計測の精度と不確かさとは(その1)

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【計測の精度と不確かさとは 連載目次】

 
  SQC

 

設計や生産の現場では、製品の性能試験や計量の目的でさまざまな物理量が計測され、そこで用いられるセンサ・計測器には高い精度が求められています。計測精度の重要性はアプリケーションの種類によって変わり、例えば石油プラントにおける流量計測のように結果が企業の売上げ・利益に直結するような場合はビジネスの面からの要求ですし、自動車の自動運転のようなアプリケーションでは距離や障害物の計測結果が安全に直結することから社会的な面から求められることになります。

 

こうしたビジネスや社会からの要請のレベルが高くなってきたことと、経済のグローバル化により国際的な規格整合について要求される場面が増えてきたことから、センサ・計測器自体の精度向上と併行して計測の信頼性の指標である“精度”という量をより厳密に捉えるための公的な取組みが進められています。

 

この連載では、こうした計測の精度に関する取組みについて4回に分けて解説します。第1回は、まず計測における“精度”がどのような量を表しているかを確認し、“精度”という用語に関する課題についてご説明していきます。

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1.「精度」とは

(1)一般的なイメージ

一般的には、計測器の“精度”として図1のような「測定値は正しい値を中心にして仕様で示される精度の範囲内にある」または、逆に「正しい値は、測定値のプラスマイナスの精度範囲内にある」というイメージでとらえていることが多いと思います。このような解釈で、通常は問題になることはありませんし、物差しで長さを測る時に使うような日常の言葉として考えても違和感がないと思います。(2)(3)では、これが公に用いられるイメージと合致しているかを確認してきます。

 

 

(2)製品仕様内の用語

まず、市場のセンサや計測器で“精度”に関して製品仕様の中でどのように表現しているかを確認してみます。圧力・温度・電圧などのセンサ・計測器の製品仕様書の記載例を表1に示します。“精度”に相当する用語として様々な言葉が用いられていますが、製品の仕様書内で「確度とは『誤差はこれ以下である』という限界」という主旨の記載例もあり、概ね(1)に近い考え方で定義されているようです。但し、“精度”以外の用語の意味が一致しているかは不明です。また、精度表現の中の“%”の分母として、計測器のフルスケール(”% of Full Scale”)や計測結果(”% of Reading”)など色々な可能性が考えられるにも関わらず、その点についての記載がないところも気になります。

 

 

(3)工業規格での定義

次に、公的な定義として工業規格内の記載を確認してみます。表2に、3種類のJISで“精度”に関連する用語の定義を示します。

 

 

これを見ると、“精度”に関連する用語は単一の用語ではなく、次の3つの異なる概念の用語に分けて定義されていること、そしてそれぞれの概念を示す言葉も複数あることが分ります。

  1. 真度、正確さ(trueness):”かたより”の小さい程度
  2. 精度、精密さ(precision):”ばらつき”の小さい程度
  3. 総合精度、精確さ(accuracy):両者を含めた総合的よさ

 

ここで、かたより(系統誤差)とばらつき(偶然誤差)は図2に示される量を表しており「正確であるが、精密ではない」「精密であるが、正確ではない」といった用いられ方をします。このように成分に分けて定義することで、より厳密に“精度”の概念を表現するとともに、例えば「校正によって誤差を抑制できるか」「計測回数を増やすことでばらつき成分が抑制できるか」といった方策を考える手助けになります。

 

これらを(1)と比較すると、 “総合精度、精確さ(accuracy)”が(1)の概念に近いですが、“精度”という用語自体は異なる概念を表すのに使われています。このことは、(1)のイメージと公の言葉の定義との間には乖離があることを表しています。

 

 

(4)“精度”という用語の課題

以上のことから、“精度&r...

