金型とは、金型産業を深く知る(その2)

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生産マネジメント

 

造形の要である金型は「製品の産みの親」ともいわれています。工法はプレス、鍛造、鋳造、射出工程などがあり、素材である金属板、樹脂ペレット、ガラス粒を造形品に変えます。組付けや加工にも金型は用いられており、世の中の立体構造物のほとんどは金型を介して世に出ているといって差し支えないでしょう。図面を立体化させ製品を産む大黒柱として工業界を背負っています。日本は、ものづくり大国として発展を遂げ、共にけん引してきた金型産業界は、1991年には生産高世界トップに立ちました。

 

金型産業界の今について、2回にわたって解説しています。前編では、数字からみえる今と課題を取り上げました。今回の後編は、日本の金型業界の強みと、業界として目指す姿に着目します。

 

【目次】
1. 日本の金型産業界の今(前編で記述)
2. 日本金型産業界の課題(前編で記述)
3. 日本が目指す金型技術
4. 日本金型産業界が今後注目していること
5. ギガキャスト

 

◆関連解説記事:伸びる金型メーカーの秘訣【連載記事紹介】

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戦後、日本のものづくりは、設備も整わず真似に過ぎない粗悪品が多かった時代を経て、徹底的に改善に努めて高度経済成長を築きました。1991年に生産高が世界頂点にまで上り詰めた金型産業界でしたが、現在は就労者数、事業所数共に減少傾向にあります。「活路はある」とは一般社団法人金型工業会専務理事 中里 栄氏から伺った言葉です。金型業界が目指す今後を解説します。

 

3. 日本が目指す金型技術

3.1 日本の金型技術

技能五輪国際大会は、国内大会を勝ち抜いた精鋭が、2年に1度国際舞台で技能を競う製造業界におけるオリンピック競技会です。前回の第46回大会(2021年) プラスチック金型部門の成績は銀メダル。日本選手団の総合順位は、低迷時期はあったものの、常にトップ3に位置しています。しかし、中里氏は「日本の金型技術の強みは、一番凄い所を競うオリンピックとは異なる。ビジネスの世界において、どこに発注しても一定の高い技術力を示せること。」と言い切ります。技能の国際大会では、総合順位は韓国が第1位を獲得し続け、金型生産高では中国が独走状態のなか、就労者数、事業所が減少傾向にあって尚、日本の金型生産高は世界第3位。技能レベルも国際大会では上位に君臨する実力は、世界的に見ても技術の高い層が厚く、健在であること証明しています。

 

3.2 一般社団法人金型工業会 中里栄氏の見解

海外の金型生産技術の向上は目覚ましく、これまで日本が築き上げた稼働レベルは肩を並べられようとしているというのが製造業界共通の危機感です。金型技術が優れている日本に、中里氏が期待を寄せたのが「メガの分野」でした。これまでよりも大きな構造体を成型できる能力を持つ金型や、より複雑な形状の転写が可能な金型技術のことです。日本の高い技術力でしか成しえない分野で、ここで主導権を持つことが、今後の金型産業界の飛躍をにぎるカギだと熱弁されます。

 

3.3 メガの分野:超大型化

例えば、複数の構造物を溶接して一体化させていた工法を、単体の構造物として成型したり、異なる部品を一度で組付けられれば、材料の節減、工程の集約につながります。実現させるために、金型の大型化は不可欠です。一度の成型で大量造形を可能にするのも金型を大型にする利点です。「超大型」を寸法や生産数で定義するのは議論がありますが、新たな技術、未知の世界こそが日本が取り組む分野であり、その基盤技術を疑う人はいないでしょう。

 

3.4 メガの分野:超複雑化 

金型は、高温・高圧・衝撃・長時間など過酷な環境下で使用されます。高い品質を求められ、安定して量産できる耐久性も必要とされます。構造物の軽量化に加え、小型化がすすむことで、要求寸法は高まり、ミリどころかミクロンオーダー[セロハンテープの厚さが50ミクロン]も珍しいことではありません。

 

