職場の基本はやはり安全 作業環境:5S、ムダ(その2)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第2回目となります。

◆ 職場の基本はやはり安全

1. まだまだ危険が多い生産現場

 先日、創業して100年という老舗の某工場を訪問しましたが、大型のフォークリフトが猛スピードで構内を走っていて、しかもカーブではタイヤを滑らしながら運転している姿を見掛けました。しかも構内が非常に暗いにもかかわらず、ほとんどのフォークリフトがライトを点灯していませんでした。

 このような状態では、事故が発生しないのかと工場長に問い掛けましたが「今まで何年もやってきたので、特に問題とは感じていない」という返事にガックリしました。この古参の工場長は、定年間近のせいなのか、全く安全への感性が足りませんでした。フォークリフトでの事故は単なる怪我(けが)では済まず、実際に多くの被害を起こしています。

 この工場以外でも、クレーンの玉掛け作業など、生産現場には危険な作業が多く潜んでいます。毎日同じ職場で作業をしているといつの間にか、そのような危険な状態が忘れ去られる環境になってしまうことが、大きな問題になってきています。人の命はテレビゲームのように、リセットボタンを押したら元に戻るものではありません。

 

 ところで日本の自殺者の数は、年間2万人台になっています。また、交通事故死は年間4千人台となっていますが、労働災害では年間に1000人の方が不幸な目に遭っていることを、皆さんはご存じでいらっしゃいますか。

 なんと、毎日どこかで平均3人の方が尊い命をなくされているのです。新聞やテレビの報道では、極々一部しか報道されませんので、一般の人はそんなに労働災害があるとは考えていないだけのことです。有名なハインリッヒの法則ではこの重大事故の影に、中小329件の事故があるといわれています。しかし実際には、統計に集計されない「ヒヤリハット」の小レベル事故が、想像もつかないほどあるはずです。人間は怪我をしても、トカゲのしっぽのように指や手足など、無くしたものが生えてくることは絶対ありません。後悔が残るだけです。

 

2. 5S活動本来目的は、職場の安全確保

 多くの企業のうち、電気産業や軽産業の多くでは「品質第一」のスローガンが工場内の至る所に貼り出してありますが、機械加工や建築現場などの重産業では主に「安全第一」の看板やスローガンが目立ちます。目に見える危険があったり、事故が起こりやすい職場環境であれば「安全第一」が掲げられるはずですが、危険が目の前に迫っていなかったり、扱う物が小さかったりすれば「安全第一」よりも「品質第一」のスローガンになってしまうのです。

 「安全」とは私たちの周りにある空気や水のように、存在することが当たり前過ぎて、つい忘れられやすいものなのでしょう。

 5S活動は多くの企業で実施されていますが、その目的を拝見してみますと、品質や作業環境の向上、従業員のモラル向上、業務の効率化、職場環境の美化、不具合防止などの項目が多く掲げてありますが、肝心な“職場の安全確保”という本来の目的が明確になっているところが少ないことに気付きました。著者が一番アピールしているのが、“職場の安全確保”であり、床の汚れや治工具の角のエッジ、残ったバリのような些細(ささい)なことにも厳しく指摘します。

 このような細かいことは忘れられがちですが、一事が万事でこの些細なことに、神経をもっともっと注いでほしいと願っているのです。著者は板などにエッジが残っていると、そこの従業員の手を握ってそのエッジのところに手の甲を当ててやり「もしこれでオペレータが知らないで怪我をしたら、あなたは責任を持つことができますか?」と質問します。そうすると彼らはすぐに目覚めて、一斉に点検と修理を始めます。

 

 著者が訴えている5S活動のスローガンは「安全で、楽に、しかも楽しく働き甲斐(がい)のある職場にしましょう」というものです。

 まず安全な職場環境を整備することが、最も重要であると考えています。最近は5S活動自体が、活動そのものに重点が置かれてしまい、本来の目的がどこかに行ってしまったことを耳にしますが、もう一度しっかり目的を明確にして取り組むことが必要だと考えています。この活動は誰のためでもなく、そこに毎日働いている人たちの幸せのためなのですから。

 「安全」ということが職場の根底にあって、初めて品質や効率の話題が取り上げられるものだと考えます。ある建設現場では、始業前に全員でラジオ体操をして、朝礼と称して当日の仕事の作業指示や内容の確認と並行し、危険予知などの訓練を毎日実施しているそうです。その時間は30分もかかりますが、そのお陰で全員の意識が向上し、事故や災害の発生はなくなり、しかも終了予定時間よりもいつも早く終え、後片付けや翌日の準備もしっかりでき、職場の雰囲気が非常に良くなったという事例もあります。

 

3. 顧客満足も大事だが、それ以上に従業員満足が大切

 会社のトップとの会話には、顧客満足度を向上させる方針が出てきますが、この顧客満足もこの安全のことと同様に優先度が考えられます。

 直接お客様に向かって「私どもの会社方針は、顧客満足より従業員満足を求めています!」とは、なかなか表明できることではありません。このように一般的に顧客ありきの考え方が先に出てきま...

