MTAと余因子(Ⅰ)

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 MT法の一つ、MTA法(マハラノビス・タグチ・アジョイント法)は、逆行列が存在しない場合の逃げテクでもありました。一方、キーワードである「余因子」についての詳しい説明が、市販本では「数学の本を見てね」と、まさに逃げテクで掲載されておりません。
 最近、MTA法を使いたいということで、コンサルティングを行った際、最初の質問が「余因子」でした。余因子がキーであるのに、これを理解せずに「使え」と言われても、不安になるのは当然です。
 今回は、余因子のさわり部分の説明ですが、このような点を含め、詳しく解説していきます。

 

1.余因子とは?

 ズバリ、行列式の次数を落とす手段です。基本的に行列式は、3次ぐらいまででしたら力ずくで計算できるうえ、2次は必ず、簡単にできます。

 たとえば、2次の行列式は、

 もし、3次や4次、5次…と高次になっていった場合、一つは手計算では複雑を通り越して「不可能」になります。ところが5次、4次、3次、2次としていけば、簡単です。現在は、この計算工数はパソコンで十分計算可能な話なので、大きな意味はなくなりましたが、昔は効果的な方法でした。

 要するに、基本は低次数化です。そのために使うのが余因子です。
 次式は「余因子が形式的にどういう仕組みになっているのか」からの説明です。

 2次の場合は、頭の係数の縦横を外すと、一個の数値になってしまいますが、一個の数値として考えるのでなく、1行1列の行列式と考えましょう。その延長で、最初が3次なら、2次の行列式に変わります。式1に戻って、

 2行2列の行列式の和になった。低次数化している。
 これ以降は、aiyの余因子をbiyと書く場合もあります。
 要は、3次が2次に。()は±1になりますが、符号を含めて余因子といいます。
 ここまでくれば、2次の展開だから容易なわけです。同様、4次も5次も何次でも最終的には、2次(さらには1次)まで、低次数化できるということです。

 次に、もっと大事で、ありがたかったことについて述べます。これも、今はパソコンのおかげで、大きな意味はなくなりましたが「逆行列」の計算です。(逆行列であって、逆行列式という言葉も意味もありません。)また、計算工数の話ではなく、この考え方がMTAと関係してきます(後述することになります)。
 まず、逆行列についてです。なお、行列と行列式は全く違います。名前がよく似ていますし、形もそっくりなので余計、混同しますが、行列式は、最後は1個の数値になるので、方向をもたない、スカラー(単なる数値)です。行列は縦、横にベクトルが並んでいますから、1個の数値ではありません。表の中の数字の集合です。

 2次から、考えます。今更(さら)ですが、私は行列式は[ ]を、行列は(  )で表記しています。

とします。

 まるで、普通の計算の時と同じことが成立して、
AX=Eが成り立つようなXAの逆行列と呼びます(普通の計算ではE=1)。
 地道に、2次の場合で解いてみましょう。

 各成分について計算すると(これも分かっている方が対象)、

 もちろん、分母はゼロでないと仮定。さらに、よくみると、この分母は共通で、行列式を使うと、行列をそのまま行列式として、 [A]と同値ですから、

 行列と対応させると、

となります。については、行列がaの転置(余因子行列という)になっていますので、注意しましょう。品質工学のMTA法の数理説明の本は大抵、転置させていません。ここでは、数学のテキストの表記に従います。なお、MTAでは計算結果は一致しますので、実害はありません。数学の表記の問題です。他の公式との整合を考えると数学上の表記のほう...

 MT法の一つ、MTA法(マハラノビス・タグチ・アジョイント法)は、逆行列が存在しない場合の逃げテクでもありました。一方、キーワードである「余因子」についての詳しい説明が、市販本では「数学の本を見てね」と、まさに逃げテクで掲載されておりません。
 最近、MTA法を使いたいということで、コンサルティングを行った際、最初の質問が「余因子」でした。余因子がキーであるのに、これを理解せずに「使え」と言われても、不安になるのは当然です。
 今回は、余因子のさわり部分の説明ですが、このような点を含め、詳しく解説していきます。

 

1.余因子とは?

