: 生産情報の整流化でムダ取り JIT(その7)

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トヨタ生産方式

【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:情報の入り口から出口までの全体の流れがわからない

 工場の入り口から出口までのモノの流れは、順を追っていくと現物である仕掛が見えるので、大体の流れもイメージできます。これによりどの工程で停滞があるのか、前後工程に異常があるかとか問題も把握できます。しかし特に生産計画の前の情報の流れはまったく見えないばかりか、すべての流れを把握している人が非常に少ないのが多くの工場の実態です。

 さらに入り口である受注の情報において、特殊品があれば標準に対してどこをどのように修正すべきかが正確にわかったうえで、後工程に伝える必要があります。そして設計変更、仕様書の変更、生産計画への投入、仕入先への材料発注、生産指示、協力工場への生産指示などが必要となります。近年は標準品ではなく、特殊品が増えているので、その取扱いは変更が伴い、正確を期するために仕様確認ではさらに手間が掛かっています。

 多くの工場での体験ですが、工場全体の流れや全体像を知らない、また前後の関連がわからない、さらには工場のボトルネックもわからないという有様なので、何時まで経っても根本的な対策を打てないのが現状です。情報はモノとは違い、紙やPCのデータ内にあり、量の多さを余り実感できないので、停滞があっても気にならなくなります。

 またモノは錆びたり変色したりしますが、情報においてはそのようなことはなく、机で作業する人たちは情報が停滞していても“我関せず”です。さらには早く次に情報を回そうともせず、正確な情報が後工程である生産現場に伝わらないので、現場はさらに混乱してしまいます。全体像が把握できないと、このような病状を抱えてしまうのです。

 

2.JIT:帳票をすべて並べて整理整頓し簡素化する

 社内に一体どれほどの種類の帳票があるでしょうか?入り口の受注から順番に収集していくことをお勧めします。決められたもの以外に、個人で勝手に工夫したものもすべて集めてみます。チェックリストや連絡メモなども帳票の項目に不足や補充が必要なために作成されたものなので、これらも収集します。実際に記入したもののコピーも取ります。人によっては記入方法も違い、また帳票を使う人もいれば、使わない人もいるので、使わない人には何故使わないのか、使いづらいのかなどもヒアリングしてまとめます。ついでに各机の周囲、引き出しや棚の中も写真撮影しておきます。

 どれだけの帳票があるか誰もわからないほど、工場内には玉石混交の帳票類が多く存在します。並べてみるとその工程間ではわかりますが、他の部門から見ると理解できないものがあります。前後の関連だけを見て、帳票の数はその場で勝手に増殖してしまい、部門毎に作成して、それで自己満足していることも稀ではありません。

 また何故最下部に一番重要な情報があるのか、必要な情報がこんなに小さく見づらいかなど、このようなことで間違いや勘違いをしてしまうのは、本当に馬鹿らしいものです。情報の流れに一貫性がないことに、多くのムダ取りの宝が隠されています。これらの情報の手直しや再確認をすれば、また停滞時間が延びてしまいます。次から次と帳票への転記もあり、その作業は非常にミスを犯しやすくなっていきます。

 

3.JIT:情報の流れを整流化して多くのムダを取っていく

 すべての情報の流れに沿って、入り口から出口まで工程ごとに並べ替えていきます。よくもこれだけというように驚くほど種種雑多な帳票が並びます。この異様な光景の共有化が改善の始まりになるので、関係者全員で確認することが大切です。

 これより情報の整流化を始めますが、一枚の帳票で入口から出口までできればよいのですが、すぐには無理です。できるだけシンプルになるようにダブりをなくし、見やすく、工程の順番に沿って流れるようにして、帳票を簡素化していきます。工場のレイアウト変更は設備などがあり大変ですが、情報の整理整頓は比較的簡単です。

 帳票は、転記をなくし工程順の流れに沿って確認項目があれば間違いが少なくなります。関係者を集めて彼らに実態を把握させて、どれだけやりにくいかを知ってもらいます。合わせて全体の流れがどのようになっているか、どの工程の情報が複雑になっているか、停滞が多いかなどを一緒に共有化することが、次の打ち手を出しやすくなっていきます。自分たちで確認し、自分たちでやろうと決めたことは守りやすいものです。

 複雑なものもありますが、例外はなるべくなくしていき、簡素化をキーワードとして心掛けます。生産側との調整も積極的に行うことで、現場からもアイデアが出やすくなり、その取組みは是非上司から仕掛けて欲しいものです。一度で良くなるものでもなく、何度も訓練のように繰り返すことで、より良いものができます。

 帳票はA4用紙に統一し、簡素化、共有化、標準化は、これらはバラツキを抑えるものです。バラツキが少なくなることで、異常も少なくなり、マネジメントが非常に楽になっていきます。つまり多くのムダを廃除することになります。今までは縦のマネジメントが強すぎた傾向があり、部門間の壁や横の流れのつながりが希薄であり、今後は横のマネジメントを強化することです。

 これを機会に、情報の流れ(間接部門)のムダについて紹介をしておきます。

①つくり過ぎの...