デジタル機能を持つ製品の増加に伴い、機能が集積された複雑な構造体の、さらなる小型化も加速します。出来栄えを左右する金型の表面仕上げが、一部機械化されたとはいえ、手作業に変わる技術がないことは製造業界では当たり前の話です。日本の技術は、単に手先の器用さを言っているのではなく、要求されたレベルを達成させるための知見とノウハウを十分に備えているのだと中里氏は自信をみなぎらせます。

 

4. 日本金型産業界が今後注目していること

4.1 「日本のものづくり」から「世界のものづくり」へ

今後は「生き残りのための知恵ではなく、実現したい未来を共有し発展に結集する」ことだと一般社団法人金型工業会はビジョンを提案しています。現地調達などによる内需の減少は避けられず、国内競争を続けていては共倒れの危険性が高まります。前編で触れたように、世界の金型需要は拡大しています。

 

これからは、国内生産・雇用の維持をはかりつつ、海外へものづくりの目を向ける必要があるのです。海外という新たな市場を開拓していくには、納期、品質、スペックを「満足する対応」という後手でなく、顧客に価値を提供し、発展に貢献する「新たな価値を創造する」先手の取り組みが可能するというのです。

 

4.2 「下請け」ではなく「パートナー」

一般社団法人金型工業会では「下請け」という言葉の自粛を呼び掛けています。後工程を担っていますが...

 

生産マネジメント

 

造形の要である金型は「製品の産みの親」ともいわれています。工法はプレス、鍛造、鋳造、射出工程などがあり、素材である金属板、樹脂ペレット、ガラス粒を造形品に変えます。組付けや加工にも金型は用いられており、世の中の立体構造物のほとんどは金型を介して世に出ているといって差し支えないでしょう。図面を立体化させ製品を産む大黒柱として工業界を背負っています。日本は、ものづくり大国として発展を遂げ、共にけん引してきた金型産業界は、1991年には生産高世界トップに立ちました。

 

金型産業界の今について、2回にわたって解説しています。前編では、数字からみえる今と課題を取り上げました。今回の後編は、日本の金型業界の強みと、業界として目指す姿に着目します。

 

【目次】
1. 日本の金型産業界の今(前編で記述)
2. 日本金型産業界の課題(前編で記述)
3. 日本が目指す金型技術
4. 日本金型産業界が今後注目していること
5. ギガキャスト

 

◆関連解説記事:伸びる金型メーカーの秘訣【連載記事紹介】

◆関連解説記事:金型設計、3次元CADの種類と選択

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

戦後、日本のものづくりは、設備も整わず真似に過ぎない粗悪品が多かった時代を経て、徹底的に改善に努めて高度経済成長を築きました。1991年に生産高が世界頂点にまで上り詰めた金型産業界でしたが、現在は就労者数、事業所数共に減少傾向にあります。「活路はある」とは一般社団法人金型工業会専務理事 中里 栄氏から伺った言葉です。金型業界が目指す今後を解説します。

 

3. 日本が目指す金型技術

3.1 日本の金型技術

技能五輪国際大会は、国内大会を勝ち抜いた精鋭が、2年に1度国際舞台で技能を競う製造業界におけるオリンピック競技会です。前回の第46回大会(2021年) プラスチック金型部門の成績は銀メダル。日本選手団の総合順位は、低迷時期はあったものの、常にトップ3に位置しています。しかし、中里氏は「日本の金型技術の強みは、一番凄い所を競うオリンピックとは異なる。ビジネスの世界において、どこに発注しても一定の高い技術力を示せること。」と言い切ります。技能の国際大会では、総合順位は韓国が第1位を獲得し続け、金型生産高では中国が独走状態のなか、就労者数、事業所が減少傾向にあって尚、日本の金型生産高は世界第3位。技能レベルも国際大会では上位に君臨する実力は、世界的に見ても技術の高い層が厚く、健在であること証明しています。

 

