<完成品倉庫> ファブレス小売業の品質保証(その8)

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品質マネジメント

 

特定分野を長期間に渡って学び・経験された方は多いと思います。しかし、同じ製造業でも業界が異なると、慣習や考え方の基準は変ります。ましてや作り手(製造業)と売り手(小売業)では視点やスタンスが大きく異なってきます。「業務委託先がなかなか思うように動いてくれない」と感じたことはありませんか。 電気製品、家具、アパレル、バッグ、スニーカー、食品など様々な工場で品質改善・業務改善に取り組む中で、その工場が知らない、他業界のちょっとした「コツ」や「ヒント」が問題を一気に解決することがあります。ファブレス小売業の品質保証について、今回は、第8回です。

【この連載の前回:ファブレス小売業の品質保証(その7)へのリンク】

◆管理技術を使って工場を点検する<完成品倉庫>

完成品倉庫では、在庫量、商品の保管環境(温湿度、保管期間)、保管状態(積段数)、先入先出しの仕組みを確認します。


【目次】

①在庫量は適切か
②商品の保管環境は適切か
③保管状態は適切か
④先入れ先出しの仕組みはあるか

 

①在庫量は適切か

一番重要なポイントは、「過剰な在庫が無いか」という点です。実際の販売量は、季節変動や営業施策、流行などの影響を受けて変動します。一方で、工場の生産量はできるだけ変動させないことが品質面でも効率面(=コスト面)でも有利になります。このギャップを埋めるために、サプライチェーンのいずれかのポイントで在庫を持つことが必要になってきます。

 

小売業は、「欲しいものを、欲しい時に、欲しい量だけ」買うのが基本ですので、工場側で在庫を持ってもらうケースも多いでしょう。しかし、需給差を埋めるのに必要な量以上の在庫は、ムダ以外の何物でもありません。工場が作りすぎていないかを確認することで、工場側がどれだけ緻密に生産計画を立てているかを伺い知ることもできます。

 

□ 過剰な在庫がないか
□ 在庫量は生産計画によってコントロールされているか

 

②商品の保管環境は適切か

完成品倉庫の保管環境が適切かどうかも重要なポイントです。日本では梅雨の時期、ASEAN地域では雨季に高温多湿となりますので、布や木材などを扱う工場ではカビの発生にも注意しなければいけません。倉庫内の何か所かで定期的に温度・湿度を測定し、湿度が高くなりそうな場合(70%を限度とする工場が多いようです)には庫内の換気を行って湿度の上昇を防ぐなどの取り組みが必要です。

 

□ 庫内の数か所で定期的に温度・湿度を測定しているか
□ 測定した温度・湿度は記録されているか、定められた条件を超えた記録はないか
□ 一定の湿度になったら換気を行うなどのルールはあるか

 

③保管状態は適切か

完成品を入れている梱包箱には、設計時に定めた強度があります。当然、強度の限界を超えて高く積み上げてしまうと、下にある梱包箱は重さに耐えられず変形してしまいますし、場合によっては中の完成品にダメージを与えることもあります。設計時の強度や積み上げ方向は、梱包箱に表示された「ケアマーク」で確認することができますので、指定外の方向に積み上げていないか、指定された以上に積み上げていないかを確認することができます。

・「横積禁止」ケアマーク

保管

正しい上方向を表し、梱包箱を逆さ積み・横積みしてはいけないことを示すマークです。在庫の梱包箱を見て、積み木の屋根が必ず上を向いた状態になっていることを確認します。

・「積段数制限」ケアマーク

ケアマーク

梱包箱を積み重ね出来る総段数を示すマークです。表示された数値が最大許容積み重ね段数になりますので、これ以上積み上げられていないことを確認します。

積段数

保管しなければいけない完成品の数が多いけれど、倉庫にラックシステムなどが無く、上方の空間を利用したい場合には、ネステナーなどを利用して、完成品の最大積段数を守りながら空間を有効利用していきます。

 

品質管理

ネステナーの例(株式会社シーエスラック https://cs-rack.com)

 

□ 正しい方向で積み上げており、逆積み・横積みされていないか
□ 積段数は、最大許容積み重ね段数を超えていないか
□ 必要に応じてネステナーなどを利用し、積段数を守っているか

 

④先入れ先出しの仕組みはあるか

先入れ先出し(FIFO:First in, First out)とは、先に倉庫に入れた古い商品から先に出す(出荷する)という決まりごとのことです。鮮度が落ちていく商品はもちろんですが、そうでない商品でも先入れ先出しのルールを徹底することで以下のようなメリットが得られます。

 

・使用期限・賞味期限のある商品は、常に新しいものが在庫となり期限切れロスを防ぐことができる
・商品の長期滞留による劣化や汚破損を防ぐことができる
・特定ロットで不具合が発生した場合に、商品の所在を把握しやすい
・設計変更を行う際に、変更後の商品がいつから市場に出回るかが予測しやすい

 

先入れ先出しができる倉庫とできない倉庫では、商品の保管場所や保管方法に特徴があります。この特徴を...