 ズバリ、行列式の次数を落とす手段です。基本的に行列式は、3次ぐらいまででしたら力ずくで計算できるうえ、2次は必ず、簡単にできます。

 たとえば、2次の行列式は、

 もし、3次や4次、5次…と高次になっていった場合、一つは手計算では複雑を通り越して「不可能」になります。ところが5次、4次、3次、2次としていけば、簡単です。現在は、この計算工数はパソコンで十分計算可能な話なので、大きな意味はなくなりましたが、昔は効果的な方法でした。

 要するに、基本は低次数化です。そのために使うのが余因子です。
 次式は「余因子が形式的にどういう仕組みになっているのか」からの説明です。

 2次の場合は、頭の係数の縦横を外すと、一個の数値になってしまいますが、一個の数値として考えるのでなく、1行1列の行列式と考えましょう。その延長で、最初が3次なら、2次の行列式に変わります。式1に戻って、

 2行2列の行列式の和になった。低次数化している。
 これ以降は、aiyの余因子をbiyと書く場合もあります。
 要は、3次が2次に。()は±1になりますが、符号を含めて余因子といいます。
 ここまでくれば、2次の展開だから容易なわけです。同様、4次も5次も何次でも最終的には、2次(さらには1次)まで、低次数化できるということです。

 次に、もっと大事で、ありがたかったことについて述べます。これも、今はパソコンのおかげで、大きな意味はなくなりましたが「逆行列」の計算です。(逆行列であって、逆行列式という言葉も意味もありません。)また、計算工数の話ではなく、この考え方がMTAと関係してきます(後述することになります)。
 まず、逆行列についてです。なお、行列と行列式は全く違います。名前がよく似ていますし、形もそっくりなので余計、混同しますが、行列式は、最後は1個の数値になるので、方向をもたない、スカラー(単なる数値)です。行列は縦、横にベクトルが並んでいますから、1個の数値ではありません。表の中の数字の集合です。

 2次から、考えます。今更(さら)ですが、私は行列式は[ ]を、行列は(  )で表記しています。

とします。

 まるで、普通の計算の時と同じことが成立して、
AX=Eが成り立つようなXAの逆行列と呼びます(普通の計算ではE=1)。
 地道に、2次の場合で解いてみましょう。

 各成分について計算すると(これも分かっている方が対象)、

 もちろん、分母はゼロでないと仮定。さらに、よくみると、この分母は共通で、行列式を使うと、行列をそのまま行列式として、 [A]と同値ですから、

 行列と対応させると、

となります。については、行列がaの転置(余因子行列という)になっていますので、注意しましょう。品質工学のMTA法の数理説明の本は大抵、転置させていません。ここでは、数学のテキストの表記に従います。なお、MTAでは計算結果は一致しますので、実害はありません。数学の表記の問題です。他の公式との整合を考えると数学上の表記のほうが理解しやすいです。
 ここで、もう一つ注意すべきは、通常の方程式の場合同様、の行列式がゼロでは、は存在できないので、[A]≠0が逆行列存在の条件で正則行列といいます。
 次の場合にも、以上のことは水平展開できます。また、今後は行列の逆行列をA-1と書くこともあります。

 余因子を使うと、低次数化により、逆行列も計算しやすいことを確認してみましょう。

 赤字部が余因子の利用箇所です。余因子のおかげで、次数が低くなり、計算しやすくなります。漸次、次数低減していけば、必ず、行列式も逆行列も求められるということです(存在するとして、です)。
 今回は、余因子の役割である低次数化を説明いたしました。

 

 次回は、マハラノビス距離とのかかわりについて解説します。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

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この記事の著者

村島 繁延

QCDはバランスさせるものではなく、全て両立させるものだという信念で向かいます。一石三鳥を狙った成果を目指します。

QCDはバランスさせるものではなく、全て両立させるものだという信念で向かいます。一石三鳥を狙った成果を目指します。


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