データ活用の失敗をデータで判断することのできない人々 データ分析講座(その165)

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データ分析

 

◆データ活用で達成すべき「本来の目的」は何ですか?

 「データを活用し何かしよう」という取り組みは、10年前と比べるとかなり増えています。それは、ビッグデータやAI、データサイエンス、機械学習、DX(デジタルトランスフォーメーション)などのキーワードを旗印に増えています。それが、実証実験などを通し「とらぬ狸(タヌキ)の皮算用」的な本格運用を行ってみたら「思ったほどでもなかった」ということがあります。また、そのままずるずると続けたため、損益計算書上の数字の悪化を招き続けることがあります。今回は「データ活用の失敗をデータで判断することのできない人々」というお話しをします。

【目次】

1. 一度始めたら止められない
(1)何のためにやっているのか
(2)取り急ぎ4つの数字で見てみよう
(3)よくあるケース

2. まずはデータの存在を忘れるところから始めよう

 

1. 一度始めたら止められない

 本格運用した結果、思ったほどでもなかったのであれば、何かしらの修正をすれば済みます。それが修正可能なモノかどうかは重要です。「とらぬ狸の皮算用」上の前提が大きく異なるのであれば、その前提を変えたもとで、どのように修正すればいいのかを検討することになります。それが、どうしようもないものであれば、当然ながら、このデータ活用の取り組みはストップすべきでしょう。

 しかし世の中不思議なもので「一度始めたから」、「始めて3年経つから」、「ITシステムを構築したから」という謎の理由で、続けることを前提に検討したりします。当然の結論として「そのまま続行」という判断が下されます。さらに不思議なことに「そのまま続行」だけが守られ、続行上必要な修正が、あまりなされていないように感じます。要は「一度始めたら止められない」ということです。

(1)何のためにやっているのか

 そのような状況を目の当たりにすると「何のためにやっているのか」と問いたくなります。実際に「何のためにやっているのですか」と問うと「コストダウンのため」、「業務効率のため」、「DXのため」などの回答が得られます。

 要は、DXで業務効率化し無駄を削り取り、筋肉質な組織に生まれ変わり、結果的に無駄なコストを削除するためでしょう。損益計算書上の数字としては、営業利益や事業貢献利益などの数字が改善されるはずです。無駄を削り取り筋肉質になるのですから、何かしらの利益が向上するはずです。問題なのは、何かしらの利益が向上するのではなく、利益を悪化させているからです。

(2) 取り急ぎ4つの数字で見てみよう

 どのようなキーワード(ビッグデータ、AI、データサイエンスなど)を旗印に上げるのかに関係なく、次の4つの数字を見積もってみましょう。

  • データ活用による「売上アップ額」
  • データ活用による「売上ダウン額」
  • データ活用による「コストダウン額」
  • データ活用による「コストアップ額」

 ビッグデータ、AI、データサイエンスなどのデータ活用の取り組みの前後でこの変化をみます。すべての変化が起こるわけではありません。例えば、生産系であれば「コストダウン」と「コストアップ」が起こります。あまり、売り上げを直接的に左右するケースは少ないことでしょう。その場合「売上アップ」や「売上ダウン」は起こせないかもしれません。

 一ついえるのは、データ活用の取り組みは確実に「コストアップ」が起こるということです。人を採用すれば人件費、分析用のツールやシステムを導入すれば、そのコストがアップします。データ活用によって、新たな業務が発生すれば、それはデータ活用による「コストアップ」です。外注や協力会社を利用すれば、その分だけコストアップします。

(3) よくあるケース

 よくあるのが「売上アップ」と「コストダウン」の視点でしか、データ活用の成果をみていないケースです。何もみていないよりましですが、データ活用は確実に「コストアップ」が発生します。ある企業で「コストダウン」と「コストアップ」の金額を比べたら「コストダウンの額」に比べ「コストアップ額」が約10倍になっていたケースがあります。3,000万円のコストダウンのために3億円使っていたという感じです。ほぼ、ツール代と外部コンサルフィーでした。本当に“やばい”ケースはここからです。このような状況を、目の当たりにしても「止められない」のです。他部署のデータ活用を支援する組織が、自分たちの活動をデータで判断していないのです。意味不明です。大企業に多いイメージがあります。このような組織を「データ活用の失敗をデータで判断することのできない人々」と呼んでいます。

 

2. まずはデータの存在を忘れるところから始めよう

 このような「一度始めたら止められない」ケースには、下記のような共通項があります。

  • データ活用で、何かしら成果を出している
  • テーマ選定が「データを何とか活かそう!」という考えからきている
  • マスメディアに取り上げられたり、もしくは外部発表をしている

 先ほどの例ですと、小さいながらも3,000万円のコストカットという成果を出している、そして、社外発表もなされメディアにも取り上げられ取材も受けている。そして、そのテーマが「データを何とか活かそう!」...

データ分析

 

◆データ活用で達成すべき「本来の目的」は何ですか?