品質マネジメント

 

特定分野を長期間に渡って学び・経験された方は多いと思います。しかし、同じ製造業でも業界が異なると、慣習や考え方の基準は変ります。ましてや作り手(製造業)と売り手(小売業)では視点やスタンスが大きく異なってきます。「業務委託先がなかなか思うように動いてくれない」と感じたことはありませんか。 電気製品、家具、アパレル、バッグ、スニーカー、食品など様々な工場で品質改善・業務改善に取り組む中で、その工場が知らない、他業界のちょっとした「コツ」や「ヒント」が問題を一気に解決することがあります。ファブレス小売業の品質保証について、今回は、第8回です。

【この連載の前回:ファブレス小売業の品質保証(その7)へのリンク】

◆管理技術を使って工場を点検する<完成品倉庫>

完成品倉庫では、在庫量、商品の保管環境(温湿度、保管期間)、保管状態(積段数)、先入先出しの仕組みを確認します。


【目次】

①在庫量は適切か
②商品の保管環境は適切か
③保管状態は適切か
④先入れ先出しの仕組みはあるか

 

①在庫量は適切か

一番重要なポイントは、「過剰な在庫が無いか」という点です。実際の販売量は、季節変動や営業施策、流行などの影響を受けて変動します。一方で、工場の生産量はできるだけ変動させないことが品質面でも効率面(=コスト面)でも有利になります。このギャップを埋めるために、サプライチェーンのいずれかのポイントで在庫を持つことが必要になってきます。

 

小売業は、「欲しいものを、欲しい時に、欲しい量だけ」買うのが基本ですので、工場側で在庫を持ってもらうケースも多いでしょう。しかし、需給差を埋めるのに必要な量以上の在庫は、ムダ以外の何物でもありません。工場が作りすぎていないかを確認することで、工場側がどれだけ緻密に生産計画を立てているかを伺い知ることもできます。

 

□ 過剰な在庫がないか
□ 在庫量は生産計画によってコントロールされているか

 

②商品の保管環境は適切か

完成品倉庫の保管環境が適切かどうかも重要なポイントです。日本では梅雨の時期、ASEAN地域では雨季に高温多湿となりますので、布や木材などを扱う工場ではカビの発生にも注意しなければいけません。倉庫内の何か所かで定期的に温度・湿度を測定し、湿度が高くなりそうな場合(70%を限度とする工場が多いようです)には庫内の換気を行って湿度の上昇を防ぐなどの取り組みが必要です。

 

□ 庫内の数か所で定期的に温度・湿度を測定しているか
□ 測定した温度・湿度は記録されているか、定められた条件を超えた記録はないか
□ 一定の湿度になったら換気を行うなどのルールはあるか

 

③保管状態は適切か

完成品を入れている梱包箱には、設計時に定めた強度があります。当然、強度の限界を超えて高く積み上げてしまうと、下にある梱包箱は重さに耐えられず変形してしまいますし、場合によっては中の完成品にダメージを与えることもあります。設計時の強度や積み上げ方向は、梱包箱に表示された「ケアマーク」で確認することができますので、指定外の方向に積み上げていないか、指定された以上に積み上げていないかを確認することができます。

・「横積禁止」ケアマーク

保管

正しい上方向を表し、梱包箱を逆さ積み・横積みしてはいけないことを示すマークです。在庫の梱包箱を見て、積み木の屋根が必ず上を向いた状態になっていることを確認します。

・「積段数制限」ケアマーク

ケアマーク

梱包箱を積み重ね出来る総段数を示すマークです。表示された数値が最大許容積み重ね段数になりますので、これ以上積み上げられていないことを確認します。

積段数

保管しなければいけない完成品の数が多いけれど、倉庫にラックシステムなどが無く、上方の空間を利用したい場合には、ネステナーなどを利用して、完成品の最大積段数を守りながら空間を有効利用していきます。

 

品質管理

ネステナーの例(株式会社シーエスラック https://cs-rack.com)

 

□ 正しい方向で積み上げており、逆積み・横積みされていないか
□ 積段数は、最大許容積み重ね段数を超えていないか
□ 必要に応じてネステナーなどを利用し、積段数を守っているか

 

④先入れ先出しの仕組みはあるか

先入れ先出し(FIFO:First in, First out)とは、先に倉庫に入れた古い商品から先に出す(出荷する)という決まりごとのことです。鮮度が落ちていく商品はもちろんですが、そうでない商品でも先入れ先出しのルールを徹底することで以下のようなメリットが得られます。

 

・使用期限・賞味期限のある商品は、常に新しいものが在庫となり期限切れロスを防ぐことができる
・商品の長期滞留による劣化や汚破損を防ぐことができる
・特定ロットで不具合が発生した場合に、商品の所在を把握しやすい
・設計変更を行う際に、変更後の商品がいつから市場に出回るかが予測しやすい

 

先入れ先出しができる倉庫とできない倉庫では、商品の保管場所や保管方法に特徴があります。この特徴を知っていれば、先入れ先出しが出来ているかどうかを推測することができます。

 

□ (コンビニの飲料ケースや自動販売機のように)商品を入れる方向と出す方向が異なる
□ 商品を保管する際に、入庫日と入庫場所(エリア番号や棚番号)をシステムに記録し、出庫時は入庫日の古いものから出庫指示を行う仕組みがある
□ 定期的にロット番号や使用期限・賞味期限を点検し、倉庫内の配置を変えている

 

参考までに、先入れ先出しが出来ていないケースも書いておきます。

 

□ 出庫指示を行う際に、入庫日が考慮されていない
□ 作業通路から奥に向かって、商品が何層にも置かれている(下図参照)

 

在庫管理

図.在庫の置き方

 

※ この置き方だと一番奥にある古い商品を取り出すには、手前にある商品を全て移動しなければなりません。倉庫内のレイアウトがこの状態のときは、先入れ先出しが行われていない可能性が高いと考えてよいでしょう。

 

次回に続きます。

 

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この記事の著者

今澤 尚久

「商品を買う側(小売業)」と「商品を作る側(製造業)」の両方の業界経験をベースに実効性のある経営戦略を策定します。現場・現物・現実の三現主義で現状把握から施策立案・課題解決までの全工程を支援します。

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