3.2 一般社団法人金型工業会 中里栄氏の見解

海外の金型生産技術の向上は目覚ましく、これまで日本が築き上げた稼働レベルは肩を並べられようとしているというのが製造業界共通の危機感です。金型技術が優れている日本に、中里氏が期待を寄せたのが「メガの分野」でした。これまでよりも大きな構造体を成型できる能力を持つ金型や、より複雑な形状の転写が可能な金型技術のことです。日本の高い技術力でしか成しえない分野で、ここで主導権を持つことが、今後の金型産業界の飛躍をにぎるカギだと熱弁されます。

 

3.3 メガの分野:超大型化

例えば、複数の構造物を溶接して一体化させていた工法を、単体の構造物として成型したり、異なる部品を一度で組付けられれば、材料の節減、工程の集約につながります。実現させるために、金型の大型化は不可欠です。一度の成型で大量造形を可能にするのも金型を大型にする利点です。「超大型」を寸法や生産数で定義するのは議論がありますが、新たな技術、未知の世界こそが日本が取り組む分野であり、その基盤技術を疑う人はいないでしょう。

 

3.4 メガの分野:超複雑化 

金型は、高温・高圧・衝撃・長時間など過酷な環境下で使用されます。高い品質を求められ、安定して量産できる耐久性も必要とされます。構造物の軽量化に加え、小型化がすすむことで、要求寸法は高まり、ミリどころかミクロンオーダー[セロハンテープの厚さが50ミクロン]も珍しいことではありません。

 

デジタル機能を持つ製品の増加に伴い、機能が集積された複雑な構造体の、さらなる小型化も加速します。出来栄えを左右する金型の表面仕上げが、一部機械化されたとはいえ、手作業に変わる技術がないことは製造業界では当たり前の話です。日本の技術は、単に手先の器用さを言っているのではなく、要求されたレベルを達成させるための知見とノウハウを十分に備えているのだと中里氏は自信をみなぎらせます。

 

4. 日本金型産業界が今後注目していること

4.1 「日本のものづくり」から「世界のものづくり」へ

今後は「生き残りのための知恵ではなく、実現したい未来を共有し発展に結集する」ことだと一般社団法人金型工業会はビジョンを提案しています。現地調達などによる内需の減少は避けられず、国内競争を続けていては共倒れの危険性が高まります。前編で触れたように、世界の金型需要は拡大しています。

 

これからは、国内生産・雇用の維持をはかりつつ、海外へものづくりの目を向ける必要があるのです。海外という新たな市場を開拓していくには、納期、品質、スペックを「満足する対応」という後手でなく、顧客に価値を提供し、発展に貢献する「新たな価値を創造する」先手の取り組みが可能するというのです。

 

4.2 「下請け」ではなく「パートナー」

一般社団法人金型工業会では「下請け」という言葉の自粛を呼び掛けています。後工程を担っていますが「下」ではありません。優位性を助長しかねない表現を避け、対等である「パートナー」という言葉を推奨しています。環境改善や、取引適正化にもつながると期待がかかります。

 

言葉とは不思議なもので、定着して刷り込まれた表現に、心理的な作用が働くことがあります。「内・外」「同じ・違う」「正・派」「上・下」の言葉を並べることで、環境や地位にも無意識の選別が行われる危うさを秘めます。これは発する側だけでなく、受ける側にも影響を及ぼすのです。

 

5. ギガキャスト

トヨタ自動車が「ギガキャスト」を発表しました。アメリカEV大手テスラ社に続いて、大幅コスト削減に期待がかかる鋳造技術です。既にメガからギガ時代へ突入しています。さらなる激変が製造業界、金型業界に迫っていますが、この勢いはチャンスでもあります。金型工業会では「業界ワンボイス」の取り組みが始まっています。共同して業界を盛り立てていこうという動きです。繊細で精密な日本の金型技術を日本の産業界で盛り立てていくことは、今後の日本のものづくりを左右するといっても過言ではないといえるのではないでしょうか。ご意見をお待ちしています。

 

 

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この記事の著者

増田 好美

ビジネスパーソンの「気持ち」に寄り添う元エンジニア

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