生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第2回目となります。

◆ 職場の基本はやはり安全

1. まだまだ危険が多い生産現場

 先日、創業して100年という老舗の某工場を訪問しましたが、大型のフォークリフトが猛スピードで構内を走っていて、しかもカーブではタイヤを滑らしながら運転している姿を見掛けました。しかも構内が非常に暗いにもかかわらず、ほとんどのフォークリフトがライトを点灯していませんでした。

 このような状態では、事故が発生しないのかと工場長に問い掛けましたが「今まで何年もやってきたので、特に問題とは感じていない」という返事にガックリしました。この古参の工場長は、定年間近のせいなのか、全く安全への感性が足りませんでした。フォークリフトでの事故は単なる怪我(けが)では済まず、実際に多くの被害を起こしています。

 この工場以外でも、クレーンの玉掛け作業など、生産現場には危険な作業が多く潜んでいます。毎日同じ職場で作業をしているといつの間にか、そのような危険な状態が忘れ去られる環境になってしまうことが、大きな問題になってきています。人の命はテレビゲームのように、リセットボタンを押したら元に戻るものではありません。

 

 ところで日本の自殺者の数は、年間2万人台になっています。また、交通事故死は年間4千人台となっていますが、労働災害では年間に1000人の方が不幸な目に遭っていることを、皆さんはご存じでいらっしゃいますか。

 なんと、毎日どこかで平均3人の方が尊い命をなくされているのです。新聞やテレビの報道では、極々一部しか報道されませんので、一般の人はそんなに労働災害があるとは考えていないだけのことです。有名なハインリッヒの法則ではこの重大事故の影に、中小329件の事故があるといわれています。しかし実際には、統計に集計されない「ヒヤリハット」の小レベル事故が、想像もつかないほどあるはずです。人間は怪我をしても、トカゲのしっぽのように指や手足など、無くしたものが生えてくることは絶対ありません。後悔が残るだけです。

 

2. 5S活動本来目的は、職場の安全確保

 多くの企業のうち、電気産業や軽産業の多くでは「品質第一」のスローガンが工場内の至る所に貼り出してありますが、機械加工や建築現場などの重産業では主に「安全第一」の看板やスローガンが目立ちます。目に見える危険があったり、事故が起こりやすい職場環境であれば「安全第一」が掲げられるはずですが、危険が目の前に迫っていなかったり、扱う物が小さかったりすれば「安全第一」よりも「品質第一」のスローガンになってしまうのです。

 「安全」とは私たちの周りにある空気や水のように、存在することが当たり前過ぎて、つい忘れられやすいものなのでしょう。

 5S活動は多くの企業で実施されていますが、その目的を拝見してみますと、品質や作業環境の向上、従業員のモラル向上、業務の効率化、職場環境の美化、不具合防止などの項目が多く掲げてありますが、肝心な“職場の安全確保”という本来の目的が明確になっているところが少ないことに気付きました。著者が一番アピールしているのが、“職場の安全確保”であり、床の汚れや治工具の角のエッジ、残ったバリのような些細(ささい)なことにも厳しく指摘します。

 このような細かいことは忘れられがちですが、一事が万事でこの些細なことに、神経をもっともっと注いでほしいと願っているのです。著者は板などにエッジが残っていると、そこの従業員の手を握ってそのエッジのところに手の甲を当ててやり「もしこれでオペレータが知らないで怪我をしたら、あなたは責任を持つことができますか?」と質問します。そうすると彼らはすぐに目覚めて、一斉に点検と修理を始めます。

 

 著者が訴えている5S活動のスローガンは「安全で、楽に、しかも楽しく働き甲斐(がい)のある職場にしましょう」というものです。

 まず安全な職場環境を整備することが、最も重要であると考えています。最近は5S活動自体が、活動そのものに重点が置かれてしまい、本来の目的がどこかに行ってしまったことを耳にしますが、もう一度しっかり目的を明確にして取り組むことが必要だと考えています。この活動は誰のためでもなく、そこに毎日働いている人たちの幸せのためなのですから。

 「安全」ということが職場の根底にあって、初めて品質や効率の話題が取り上げられるものだと考えます。ある建設現場では、始業前に全員でラジオ体操をして、朝礼と称して当日の仕事の作業指示や内容の確認と並行し、危険予知などの訓練を毎日実施しているそうです。その時間は30分もかかりますが、そのお陰で全員の意識が向上し、事故や災害の発生はなくなり、しかも終了予定時間よりもいつも早く終え、後片付けや翌日の準備もしっかりでき、職場の雰囲気が非常に良くなったという事例もあります。

 

3. 顧客満足も大事だが、それ以上に従業員満足が大切

 会社のトップとの会話には、顧客満足度を向上させる方針が出てきますが、この顧客満足もこの安全のことと同様に優先度が考えられます。

 直接お客様に向かって「私どもの会社方針は、顧客満足より従業員満足を求めています!」とは、なかなか表明できることではありません。このように一般的に顧客ありきの考え方が先に出てきます。本当はまず始めに、顧客満足以上に、そこで働いている従業員の皆さんの安全や働き甲斐など、従業員満足度を高めていくことが必要と思います。

 機械加工の現場では、工作機械や重量物などを取り扱いますので、危険な要素は多くあります。つい繁忙さにかまけて、安全という基本を忘れることになりますが、トップがもっと関心を持ち、従業員の皆さんの幸せは何かを自問自答し、生産性向上やコストダウンよりももっと重要なことは何かを訴えるべきです。

 

 現場の皆さんが、われわれのために本気になってトップが取り組んでおられると分かれば、行動の形態は全く違ったものになります。やらされていた作業や指示待ち状態から一転して、本当にやりたいと心の底からやりたいと思うようになれば、従業員の皆さんは自ら考え、自ら行動して行く職場に変わると考えます。その結果として、二次的に求めていた品質向上、業務効率向上やコストダウンは、その結果の副産物として出てくるものです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ(その3)製造現場はあかちゃんと同じで手間がかかるもの 」から解説を続けます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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