 「データを活用し何かしよう」という取り組みは、10年前と比べるとかなり増えています。それは、ビッグデータやAI、データサイエンス、機械学習、DX(デジタルトランスフォーメーション)などのキーワードを旗印に増えています。それが、実証実験などを通し「とらぬ狸(タヌキ)の皮算用」的な本格運用を行ってみたら「思ったほどでもなかった」ということがあります。また、そのままずるずると続けたため、損益計算書上の数字の悪化を招き続けることがあります。今回は「データ活用の失敗をデータで判断することのできない人々」というお話しをします。

【目次】

1. 一度始めたら止められない
(1)何のためにやっているのか
(2)取り急ぎ4つの数字で見てみよう
(3)よくあるケース

2. まずはデータの存在を忘れるところから始めよう

 

1. 一度始めたら止められない

 本格運用した結果、思ったほどでもなかったのであれば、何かしらの修正をすれば済みます。それが修正可能なモノかどうかは重要です。「とらぬ狸の皮算用」上の前提が大きく異なるのであれば、その前提を変えたもとで、どのように修正すればいいのかを検討することになります。それが、どうしようもないものであれば、当然ながら、このデータ活用の取り組みはストップすべきでしょう。

 しかし世の中不思議なもので「一度始めたから」、「始めて3年経つから」、「ITシステムを構築したから」という謎の理由で、続けることを前提に検討したりします。当然の結論として「そのまま続行」という判断が下されます。さらに不思議なことに「そのまま続行」だけが守られ、続行上必要な修正が、あまりなされていないように感じます。要は「一度始めたら止められない」ということです。

(1)何のためにやっているのか

 そのような状況を目の当たりにすると「何のためにやっているのか」と問いたくなります。実際に「何のためにやっているのですか」と問うと「コストダウンのため」、「業務効率のため」、「DXのため」などの回答が得られます。

 要は、DXで業務効率化し無駄を削り取り、筋肉質な組織に生まれ変わり、結果的に無駄なコストを削除するためでしょう。損益計算書上の数字としては、営業利益や事業貢献利益などの数字が改善されるはずです。無駄を削り取り筋肉質になるのですから、何かしらの利益が向上するはずです。問題なのは、何かしらの利益が向上するのではなく、利益を悪化させているからです。

(2) 取り急ぎ4つの数字で見てみよう

 どのようなキーワード(ビッグデータ、AI、データサイエンスなど)を旗印に上げるのかに関係なく、次の4つの数字を見積もってみましょう。

  • データ活用による「売上アップ額」
  • データ活用による「売上ダウン額」
  • データ活用による「コストダウン額」
  • データ活用による「コストアップ額」

 ビッグデータ、AI、データサイエンスなどのデータ活用の取り組みの前後でこの変化をみます。すべての変化が起こるわけではありません。例えば、生産系であれば「コストダウン」と「コストアップ」が起こります。あまり、売り上げを直接的に左右するケースは少ないことでしょう。その場合「売上アップ」や「売上ダウン」は起こせないかもしれません。

 一ついえるのは、データ活用の取り組みは確実に「コストアップ」が起こるということです。人を採用すれば人件費、分析用のツールやシステムを導入すれば、そのコストがアップします。データ活用によって、新たな業務が発生すれば、それはデータ活用による「コストアップ」です。外注や協力会社を利用すれば、その分だけコストアップします。

(3) よくあるケース

 よくあるのが「売上アップ」と「コストダウン」の視点でしか、データ活用の成果をみていないケースです。何もみていないよりましですが、データ活用は確実に「コストアップ」が発生します。ある企業で「コストダウン」と「コストアップ」の金額を比べたら「コストダウンの額」に比べ「コストアップ額」が約10倍になっていたケースがあります。3,000万円のコストダウンのために3億円使っていたという感じです。ほぼ、ツール代と外部コンサルフィーでした。本当に“やばい”ケースはここからです。このような状況を、目の当たりにしても「止められない」のです。他部署のデータ活用を支援する組織が、自分たちの活動をデータで判断していないのです。意味不明です。大企業に多いイメージがあります。このような組織を「データ活用の失敗をデータで判断することのできない人々」と呼んでいます。

 

2. まずはデータの存在を忘れるところから始めよう

 このような「一度始めたら止められない」ケースには、下記のような共通項があります。

  • データ活用で、何かしら成果を出している
  • テーマ選定が「データを何とか活かそう!」という考えからきている
  • マスメディアに取り上げられたり、もしくは外部発表をしている

 先ほどの例ですと、小さいながらも3,000万円のコストカットという成果を出している、そして、社外発表もなされメディアにも取り上げられ取材も受けている。そして、そのテーマが「データを何とか活かそう!」というモチベーションからきている。要は、社内外のデータを活かそうと始めた取り組みで、小さいながらも成果が出た結果「横展開すると数10倍から数100倍になるはずだ!」ということで対外発表したところ、メディア受けもよく、なんと株価まで上げたという感じです。

 この事例から分かるのは「テーマ選定が『データを何とか活かそう!』からきている」というところです。そこが大きな間違いだと、私は感じています。手段であるデータ活用を目的化し、その目的(データを何とか活かそう!)が達成しされていることから、その目的を遺棄することができないのです。

 データ活用という手段が手段のままであれば、データ活用により達成すべき「本来の目的」に近づくために、データ活用という手段にこだわることなく、別の手段へと変化させることができるのではないかと思います。

 本来の目的を達成するためのテーマを選定する時「データを活用しろ!」という指令があっても「まずは、データの存在を忘れ、本来の目的のテーマを考えよう」ということです。その結果、データを活用することもあれば、データを活用しないこともあります。本体の目的を達成する上で、それは本来どちらでもいいはずです。

 

 次回に続きます。

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

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