リスクマネジメントの実施ポイントとは、過去の事例からリスクを推測

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リスクマネジメントの実施ポイントとは、過去の事例からリスクを推測

【目次】

    リスクマネジメントを行う際、まずやるべきことは将来のリスクに気付くことです。ここで役に立つのが、過去のトラブル事例です。ただし、過去の事例を水平展開するだけでは不十分です。今回は、リスクマネジメントの実施ポイントを解説します。

     

    1. リスクマネジメントの実施ポイント、幅広くリスクを発見する

    ある製造会社で、A社に対して、B社向けの書類を誤って送ってしまいました。原因を調査したところ、A社とB社向けの書類が識別されずに、同じファイルに入っていたため、書類を取り違えたことが分かりました。このトラブル事例から将来リスクを見つけるために、一般的には水平展開を実施します。つまり、他の書類で取り違いというリスクを抽出するわけですが、これだけでは不十分です。

     

    そこで、この事例の「書類の取り違い」から「書類」という属性を外して一般化し「取り違い」だけを取り出して将来リスクを見つけます。たとえば、生産現場で製品を取り違えて、顧客に誤配送するというリスクはないか、あるいは、医療現場で、患者や薬の取り違いというリスクはないか、という視点で見ていけば、幅広くリスクを発見することができます。

     

    この考え方は「失敗学」という理論に基づいています。過去の失敗事例の属性を外して、一般化し、将来のリスクを発見する手法です。「水平展開」だけでは、限界があります。一般化という手法で、将来リスクの気付きが増えて、リスクマネジメントの効果が上がっていくことでしょう。

     

    2. リスクマネジメントの実施ポイント、限られたリソース・予算でのリスク対応

    どの企業でも、リソース(費用と人材)は限られています。すべてのリスクに対して対策を講じることは困難です。では、どのようなリスクを優先するか、リスク対策の費用が高額の場合、どう対応するかについて、解説します。

     

    2.1 重大リスクは最優先

    重大リスクとは、そのリスクを放置すると、事故が起こって人が傷つく、大きな顧客クレームやリコールに発展する、さらには不祥事に至ると想定される場合です。つまり、取り返しがつかない事態に陥るリスクのことです。リスクを評価するときは、性悪説に立って、最悪の事態を想定してください。最悪の事故は、死亡事故です。人が死んでからではどんな対策を実行しても、手遅れです。このような重大リスクは、最優先で対策すべきです。

     

    この重大リスクを発見したときは、経営トップに報告し、対策が完了するまでそのプロセス(経過)を関係者で共有してください。重大リスクを見逃さない、隠さない、その対策を完了することが大切です。

     

    2.2 リスク対策の費用が高額の場合

    リスク対策を検討する際、対策方法が見つかっても、その費用が大きな問題となることがあります。重大事故を防ぐためだからといって、際限なく費用をかけてよいということにはなりません。費用が高額になることが分かったとき「そんなことは当面起こらないだろう」と楽観論を掲げて、このリスクがなかったことにしてしまうことだけは、絶対に避けるべきです。対策費用が高額の場合、次の方向で検討してみてはどうでしょうか。

     

    リスクをゼロにする費用が高額であれば、リスクを最小化することで費用を軽減できないかを検討しましょう。トラブルが発生しても、発見しやすい対策を講じることで、トラブルの影響度合いを軽減する。たとえば、品質トラブルの発生原因対策が困難であれば、流出原因対策を優先して、とりあえず顧客に迷惑をかけない。

     

    自然災害の場合、ハード対策だけなくソフト対策を加味する。たとえば、津波を完全に防ぐためのハード対策(防潮堤設置)費用が高額になる場合、ソフト対策(避難経路の確保)も講じて、住民の安全を確保する。リスク対策費用は難しい課題ですが、リスクが見つかったら逃げずに最悪を想定して、対策を検討してください。「事が起こってからでは遅い」ということをお忘れなく!

     

    3. リスクマネジメントの実施ポイント、リスクマネジメントの実行は責任者と期限を明確に

    リスクが見つかり、その対策案を決定したあとは、確実に対策を実行する必要があります。ここで重要なことは、各対策の実行責任者と実行計画(期限)を明確にすることです。責任者は、対策実行の責任を負うと同時に、関係者のアサインや予算の権限が与えられることになります。そして、後述する実行計画の進捗管理を実施して期限を遵守します。

     

    実行計画について、たとえば、対策として業務マニュアルを改訂する場合の悪い例と良い例を紹介します。

     

    悪い例は、対策案:業務マニュアルの改訂、期限:xx月xx日です。これでは、どういうステップで業務マニ...

