テーマ選択時の実践項目 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その90)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 

◆ 重要な決定を選択時に注意したい認知バイアスとは

 今回は「戦略や開発テーマなど重要な決定では、認知バイアスに注意し、多角的な分析・討議を行うこと」を解説します。

 皆様は、新規事業の方針や開発テーマなどを決める時、どんなことを意識していますか?

 市場ニーズや保有技術の有効活用といった視点から、分析結果にもとづき、選定していると思います。既定路線に限らず自社の方針を決定する際は、より一層の多角的な判断が重要です。

 多角的な判断を阻害する要因として、認知バイアスがあります。認知バイアスとは、直感や過去の経験をもとに先入観を持つことで、偏りがある非合理的な判断をする現象です。では、実際の開発現場で起こった認知バイアスの例を紹介します。

1. 競合分析、開発活動

【事例1. 競合分析】

 世界シェア1位を獲得していた電機メーカーがありました。当然、開発現場の士気は高く、技術に対する自負もあり、当分はこのままシェアを独占するだろうと言われていました。ある時、新規参入して間もないメーカーのサンプルを入手し、ベンチマーキングを行いました。

 しかし当時の開発現場には、新参者に我々の技術を超えることは不可能だという考えが根深く、簡易検査に終始したのです。結果、数年後にはシェアを取られ、いまだ同じ状況が続いています。これは、自社が世界No.1であり続けるであろうという先入観が働き、まともにベンチマーキングをしなかったことが要因の一つといえるでしょう。

【事例2. 開発活動】

 日常の開発現場でも同様の事例がありました。あるメーカーでは既存事業が売り上げの約半分を担っていました。

 新規事業担当の開発組織が既存事業と新規事業の両方で活用できる、つまり全社メリットがある技術開発テーマを提案しましたが、稟議が通りません。ここでも直近の利益をもたらす技術・開発担当者の方が、新規技術・開発担当者よりも優れているはずだという先入観が働きました。

 もちろん提案の仕方や時期が悪いといった他の要因もありますが、先入観が働いているか否かは直感的にわかるものです。この場合、決裁者は相手の肩書やキャリア、現時点での事業貢献度に限らず、聴く耳を持った上で客観的に判断する必要があります。

 

2. 戦略や開発テーマを選択時の実践項目

 最後に戦略や開発テーマを選択するにあたって、後悔しないために実践してほしい項目を紹介します。

①反対意見を入れる。

 一つの意見に多数の賛成者が集まるのであれ...

技術マネジメント

 

◆ 重要な決定を選択時に注意したい認知バイアスとは

 今回は「戦略や開発テーマなど重要な決定では、認知バイアスに注意し、多角的な分析・討議を行うこと」を解説します。

 皆様は、新規事業の方針や開発テーマなどを決める時、どんなことを意識していますか?

 市場ニーズや保有技術の有効活用といった視点から、分析結果にもとづき、選定していると思います。既定路線に限らず自社の方針を決定する際は、より一層の多角的な判断が重要です。

 多角的な判断を阻害する要因として、認知バイアスがあります。認知バイアスとは、直感や過去の経験をもとに先入観を持つことで、偏りがある非合理的な判断をする現象です。では、実際の開発現場で起こった認知バイアスの例を紹介します。

1. 競合分析、開発活動

【事例1. 競合分析】

 世界シェア1位を獲得していた電機メーカーがありました。当然、開発現場の士気は高く、技術に対する自負もあり、当分はこのままシェアを独占するだろうと言われていました。ある時、新規参入して間もないメーカーのサンプルを入手し、ベンチマーキングを行いました。

 しかし当時の開発現場には、新参者に我々の技術を超えることは不可能だという考えが根深く、簡易検査に終始したのです。結果、数年後にはシェアを取られ、いまだ同じ状況が続いています。これは、自社が世界No.1であり続けるであろうという先入観が働き、まともにベンチマーキングをしなかったことが要因の一つといえるでしょう。

【事例2. 開発活動】

 日常の開発現場でも同様の事例がありました。あるメーカーでは既存事業が売り上げの約半分を担っていました。

 新規事業担当の開発組織が既存事業と新規事業の両方で活用できる、つまり全社メリットがある技術開発テーマを提案しましたが、稟議が通りません。ここでも直近の利益をもたらす技術・開発担当者の方が、新規技術・開発担当者よりも優れているはずだという先入観が働きました。

 もちろん提案の仕方や時期が悪いといった他の要因もありますが、先入観が働いているか否かは直感的にわかるものです。この場合、決裁者は相手の肩書やキャリア、現時点での事業貢献度に限らず、聴く耳を持った上で客観的に判断する必要があります。

 

2. 戦略や開発テーマを選択時の実践項目

 最後に戦略や開発テーマを選択するにあたって、後悔しないために実践してほしい項目を紹介します。

①反対意見を入れる。

 一つの意見に多数の賛成者が集まるのであれば、あえて反対意見を加え、分析や議論を行います。反対派、賛成派を半分ずつアサインして進めるとよいでしょう。単に反対、賛成ではなく条件付き賛成派など多角的に分析を行うことで納得性が得られます。

②中立的な立場の人を入れる。

 賛否様々な分析結果を元に議論する場では、中立の人をアサインします。残念ながら正式な稟議の場では、決裁者であっても多少の認知バイアスがかかるものです。このような場合、提案者、決裁者の他に他部門などの中立者が出席し、場をまとめることが有効です。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

川崎 響子

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
リスクマネジメントは身近な問題

1.身近なリスク    電車から突き落とされ亡くなったり、通り魔に次々襲われたり、やってないのに痴漢あつかいされ拘留されたりするなど、耳を疑...

1.身近なリスク    電車から突き落とされ亡くなったり、通り魔に次々襲われたり、やってないのに痴漢あつかいされ拘留されたりするなど、耳を疑...


技術戦略はなぜ必要なのか 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その53)

        今回は「技術戦略はなぜ必要なのか」というタイトルで記事を進めます。    この...

        今回は「技術戦略はなぜ必要なのか」というタイトルで記事を進めます。    この...


恐れずに目標設定をするための仕組みとは 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その60)

◆ 不明確な状況であってもゴールを設定する 1. 不明確はデフォルト  先日コンサルティング現場で次のような事例を目にすることがありました。  ...

◆ 不明確な状況であってもゴールを設定する 1. 不明確はデフォルト  先日コンサルティング現場で次のような事例を目にすることがありました。  ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
チーム力を活かす設計ルームのレイアウトとは

   今回は、金型メーカーに限らず、機械設備メーカーなども含め、設計室(設計ルーム)でチーム力を活かすレイアウトについて解説します。 &nb...

   今回は、金型メーカーに限らず、機械設備メーカーなども含め、設計室(設計ルーム)でチーム力を活かすレイアウトについて解説します。 &nb...


システム設計4 プロジェクト管理の仕組み (その36)

 前回はシステム設計を、開発工程上はシステムエンジニアリングと、ハードやソフトなどのサブシステムのエンジニアリングの両方と定義しました。ここで、システムエ...

 前回はシステム設計を、開発工程上はシステムエンジニアリングと、ハードやソフトなどのサブシステムのエンジニアリングの両方と定義しました。ここで、システムエ...


進捗管理可能なソフト開発計画 プロジェクト管理の仕組み (その6)

 前回のその5:ソフト開発計画の作成方法に続いて解説します。    製品機能に対するソフトウェアの各モジュールが実装すべき処理(内部機能)が...

 前回のその5:ソフト開発計画の作成方法に続いて解説します。    製品機能に対するソフトウェアの各モジュールが実装すべき処理(内部機能)が...