メカトロニクスとは 

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メカトロニクス

 

産業用機械、ロボットの電子化の土台であるメカトロニクス製品は、メカと電子工学が融合して魅力ある機能が生まれ、制御工学によってその機能の価値が高められます。メカトロニクス技術は、機械・電気・情報分野と広範囲に渡って幅広い知識が求められるため、その知識を身につけるには多くの時間と費用がかかります。 
 
メカトロニクスでは、メカニズム、アクチュエータ、センサ、エレクトロニクス、制御技術の5つのコアが要素技術です。機械の知能化を実現するメカトロニクスにおいて、要素技術としてのアクチュエータと管理・制御技術としてのシステム工学の手法を理解する必要があります。今回は、このような背景を踏まえて、メカトロニクスの概要を解説します。 

 

1. メカトロニクス(Mechatronics)とは 

メカトロニクスは、精密な機械を高度なプログラミングで制御し、繊細で複雑な作業を可能にする技術群の総称です。メカトロニクスとは,メカニズムとエレクトロニクスが融合された技術であり、要素技術には、機械要素、機構、センサ、コンピュータ、情報に加え、アクチュエータがあります。 
 
アクチュエータとは、人体に例えれば筋肉に相当する部分で、電気・油圧・空気圧などからエネルギーを得て、回転運動や直進運動など、モノを動かす力を発生する装置です。電気系アクチュエータの代表は電動モータで、機械系アクチュエータの代表は空気圧機器です。 
 
また、これら要素技術をシステムとして管理・制御する学問にシステム工学があります。システム工学では、システム計画技法の代表例である予測技法、構造化技法、評価技法、管理技法と、システムの最適化技法である線形計画法と割当法について学ぶことで、メカトロニクスの理解が深まります。 
 

2. メカトロニクスの構成要素 

メカトロニクスとは、高度な価値を産み出すものづくりを指し、メカニカル(機械)とエレクトロニクス(電気電子・制御)が一体となった日本の造語ですが、メカトロニクスの構成要素を考えると異分野間の融合技術と言えます。したがって設計者は、機械や電気、情報(制御のためのソフトウェア)の組み合わせを選定しながら一つに淘汰し、それをさらに高度な製品へと変えていくのです。 
 
そこで重要となるのは、対象の製品において付加価値機能をどこで見出すかという視点です。メカトロニクスの構成要素は、多岐にわたるので物事を多角的に見る力と、そこからの統合力が求められます。

 

 3. メカトロニクスの面白さとは 

産業機械の組立や加工には「ニゲ(逃げ)」という設計手法があります。機械は、凸凹を使って部品と部品を締結し、組み立てるのが基本です。そこで、「嵌合(かんごう)による干渉」すなわち、同じ凹の穴に同じ凸の軸を挿入できないことです。これは、工作精度によるもので、小さすぎるとうまく入らずに部品を傷つけてしまい、大きすぎると締結したときにガタついて、凸凹が機能しなくなります。しかも、部品の寸法には必ず製作誤差、バラツキがあります。 
 
部品点数が多くなればなるほど、図面通りに組み立たてができず大騒ぎとなるわけです。これらを解決する手段の一つに「ニゲ」があります。ロボティクスに搭載される軸受は「ニゲ」を設けないと高精度に仕上げられません。また切削加工では、内角部の「ピン角」という不可能な形状加工があります。勘合部品で、隅アールが許容できない場合はニガシ形状を検討し、設計変更します。 
 
このように「ニゲ」を利用してトラブルを回避し、すぐれた機能とコストダウンを図るのがメカトロニクスの面白さです。 

 

4. メカトロニクスの抱える課題 

メカトロニクスは、技術社会の発展に伴ってその内容が日々進歩する学問です。常に最新の社会現象に結びつけてシステム工学的な見地での学習が必要です。また、システム工学の内容の一部は技術者倫理に深く関連するため、技術者がシステム設計に対して負うべき責任を常に念頭におきつつ、各種システム設計技法の修得も必要です。 
 
高度化・情報化時代において、次世代のものづくりに対応するには、その基礎となる機械、電気電子、情報の幅広い技術の習得が欠かせません。この領域をバランスよく統括できるのがゆるぎないメカトロニクスです。AI:人工知能やIoTなどの応用技術は、あくまでもメカトロニクスという骨組みに付加価値をつけるものです。したがって、人手不足がささやかれる中で、どのようなスキルを持った技術者が重宝され、また企業戦略として、どのようなリソース(=人材育成)を強化すればよいかは明確です。しかし、残念ながらメカトロニクスの実践技術をテーマに人材育成を支援している企業は非常に少ないのが現状です。 
 
本来、メカトロニクス...