【計測の精度と不確かさとは 連載目次】

 
  SQC

 

設計や生産の現場では、製品の性能試験や計量の目的でさまざまな物理量が計測され、そこで用いられるセンサ・計測器には高い精度が求められています。計測精度の重要性はアプリケーションの種類によって変わり、例えば石油プラントにおける流量計測のように結果が企業の売上げ・利益に直結するような場合はビジネスの面からの要求ですし、自動車の自動運転のようなアプリケーションでは距離や障害物の計測結果が安全に直結することから社会的な面から求められることになります。

 

こうしたビジネスや社会からの要請のレベルが高くなってきたことと、経済のグローバル化により国際的な規格整合について要求される場面が増えてきたことから、センサ・計測器自体の精度向上と併行して計測の信頼性の指標である“精度”という量をより厳密に捉えるための公的な取組みが進められています。

 

この連載では、こうした計測の精度に関する取組みについて4回に分けて解説します。第1回は、まず計測における“精度”がどのような量を表しているかを確認し、“精度”という用語に関する課題についてご説明していきます。

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1.「精度」とは

(1)一般的なイメージ

一般的には、計測器の“精度”として図1のような「測定値は正しい値を中心にして仕様で示される精度の範囲内にある」または、逆に「正しい値は、測定値のプラスマイナスの精度範囲内にある」というイメージでとらえていることが多いと思います。このような解釈で、通常は問題になることはありませんし、物差しで長さを測る時に使うような日常の言葉として考えても違和感がないと思います。(2)(3)では、これが公に用いられるイメージと合致しているかを確認してきます。

 

 

(2)製品仕様内の用語

まず、市場のセンサや計測器で“精度”に関して製品仕様の中でどのように表現しているかを確認してみます。圧力・温度・電圧などのセンサ・計測器の製品仕様書の記載例を表1に示します。“精度”に相当する用語として様々な言葉が用いられていますが、製品の仕様書内で「確度とは『誤差はこれ以下である』という限界」という主旨の記載例もあり、概ね(1)に近い考え方で定義されているようです。但し、“精度”以外の用語の意味が一致しているかは不明です。また、精度表現の中の“%”の分母として、計測器のフルスケール(”% of Full Scale”)や計測結果(”% of Reading”)など色々な可能性が考えられるにも関わらず、その点についての記載がないところも気になります。

 

 

(3)工業規格での定義

次に、公的な定義として工業規格内の記載を確認してみます。表2に、3種類のJISで“精度”に関連する用語の定義を示します。

 

 

これを見ると、“精度”に関連する用語は単一の用語ではなく、次の3つの異なる概念の用語に分けて定義されていること、そしてそれぞれの概念を示す言葉も複数あることが分ります。

  1. 真度、正確さ(trueness):”かたより”の小さい程度
  2. 精度、精密さ(precision):”ばらつき”の小さい程度
  3. 総合精度、精確さ(accuracy):両者を含めた総合的よさ

 

ここで、かたより(系統誤差)とばらつき(偶然誤差)は図2に示される量を表しており「正確であるが、精密ではない」「精密であるが、正確ではない」といった用いられ方をします。このように成分に分けて定義することで、より厳密に“精度”の概念を表現するとともに、例えば「校正によって誤差を抑制できるか」「計測回数を増やすことでばらつき成分が抑制できるか」といった方策を考える手助けになります。

 

これらを(1)と比較すると、 “総合精度、精確さ(accuracy)”が(1)の概念に近いですが、“精度”という用語自体は異なる概念を表すのに使われています。このことは、(1)のイメージと公の言葉の定義との間には乖離があることを表しています。

 

 

(4)“精度”という用語の課題

以上のことから、“精度”という用語には次のような課題があり、私たちが高精度に対象を計測したい場合は、用語や数値の意味を予め把握しておく必要があることを示します。

  • 産業分野やメーカー毎に、“精度”を表す用語は様々であり規格の用語とも異なる
  • 用語の意味も、一般イメージ、製品仕様、規格で異なっている可能性がある

次回に続きます。

 

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この記事の著者

山本 裕之

個々の課題に最適な改善プロセスを適用することで、企画・開発業務の生産性を効果的に向上させるお手伝いをしています。

個々の課題に最適な改善プロセスを適用することで、企画・開発業務の生産性を効果的に向上させるお手伝いをしています。


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