    リスクマネジメントの実施ポイントとは、過去の事例からリスクを推測

    【目次】

      リスクマネジメントを行う際、まずやるべきことは将来のリスクに気付くことです。ここで役に立つのが、過去のトラブル事例です。ただし、過去の事例を水平展開するだけでは不十分です。今回は、リスクマネジメントの実施ポイントを解説します。

       

      1. リスクマネジメントの実施ポイント、幅広くリスクを発見する

      ある製造会社で、A社に対して、B社向けの書類を誤って送ってしまいました。原因を調査したところ、A社とB社向けの書類が識別されずに、同じファイルに入っていたため、書類を取り違えたことが分かりました。このトラブル事例から将来リスクを見つけるために、一般的には水平展開を実施します。つまり、他の書類で取り違いというリスクを抽出するわけですが、これだけでは不十分です。

       

      そこで、この事例の「書類の取り違い」から「書類」という属性を外して一般化し「取り違い」だけを取り出して将来リスクを見つけます。たとえば、生産現場で製品を取り違えて、顧客に誤配送するというリスクはないか、あるいは、医療現場で、患者や薬の取り違いというリスクはないか、という視点で見ていけば、幅広くリスクを発見することができます。

       

      この考え方は「失敗学」という理論に基づいています。過去の失敗事例の属性を外して、一般化し、将来のリスクを発見する手法です。「水平展開」だけでは、限界があります。一般化という手法で、将来リスクの気付きが増えて、リスクマネジメントの効果が上がっていくことでしょう。

       

      2. リスクマネジメントの実施ポイント、限られたリソース・予算でのリスク対応

      どの企業でも、リソース(費用と人材)は限られています。すべてのリスクに対して対策を講じることは困難です。では、どのようなリスクを優先するか、リスク対策の費用が高額の場合、どう対応するかについて、解説します。

       

      2.1 重大リスクは最優先

      重大リスクとは、そのリスクを放置すると、事故が起こって人が傷つく、大きな顧客クレームやリコールに発展する、さらには不祥事に至ると想定される場合です。つまり、取り返しがつかない事態に陥るリスクのことです。リスクを評価するときは、性悪説に立って、最悪の事態を想定してください。最悪の事故は、死亡事故です。人が死んでからではどんな対策を実行しても、手遅れです。このような重大リスクは、最優先で対策すべきです。

       

      この重大リスクを発見したときは、経営トップに報告し、対策が完了するまでそのプロセス(経過)を関係者で共有してください。重大リスクを見逃さない、隠さない、その対策を完了することが大切です。

       

      2.2 リスク対策の費用が高額の場合

      リスク対策を検討する際、対策方法が見つかっても、その費用が大きな問題となることがあります。重大事故を防ぐためだからといって、際限なく費用をかけてよいということにはなりません。費用が高額になることが分かったとき「そんなことは当面起こらないだろう」と楽観論を掲げて、このリスクがなかったことにしてしまうことだけは、絶対に避けるべきです。対策費用が高額の場合、次の方向で検討してみてはどうでしょうか。

       

      リスクをゼロにする費用が高額であれば、リスクを最小化することで費用を軽減できないかを検討しましょう。トラブルが発生しても、発見しやすい対策を講じることで、トラブルの影響度合いを軽減する。たとえば、品質トラブルの発生原因対策が困難であれば、流出原因対策を優先して、とりあえず顧客に迷惑をかけない。

       

      自然災害の場合、ハード対策だけなくソフト対策を加味する。たとえば、津波を完全に防ぐためのハード対策(防潮堤設置)費用が高額になる場合、ソフト対策(避難経路の確保)も講じて、住民の安全を確保する。リスク対策費用は難しい課題ですが、リスクが見つかったら逃げずに最悪を想定して、対策を検討してください。「事が起こってからでは遅い」ということをお忘れなく!

       

      3. リスクマネジメントの実施ポイント、リスクマネジメントの実行は責任者と期限を明確に

      リスクが見つかり、その対策案を決定したあとは、確実に対策を実行する必要があります。ここで重要なことは、各対策の実行責任者と実行計画(期限)を明確にすることです。責任者は、対策実行の責任を負うと同時に、関係者のアサインや予算の権限が与えられることになります。そして、後述する実行計画の進捗管理を実施して期限を遵守します。

       

      実行計画について、たとえば、対策として業務マニュアルを改訂する場合の悪い例と良い例を紹介します。

       

      悪い例は、対策案:業務マニュアルの改訂、期限:xx月xx日です。これでは、どういうステップで業務マニュアルを改訂するのかが不明で、対策の実行プロセスをモニタリングすることができません。

       

      良い例は、業務マニュアル改訂という対策を各実行担当者の行動レベルまで落とし込んだ詳細の作業を明確にすることです。その1つ1つの作業に対して日程を与えることで、対策実行プロセスが可視化され、実行計画の進捗管理が可能となります。

       

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      対策を決められた期限通り実行することは、リスクマネジメントでとても大切です。実行を邪魔する想定外の業務が飛び込んでくることは当たり前です。個人ではなく、チームで業務の優先度を判断して、対策実行が後回しにならないように気をつけましょう。

       

      【出典】未然防止研究所 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。

       

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      この記事の著者

      林原 昭

      業務上のトラブル・事故ゼロ社会の実現!再発防止だけでは不十分、リスクの気づきで未然防止

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