関係性の種類、協調とは 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その98)

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技術マネジメント

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。前回は「対立」について考えました。「対立」があればその反対の「協調」もあることになりますので、今回はこの「協調」について考えてみます。

 

1.「協調」とは何か

 まず協調とは何かですが、辞書を引くと「互いに協力し合うこと。特に、利害や立場などの異なるものどうしが協力し合うこと」(Goo辞書)などとあります。また似たような概念の「調和」は「全体がほどよくつりあって、矛盾や衝突などがなく、まとまっていること。また、そのつりあい」(同書)、さらに類似概念の「親和」は「互いになごやかに親しむこと。なじみ、仲よくなること。異種の物質がよく化合すること」(同)などとあります。

 そこで私は「協調」を「異なる立場や性質を持つもの同士が、他方に対し調和的・親和的立場をとる状態」と定義することとしました。

 

2.「協調」からどうイノベーションを生み出すか

 協調というキーワードから、どうイノベーションを生み出すかについてですが、大きくは2つの考え方があると思います。

 一つは、従来協調関係にない状態、特に対立の関係を解消し、協調関係を生み出すこと。もう一つが、既存の低位の「協調」関係(平衡状態)を壊すことです。後者は、あえて対立を生み出し、両者やそれらの置かれた環境全体にダイナミズム(カオス)を生み出すこと、またさらには、そこからより上位の協調関係に至らしめることを狙うものです。

(1)従来協調関係にない状態、特に対立の関係を解消し、協調関係を生み出すこと

 これはまさに前回「止揚(しよう)」という言葉で説明した部分です。

 もちろん「止揚」は簡単ではありません。複数のプレーヤーが関わる意思決定の研究分野に「ゲーム理論」があります。その中でよく出てくるモデルに「囚人のジレンマ」[1]があります。

 「囚人のジレンマ」は、2人のプレーヤー(この場合囚人)がいた場合、独立して個別最適な意思決定をした場合、両者協調して意思決定した場合より、そこから得られる利得は小さくなってしまうというものです。

 これは直観的にも、また個別最適より全体最適などといわれるように皆さんも認識され、納得できる事実ではないかと思います。また、自己のみを見て創出されたオプションの数に比べ、自己のみだけでなく相手も考えて創出されるオプションの数は当然多くなるので、最終の意思決定では、最悪でも自己のみを考えたオプションを取れば良く、より大きな利得を得る可能性が高くなります。

 

(2)オープンイノベーションは「協調」により1+1を100にすること

 前回議論した「対立」では、1+1 < 2 ということになるのですが、現実には-100にもなり得ます。たがいに、対立をすることで、相手に大きな損害を与えることもあるからです。

 その一方で「協調」は、1+1 > 2 となるのですが、「対立」とは逆に、互いに協力し合うことで 100にもなりえます。まさに、これがオープンイノベー...

技術マネジメント

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。前回は「対立」について考えました。「対立」があればその反対の「協調」もあることになりますので、今回はこの「協調」について考えてみます。

 

1.「協調」とは何か

 まず協調とは何かですが、辞書を引くと「互いに協力し合うこと。特に、利害や立場などの異なるものどうしが協力し合うこと」(Goo辞書)などとあります。また似たような概念の「調和」は「全体がほどよくつりあって、矛盾や衝突などがなく、まとまっていること。また、そのつりあい」(同書)、さらに類似概念の「親和」は「互いになごやかに親しむこと。なじみ、仲よくなること。異種の物質がよく化合すること」(同)などとあります。

 そこで私は「協調」を「異なる立場や性質を持つもの同士が、他方に対し調和的・親和的立場をとる状態」と定義することとしました。

 

2.「協調」からどうイノベーションを生み出すか

 協調というキーワードから、どうイノベーションを生み出すかについてですが、大きくは2つの考え方があると思います。

 一つは、従来協調関係にない状態、特に対立の関係を解消し、協調関係を生み出すこと。もう一つが、既存の低位の「協調」関係(平衡状態)を壊すことです。後者は、あえて対立を生み出し、両者やそれらの置かれた環境全体にダイナミズム(カオス)を生み出すこと、またさらには、そこからより上位の協調関係に至らしめることを狙うものです。

(1)従来協調関係にない状態、特に対立の関係を解消し、協調関係を生み出すこと

 これはまさに前回「止揚(しよう)」という言葉で説明した部分です。

 もちろん「止揚」は簡単ではありません。複数のプレーヤーが関わる意思決定の研究分野に「ゲーム理論」があります。その中でよく出てくるモデルに「囚人のジレンマ」[1]があります。

 「囚人のジレンマ」は、2人のプレーヤー(この場合囚人)がいた場合、独立して個別最適な意思決定をした場合、両者協調して意思決定した場合より、そこから得られる利得は小さくなってしまうというものです。

 これは直観的にも、また個別最適より全体最適などといわれるように皆さんも認識され、納得できる事実ではないかと思います。また、自己のみを見て創出されたオプションの数に比べ、自己のみだけでなく相手も考えて創出されるオプションの数は当然多くなるので、最終の意思決定では、最悪でも自己のみを考えたオプションを取れば良く、より大きな利得を得る可能性が高くなります。

 

(2)オープンイノベーションは「協調」により1+1を100にすること

 前回議論した「対立」では、1+1 < 2 ということになるのですが、現実には-100にもなり得ます。たがいに、対立をすることで、相手に大きな損害を与えることもあるからです。

 その一方で「協調」は、1+1 > 2 となるのですが、「対立」とは逆に、互いに協力し合うことで 100にもなりえます。まさに、これがオープンイノベーションの狙いです。

 

 次回に続きます。

 

 【用語解説】

 [1]「囚人のジレンマ」:囚人のジレンマ(しゅうじんのジレンマ、英: prisoners' dilemma)とは、ゲーム理論におけるゲームの1つ。お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、というジレンマである。各個人が合理的に選択した結果(ナッシュ均衡)が社会全体にとって望ましい結果(パレート最適)にならないので、社会的ジレンマとも呼ばれる(引用:Wikipediaから、https://ja.wikipedia.org/ 最終更新 2021年3月8日)。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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