メカトロニクス

 

産業用機械、ロボットの電子化の土台であるメカトロニクス製品は、メカと電子工学が融合して魅力ある機能が生まれ、制御工学によってその機能の価値が高められます。メカトロニクス技術は、機械・電気・情報分野と広範囲に渡って幅広い知識が求められるため、その知識を身につけるには多くの時間と費用がかかります。 
 
メカトロニクスでは、メカニズム、アクチュエータ、センサ、エレクトロニクス、制御技術の5つのコアが要素技術です。機械の知能化を実現するメカトロニクスにおいて、要素技術としてのアクチュエータと管理・制御技術としてのシステム工学の手法を理解する必要があります。今回は、このような背景を踏まえて、メカトロニクスの概要を解説します。 

 

1. メカトロニクス(Mechatronics)とは 

メカトロニクスは、精密な機械を高度なプログラミングで制御し、繊細で複雑な作業を可能にする技術群の総称です。メカトロニクスとは,メカニズムとエレクトロニクスが融合された技術であり、要素技術には、機械要素、機構、センサ、コンピュータ、情報に加え、アクチュエータがあります。 
 
アクチュエータとは、人体に例えれば筋肉に相当する部分で、電気・油圧・空気圧などからエネルギーを得て、回転運動や直進運動など、モノを動かす力を発生する装置です。電気系アクチュエータの代表は電動モータで、機械系アクチュエータの代表は空気圧機器です。 
 
また、これら要素技術をシステムとして管理・制御する学問にシステム工学があります。システム工学では、システム計画技法の代表例である予測技法、構造化技法、評価技法、管理技法と、システムの最適化技法である線形計画法と割当法について学ぶことで、メカトロニクスの理解が深まります。 
 

2. メカトロニクスの構成要素 

メカトロニクスとは、高度な価値を産み出すものづくりを指し、メカニカル(機械)とエレクトロニクス(電気電子・制御)が一体となった日本の造語ですが、メカトロニクスの構成要素を考えると異分野間の融合技術と言えます。したがって設計者は、機械や電気、情報(制御のためのソフトウェア)の組み合わせを選定しながら一つに淘汰し、それをさらに高度な製品へと変えていくのです。 
 
そこで重要となるのは、対象の製品において付加価値機能をどこで見出すかという視点です。メカトロニクスの構成要素は、多岐にわたるので物事を多角的に見る力と、そこからの統合力が求められます。

 

 3. メカトロニクスの面白さとは 

産業機械の組立や加工には「ニゲ(逃げ)」という設計手法があります。機械は、凸凹を使って部品と部品を締結し、組み立てるのが基本です。そこで、「嵌合(かんごう)による干渉」すなわち、同じ凹の穴に同じ凸の軸を挿入できないことです。これは、工作精度によるもので、小さすぎるとうまく入らずに部品を傷つけてしまい、大きすぎると締結したときにガタついて、凸凹が機能しなくなります。しかも、部品の寸法には必ず製作誤差、バラツキがあります。 
 
部品点数が多くなればなるほど、図面通りに組み立たてができず大騒ぎとなるわけです。これらを解決する手段の一つに「ニゲ」があります。ロボティクスに搭載される軸受は「ニゲ」を設けないと高精度に仕上げられません。また切削加工では、内角部の「ピン角」という不可能な形状加工があります。勘合部品で、隅アールが許容できない場合はニガシ形状を検討し、設計変更します。 
 
このように「ニゲ」を利用してトラブルを回避し、すぐれた機能とコストダウンを図るのがメカトロニクスの面白さです。 

 

4. メカトロニクスの抱える課題 

メカトロニクスは、技術社会の発展に伴ってその内容が日々進歩する学問です。常に最新の社会現象に結びつけてシステム工学的な見地での学習が必要です。また、システム工学の内容の一部は技術者倫理に深く関連するため、技術者がシステム設計に対して負うべき責任を常に念頭におきつつ、各種システム設計技法の修得も必要です。 
 
高度化・情報化時代において、次世代のものづくりに対応するには、その基礎となる機械、電気電子、情報の幅広い技術の習得が欠かせません。この領域をバランスよく統括できるのがゆるぎないメカトロニクスです。AI:人工知能やIoTなどの応用技術は、あくまでもメカトロニクスという骨組みに付加価値をつけるものです。したがって、人手不足がささやかれる中で、どのようなスキルを持った技術者が重宝され、また企業戦略として、どのようなリソース(=人材育成)を強化すればよいかは明確です。しかし、残念ながらメカトロニクスの実践技術をテーマに人材育成を支援している企業は非常に少ないのが現状です。 
 
本来、メカトロニクスは、自動車、工作機械、精密機器、ロボットなどの用途にフォーカスして、機械・電気・情報の3要素を統合するという見方が重要なのですが、50年前に、機械と電気が主流の頃に日本で作られた「メカトロニクス」という造語は、その言葉を発祥させた工場内の自動化という用途に大きく牽引されていて、メカトロニクスの役どころは、メカトロ=生産技術として、いまだに定着されている点が今日のメカトロニクスの抱える課題です。 
 
最近では、ロボット、情報が主流となってきていることから、メカトロニクスを「システムインテグレーション」と呼んで、刷新されつつありますが、その時の時代が求めることやその時の技術の流行によって名前が変わる点もメカトロニクスの難しさではないでしょうか。 

 

 

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この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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