トヨタ生産方式

【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:情報の入り口から出口までの全体の流れがわからない

 工場の入り口から出口までのモノの流れは、順を追っていくと現物である仕掛が見えるので、大体の流れもイメージできます。これによりどの工程で停滞があるのか、前後工程に異常があるかとか問題も把握できます。しかし特に生産計画の前の情報の流れはまったく見えないばかりか、すべての流れを把握している人が非常に少ないのが多くの工場の実態です。

 さらに入り口である受注の情報において、特殊品があれば標準に対してどこをどのように修正すべきかが正確にわかったうえで、後工程に伝える必要があります。そして設計変更、仕様書の変更、生産計画への投入、仕入先への材料発注、生産指示、協力工場への生産指示などが必要となります。近年は標準品ではなく、特殊品が増えているので、その取扱いは変更が伴い、正確を期するために仕様確認ではさらに手間が掛かっています。

 多くの工場での体験ですが、工場全体の流れや全体像を知らない、また前後の関連がわからない、さらには工場のボトルネックもわからないという有様なので、何時まで経っても根本的な対策を打てないのが現状です。情報はモノとは違い、紙やPCのデータ内にあり、量の多さを余り実感できないので、停滞があっても気にならなくなります。

 またモノは錆びたり変色したりしますが、情報においてはそのようなことはなく、机で作業する人たちは情報が停滞していても“我関せず”です。さらには早く次に情報を回そうともせず、正確な情報が後工程である生産現場に伝わらないので、現場はさらに混乱してしまいます。全体像が把握できないと、このような病状を抱えてしまうのです。

 

2.JIT:帳票をすべて並べて整理整頓し簡素化する

 社内に一体どれほどの種類の帳票があるでしょうか?入り口の受注から順番に収集していくことをお勧めします。決められたもの以外に、個人で勝手に工夫したものもすべて集めてみます。チェックリストや連絡メモなども帳票の項目に不足や補充が必要なために作成されたものなので、これらも収集します。実際に記入したもののコピーも取ります。人によっては記入方法も違い、また帳票を使う人もいれば、使わない人もいるので、使わない人には何故使わないのか、使いづらいのかなどもヒアリングしてまとめます。ついでに各机の周囲、引き出しや棚の中も写真撮影しておきます。

 どれだけの帳票があるか誰もわからないほど、工場内には玉石混交の帳票類が多く存在します。並べてみるとその工程間ではわかりますが、他の部門から見ると理解できないものがあります。前後の関連だけを見て、帳票の数はその場で勝手に増殖してしまい、部門毎に作成して、それで自己満足していることも稀ではありません。

 また何故最下部に一番重要な情報があるのか、必要な情報がこんなに小さく見づらいかなど、このようなことで間違いや勘違いをしてしまうのは、本当に馬鹿らしいものです。情報の流れに一貫性がないことに、多くのムダ取りの宝が隠されています。これらの情報の手直しや再確認をすれば、また停滞時間が延びてしまいます。次から次と帳票への転記もあり、その作業は非常にミスを犯しやすくなっていきます。

 

3.JIT:情報の流れを整流化して多くのムダを取っていく

 すべての情報の流れに沿って、入り口から出口まで工程ごとに並べ替えていきます。よくもこれだけというように驚くほど種種雑多な帳票が並びます。この異様な光景の共有化が改善の始まりになるので、関係者全員で確認することが大切です。

 これより情報の整流化を始めますが、一枚の帳票で入口から出口までできればよいのですが、すぐには無理です。できるだけシンプルになるようにダブりをなくし、見やすく、工程の順番に沿って流れるようにして、帳票を簡素化していきます。工場のレイアウト変更は設備などがあり大変ですが、情報の整理整頓は比較的簡単です。

 帳票は、転記をなくし工程順の流れに沿って確認項目があれば間違いが少なくなります。関係者を集めて彼らに実態を把握させて、どれだけやりにくいかを知ってもらいます。合わせて全体の流れがどのようになっているか、どの工程の情報が複雑になっているか、停滞が多いかなどを一緒に共有化することが、次の打ち手を出しやすくなっていきます。自分たちで確認し、自分たちでやろうと決めたことは守りやすいものです。

 複雑なものもありますが、例外はなるべくなくしていき、簡素化をキーワードとして心掛けます。生産側との調整も積極的に行うことで、現場からもアイデアが出やすくなり、その取組みは是非上司から仕掛けて欲しいものです。一度で良くなるものでもなく、何度も訓練のように繰り返すことで、より良いものができます。

 帳票はA4用紙に統一し、簡素化、共有化、標準化は、これらはバラツキを抑えるものです。バラツキが少なくなることで、異常も少なくなり、マネジメントが非常に楽になっていきます。つまり多くのムダを廃除することになります。今までは縦のマネジメントが強すぎた傾向があり、部門間の壁や横の流れのつながりが希薄であり、今後は横のマネジメントを強化することです。

 これを機会に、情報の流れ(間接部門)のムダについて紹介をしておきます。

①つくり過ぎのムダ:情報収集の過多は万が一の保険仕事、情報のダブり、ムダな情報の産出など。
②在庫のムダ:長い保管期間、情報の澱み、溢れる机や引き出し、情報の墓場など。
③手待ちのムダ:前工程からの情報待ち、情報がすべて揃わない、何をして良いか順番がわからない手待ちなど。
④運搬のムダ:コミュニケーションの不足、部門間や上司と部下との情報の引渡しの効率の悪さ、1日に1回の運搬の頻度の悪さなど。
⑤動きのムダ:不十分な標準化、長時間のモノ探し、作業手順や組み合わせの悪さ、先入れ先出しになっていなく入れ替えが多い、意味のない作業など。
⑥不良手直しのムダ:修正作業、誤解を解くための作業、確認作業、謝罪作業、不良の引渡し(後工程の混乱)、DEL・BSのキーインなど。
⑦加工そのもののムダ:目標や日程がはっきりしない、能力不足、作業の不安、人の能力を上手く活かせない(適応性、配置ミスなど)、課題が不明確、不適切な人の使い方などです。

 これ以外に改善を仕事だと思っていない人にも、改善は仕事の一部であり、毎日ムダを取り付加価値を上げることを、全社員に意識させていく必要があります。キーワードは、つないで考えるです。

 

 次回に続きます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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