒子分散強化という時もあります。これは材料中に硬い粒子を微細...

        ◆ 析出強化:金属の強化方法のその2  2つ目の強化方法は析出強化です。粒子分散強化という時もあります。これは材料中に硬い粒子を微細...


      「金属・無機材料技術」の活用事例

      もっと見る
      ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...


      金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...